第6話 小雪と清明の一週間。
小雪との1週間はあっという間だった。
翌朝はメープルシロップを飲む言い訳にされたパンケーキに喜び、弁当を用意してバイトに行くと帰ってきた時に小雪は昼寝をしていた。
俺は「ただいま」と言いながら小雪を起こして「退屈だったの?夜寝れる?」と聞くと小雪は可愛らしい仕草で「寝れるよぅ。久しぶりにゆっくりできたから眠くてさ」と言った後で「清明!晩御飯なに!?」と聞いてきた。
「一日中食べてるな」
「おやつ買いに行けないから間食してないよ!」
そんな話で昔を懐かしんで作った肉野菜炒めに小雪は感動する。
次の日の帰りからおやつを買って帰るようにして置いておくと小雪はボリボリと食べながら「お帰り!清明!」と迎えてくれる。
一人暮らしでは味わえない感覚に喜んだが一つのことが気になったので「小雪、昼なんかは食べたらすぐに歯磨きをしてくれ」と言うとポリポリとお菓子を食べながら「なんでー?」と聞き返された。
案の定小雪はわかっていない。
俺が「お前…保険証使えんのだぞ?」と言うと小雪は一瞬の間の後で「ん……あ!?」と言って青ざめた。
「自由診療なんてやれるか?」
「わ…やだ…無理」
慌てて今更お菓子をしまう小雪におかしくなった俺は「歯磨き粉は俺の使える?イチゴ味とかのがいい?」と聞くと小雪はジト目で「そこまで子供扱いしないでよね」と言ってきた。
3日目の夕方、ずっと家なのは良くないと思い買い出しついでの散歩に連れ出したら近くに住む大家さんに会ってしまう。
大家さんは優しげなお爺さんで住まいの周りを掃除したり階段の電気なんかも交換してくれている。
その大家さんに小雪を見られるのはまずいかと思ったのだがここは小雪も本来なら23歳。
「こんにちは!水月です」と小雪ではなく水月として挨拶をして「お兄ちゃんの所にお泊まりに来ました!」と続ける。
俺は「すみません。単身者用なのに妹を…」と話を合わせると大家さんは「いやいや、霜月君は家賃もキチンと納めてくれてますしこうして挨拶もしてくれるから平気ですよ。お隣さんへは私から説明しておきますね」と言ってくれた。
案外小雪との生活は悪くない。
気をつけるのはティッシュなんかの日用品の減りが速くなるのと、水月ならあまり減らない食べ物も小雪はしっかり食べるので食費がかさむと言う事だ。
朝も起きて世話を焼き、行ってらっしゃいで出掛けてお帰りなさいで出迎えて貰える。
相手は勝手知ったる小雪なので仕事の話なんかでも彼女には何があったかを説明してからじゃないと通じないが「あー、それはやだねぇ。じゃあ今食べてるオムレツはその苦労の対価だね。ありがとう清明」とか言ってくれる。
風呂は慣れてしまえばお互いにどうと言うことはなく、「入るよ」「うん」と言って靴下とパンツを持って入り俺が手際よく洗うのを「恥ずかしい」と小雪は見ながら体を洗い、背中を流してやりながら「小雪の力は弱いし手は小さいから仕方ないって、これが俺が5歳児で小雪が23歳ならやってくれてたでしょ?」と言うと「確かに」と返ってくる。
そして湯船に入ると小雪は甘えてくる。
「清明、抱っこ」
「はいはい。おいで」
密着して肩に顎を乗せて「ふぅ〜」と息を吐いて安心している小雪を見ていると確かに小雪のお父さんは早いうちに亡くなったと聞いている。父性への憧れなんかはあったのかも知れない。
そして俺は小雪なのだが小雪というより水月を扱うようにしている。
それは心から懐かない水月を意識しているというか、本来の娘というか妹と過ごしている気になっている。
水月は実のところ懐いていない…と思っている。
会えば玩具を見せてきて幼稚園の話や新しく覚えた歌を歌ってくれたりするし、寝る時は抱き締めると安心するようで抱きついてくる。だが親がいなくなる日に現れて世話をしてくる人でしかない風に見えていた。
歪な状況だが俺と小雪はハマっていた。
1週間目、小雪の顔は暗い。
何で顔が暗いかはわかっている。
同僚とシフトを変わった事で出かける時間が遅くなった俺はキチンと朝食を作る。
朝食を食べた小雪は服をまとめて「ありがとうね清明」と言ってくる。
「帰んの?」
「……約束したし…」
俺自身嫌な不安感や喪失感に襲われていてこのまま小雪を帰したくない気持ちで「もう少し居れば?」と言うと小雪は驚いた顔で「いいの!?」と聞いてくる。
「案外楽しい日々だし、小雪さえ良ければもう少し居れば?」
「ありがとう清明!!」
小雪は抱きついてくるとよほど嬉しかったのか俺の首にキスをしてくる。
「小雪?やめ…くすぐったい!」
「ふふん。清明は首が弱点だよね〜」
「だからやめろって」
「いいじゃん〜。嬉しいし」
なんで弱点を知っているか?
小雪は疲れると肩こりが酷くなる。バイトの休憩時間に肩揉みを頼まれてやったことがある。
小雪もお返しにやってくれたが握力が無いので俺はくすぐったくて笑ってしまったら「ふふーん。清明は首が弱いんだね」とバレてしまった。
俺の首にキスをした小雪は「あ…!キスならできるよ清明!」と「名案!」と言ってきたが「お馬鹿。淫行です」と言って断った。
言われてすぐにプリプリした小さな唇を見た時に心が動かなかったと言えば嘘になる。
かなり揺れ動いた。
でもそれをしたらこの日々を汚してしまう気がしたから淫行で誤魔化した。
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