第12話 朝日の中で愛して。

私の身体は夜明け前に大人に戻った。

いつ戻ってもいいように大人の寝巻きを借りて羽織って清明の腕の中で眠る。


寝る前には「清明、治っても一緒に暮らさない?毎晩清明の腕の中で眠りたいよ」と言ったら「本気?本気なら真剣に考えるけど…」と言ってくれた。


「けどなに?」

「俺でいいの?」


分かり切った質問。

私は分かり切った答え「本気だよ!清明と居たいよ!」と言って清明に抱きついて眠る。


夜明け前、喉が渇き目を覚ますと大人の身体に戻っていた。

前回も喉が渇いたのでお茶を買っておいた。

前は寝ている清明を跨ぐのも一苦労だったが今は軽々と跨げる。


目線が高い。

大人に戻った。

胸も膨らみ、手足も長い。

起きてすぐに着られるようにと清明が枕的に置いてくれた洋服を無視してベッドに戻り清明に抱き付くと清明は抱き寄せてくれて少しすると「ん?」と言って私の手足を探す。


残念、そこは肘でそこはお尻だ。


清明が寝ぼけているので「おはよう清明。私大人に戻ったよ」と声をかけると「ん〜……お帰り小雪」と言って再び眠ろうとする。


こらこらこら。


「ねえ、起きてよ」

「どしたの?何か変?」


この期に及んで心配をしてくれる優しい清明に嬉しくなって抱きついて「私裸だよ」と言うと「服…、風邪ひく。お腹壊すよ」と寝ぼける清明。


「違うよ。私を清明のお嫁さんにしてよ」と呼びかけると「うん。俺でいいの?」と返ってくる。


「してくれる?」

「うん」


まだ半分寝てる。


「私のこと好き?」

「俺はずっと小雪が好きだよ。ただ退屈でつまらない男だから自信がないだけ…。小雪こそいいの?」


この言葉だけでもう我慢できなかった。

私は清明に抱きついて本気のキスをする。


清明は完全に目を覚ますとキスの合間に「小雪?」と声をかけてくる。


「清明、さっき私をお嫁さんにしてくれるって言ったからね?」

「言ったけど…」


だからこれは何だと言う話だろう。


「だから…愛して…朝日の中で愛して」

私はそう言って清明に覆いかぶさった。


清明は震える手で私を抱きしめてキスをする。

初めてじゃないのにと言いながら何度も震える手で…思い通りに動かない手足にもどかしさと恥ずかしさを感じて焦る姿を見て「もう。格好つけなくていいって、私は誰かと比べたりしないよ」と声をかける。


まあ少し比べているけど…。


清明は本当に優しく触れてくる。

そして苦しくないように気を遣ってくれる。


あっという間に時間は過ぎていて行為が終わって2人でシャワー浴びてテレビを点けるとやはり東京は封鎖されていた。


テレビの前で固まって「なに…これ…」と言う清明に「東京封鎖だね。あ、とりあえず大家さんは心配するかも知れないから外出先で帰れなくなったって言いなよ」と私は言う。


これで運が良ければ大家さんはあの太った奴に襲われなくなる。

清明は大家さんに電話で伝えると「気をつけるんだよ」と言ってもらえていた。


「小雪…、まさかこれも夢で見たの?」

「うん。だから封鎖される前に東京を出て清明のお嫁さんになりたかったんだよ」


清明には感謝をされてどうするべきか悩み、ニュースやネットの情報を思い出しながら役所を調べて相談をすると少し待たされた後でウィークリーマンションを手配してもらえた。


着の身着のまま観光に来たことを告げると当座の服の手配までして貰えて「洗濯費用とかは都に請求できますから気兼ねなく使ってください」と言われた。


ここから先は満ち足りた日々だった。


バイト先が消えた私と清明は元の生活に戻れるか心配しながらも婚前の新婚生活を過ごす。


霜月 小雪って名乗っていいかと聞いたら清明は嬉しそうに笑っていた。

東京封鎖で外に出られないあの日々とは裏腹に秩父は何の変化もない。

東京に帰れない人と言うだけであの隔離施設のような暮らしともまた違う2人だけの世界。


私は新居でゴロゴロしながら「清明、ご飯作って」と言うと清明は「何食べたい?」と言った後で「…って配給来るんじゃない?」と聞いてきた。


「…お金出すから作って」

「良いけど、じゃあお弁当にして散策しながら食べようか?」


2人で買い物をして清明のお弁当を持って大きな公園に行く。

東家でお弁当を食べて「清明、昼寝したいかも。膝枕」と言うと「ここで寝たら風邪ひくから帰ろうよ。窓辺で外を見ながらのんびり過ごそうよ」と言われる。


一瞬前の性獣彼氏を思い出してしまったが違う事を信じて帰宅すると清明は本当にスマホでラジオを付けて布団を持ってくるとテーブルにお茶の用意だけして窓辺で寝転がる。


窓の上の方しか見えないが鳥が飛んでいるのが見えて、なんか平和で、ラジオの中では東京封鎖についてリスナーの手紙を読むDJの声が聞こえてきていた。


こうなるとなんか…逆に不安になる。


「清明」

「なに?夜ご飯?」


コイツは私を何だと思っているんだ?


「いや、…てっきりエッチがしたくて帰ってきたのかと…」

「する?」


飄々と返されると照れるしなんか変な流れになる。


「清明が求めてくれるなら良いけど…、朝は…嫌だった?」

「そんな事ないよ。幸せだったよ。足りないと思えば足りないし、足りたと思えば足りたんだ」


なんだそのトンチのような話は?


「わかんない」

「俺は、小雪とは心も通じてると思ってるから、しなくても心の距離は近いから無理に焦ってと言うのがないんだよ。それは俺も男だから横に素敵な彼女がいたら少しは考えるけど、小雪となら窓の外の鳥を見てるだけでも幸せだよ」


その言葉に私は陥落した。

もう堪らず清明に抱きついてキスをして何度も清明の名を呼んで、清明が私の名を呼ぶ度に心も身体も震えた。


清明の言葉を聞いた今思えば性獣彼氏は心が遠かったから必死だったのかも知れない。

それはそうで清明が心のどこかに居た。そう思うと申し訳ない気持ちになった。


行為後、下着姿でダラダラとしていると私に腕枕をしている清明が話しかけてきた。

「小雪」

「なに?」


「夕飯何食べたい?」

「…ねえ、私ってそんなに食いしん坊に見える?」


さっきから食べ物の話ばかりじゃないか。


「美味しいって食べてくれるから嬉しくてさ」

「太ったら責任取ってよね」


「勿論だよ」

「じゃあつくね丼」


「了解。卵黄乗せるよ。白身はつくねに混ぜるね」

「…聞いてるだけでお腹空く。私のつくね何個?」


「あはは、沢山作るよ」

清明はつくね丼と言いながら私の目の前に積まれたつくねを取り放題にしてくれて丼に乗せると甘辛のタレをかけて卵黄を乗せてくれた。

そして万能ネギをふりかけながら「小雪、召し上がれ」と言い、つくねの残りで自分のご飯を食べていた。

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