壊れた世界。

第7話 東京封鎖。

世界は不思議なことと分からないことだらけだ。


1週間経っても大きくならない小雪は俺がバイトから帰ってくると神妙な顔で深呼吸をしてからバイト先に電話をして「1週間経っても握力が戻らないので…はい。すみません」と辞める旨の電話を入れた。


本人は起きたら腕が上手く動かなくて握力が無くなったと言って誤魔化していた。

店長さんからは通院を勧められて小雪は「色々な病院に電話をしてるのですが症状を言うと断られたり、様子を見てと言われて」と言って説明していた。



電話を切った小雪はスマホを放り投げてベッドに飛び込むと「あー…無職だ!」と言って不貞腐れるので俺は「まあ仕方ないよ」と言いながら夕飯の支度を始める。


キッチンでモヤシを洗う俺に小雪が「清明!お嫁さんにして!私家事頑張るよ!」と声をかけてくるので俺は嬉しい気持ちを頑張って隠しながら「本気なら真剣に考えるけどヤケなら冷静になりなよ?」と返事をした。


夕飯を食べて風呂に入って明日からの生活を考えながらさっさと眠った俺達は夜明けに大後悔をする。



明け方、外が騒がしくて目を覚ました俺と小雪は外を走る警察車両から聞こえる「外に出ないでください!パニックにならないでください!テレビ、ラジオ、インターネットを見て情報収集をしてください!」と言う声に「なんだぁ?」と言いながらテレビを付けると明け方の通販番組は休みになっていて代わりに中継で官邸の映像や視聴者提供の映像が流れるニュース番組がやっていた。


話を聞くと東京湾に火の玉が起きてから凶暴化?暴徒化?した人間が大量発生していて無差別に人を襲うから外には出ないでくれと言うもので、視聴者提供の映像は真っ赤に血走った目で襲いかかってくる暴徒をマンションの上から撮った映像が届いていた。


「マジか」と呟く俺に「パニック映画みたい」と合わせる小雪。


「本当、ファンタジーだよね。信じられない」と言いながら小雪を見た俺は「…あー…信じるわ」と言うと小雪は驚いた顔をしたので「小雪…、俺からしたら小雪が一番のファンタジーだよ」と言うと、小雪も自分を思い出して「確かに…、世の中どうなっちゃうんだろうね?」と失笑していた。



大家さんは本当に優しい。

安否確認でノックをしてくれて「開けないでいいからね」と言うと菓子パンや飲み物をドアノブにかけて行ってくれた。

水月だと思っている小雪がいることまで考えてチョコレート菓子までくれていて小雪からは「いい大家さんだからなるべく住みなよ!」と言われたほどだった。



東京都は都市封鎖された。

バイト先も営業停止になる程で、都市封鎖の報が入る前に県外に逃げた人達は自治体の避難所や仮設住宅に身を寄せられたが馬鹿正直に行動自粛を行った人間はバカを見た。


それでもネットなんかは生きていてニュースサイトのトップページは全部この暴徒化のニュースで持ちきりで、自分達は報道だと息巻いて俳優が自粛を無視して出演したニュース番組の生放送中に苦しんで暴徒化した件なんかについてアレコレ書かれていた。


匿名掲示板や短文SNSには普段ならデマだと思いたい宇宙からのウイルス説まで出てきて感染すると殺すしか道はないとあった。


俺達と言えば、まあ安泰は安泰で、備蓄はあったし、質素な食事でも小雪は文句を言わずに「清明といる時で良かった」と笑ってくれていた。


「俺なんて頼りにならないよ?」

「よく言うよ。頼り甲斐に全力を使っていて安心感の塊しかないね」


そんな日々だったが1週間で備蓄が終わると外に出るしか無くなった。

まあ国からの配給が近くの公園で行われているので取りに行くだけなのだが暴徒化した連中が暴れたのか、穴の開いたブロック塀や壊されている家なんかもあり、恐怖感が凄い。


「こ…これは…ヤバいね」と言う小雪に「肩車しとくか?」と聞くと小雪は「頼める?」と言って肩車すると俺の頭にガッチリと捕まる。


配給自体はキチンとやっていて決まった時間に配送車が来てくれて人数を言うと1週間分の食糧を渡してくれた。


やはり異常なのは自衛隊が警備していた事だった。



この帰り道、普段なら20分の距離なのだがいつ暴徒が出てくるか分からない点、そして荷物と小雪を抱えている事で普段より時間がかかってしまった。


それにより俺達は襲われた。


襲ってきたのは目が血走っていて太った男だった。

暴徒化した人間を疑ったが、アイツらは言葉が通じずに襲いかかってくるのに対し、男は食べ物をよこせ、食べ足りないと騒ぎ立てていた。


俺はトラブルを回避する為に俺の分を渡そうとした時に小雪が「ダメ!清明!これは私と清明の分!この人は自分の分を食べればいいの!」と言うと激高して襲い掛かってきた。


俺は生まれて初めて人と戦った。

男は小雪を倒して食べ物を手にしようとしていたので横から蹴り付けると男は「ふーふー」と言いながら狙いを俺に変えて飛び掛かってきた。

体重差は歴然で戦闘経験のない俺でも組まれたらアウトだと理解しているので距離をとりながら相手の手や足を攻撃するが相手は怯まない。


仕方なく顔を殴ってようやく相手が怯んだ隙に小雪を連れて逃げた。

必死に走って家まで逃げると扉に鍵をしてようやく安堵したのか玄関にへたり込んでしまった。


へたり込む俺に小雪が「清明!大丈夫!?」と声をかけてくれる。

「小雪…」としか返事の出来ない俺を必死になって呼びかけてくれる小雪を見ているとどんどん身体は震えてきて「俺…、初めて……ひ……人を殴った…」と言うと小雪は「そうだよ!清明は私を助けてくれたんだよ!ありがとう清明!」と手を掴んで言ってくれる。


その言葉と手の温もりが震える俺を癒してくれて小雪を抱きしめて「小雪」と何度も名前を呼ぶと小雪は「ありがとう清明」「清明は弱い事ないよ。私を助けてくれた」「優しいんだよ」と何回も言いながら抱きしめ返してくれた。


「ごめん。ご飯は作るからそれまでこうしていていい?」

「勿論だよ清明。何回も言うね…ありがとう」


俺の初めての暴力は情けなかったけど小雪が居てくれてよかった。

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