第4話 小雪のご飯、清明の引っ越し。

飯の世話から風呂の用意を済ませて「ほら、子供はさっさと食べてお風呂入って寝る」と言うと渋い表情の小雪は「うわ、水月ちゃんにもそれやるの?」と聞いてくる。


「やるよ。夜更かしさせると次の日眠そうにするし」

「ここで?でも服も何もないよね?」


小雪は俺の狭い部屋を見回して水月の荷物を探しながら聞いてくるので「やる時は実家に呼び出されてだよ。あの親は定期的にネグレクトしないと死ぬのか水月を置いて出かけるからいいように使われてる」と説明をする。

俺は年に数回、片手で収まらないくらい実家に呼ばれて水月の世話をしている。

その経験があるからこうして小雪の世話も出来る。



「またぁ?と言うかまだ?断りなよ。何の為に家を出たの?」

「まあ水月は被害者だし、毎日じゃないから我慢できる」


俺の言葉に小雪は不服そうに睨んでくる。

言いたい事はわかっている。


いい加減親の呪縛から逃れなさい。

だろう。

後は「水月ちゃんが妹でも清明がそこまで背負う必要はない」辺りだと思う。

現に家を出るまで何回か言われたし、家を出るように最後の一押しをしてくれたのは小雪だ。


一瞬の嫌な空気を飛ばすように「明日は好物のメープルシロップ買ったからそれでホットケーキやったるからさっさと食べて風呂入って寝なさい」と言うと「マジで!?」と喜んで機嫌を直す小雪。


再びのハヤシライスに「美味しい!」と喜んで「やっぱり清明ご飯は美味しいね」と言う小雪。


「2回しか食べた事ないのに…」

「2回もだよ」


そう。親は妊娠と同時に定期的に家事をボイコットした。最初は掃除や皿洗いが回ってくるようになり、しまいには料理も回ってきた。


料理に関しては回ってきたと言うか親父と2人で外食に行っていたのでやるしかなかったと言うのが正しい。


それでバイト先に作った飯の残りを弁当にして行ったら小雪が珍しがり近くの焼肉屋さんの焼肉弁当と交換してくれてお互いにwin-winになった。


「霜月君は料理が上手だね!」

「そう?親からは酷評だよ。野菜の切り方から肉のサイズまで良くそこまで文句が出てくるなって思ったよ」

謙遜でも何でもなく普通にあった出来事として説明をする俺に、小雪は「はあ?作って貰うありがたみがわかってないんだよ」と言って肉野菜炒めを食べて「美味しい!」と喜び、あっという間に食べ終わると「また焼肉弁当が食べたくなったら作ってよ!交換しよう!」と言ってきた。


そう言われたが原価なんてたかが知れている弁当で焼肉屋の弁当と交換なんて海老鯛も良いところで言い出せずにいたら提出物と疲労で限界を迎えた小雪から「お願い、お弁当作ってくれない?外のお弁当食べたくない」と頼まれてつくね丼を作ったら今みたいに「うまっ!美味しい!」と喜んで涙ぐみながら弁当を食べていた。


この頃には「霜月くん睦月さんはやめよう」と言われて「清明と小雪」になった。


だがまあ付き合わなかった。

付き合えなかった。


何回か夢想したこともある。

寝る前に考えて幸せな形は沢山見えたが無理だった。


一つはウチの両親の人間性と小雪は合わない。

小雪は彼氏のところに住み着くがウチの両親は歓迎しない。…許さない。

そしてもう一つは水月が生まれる事で親は世界の中心に居て…俺を本格的に小間使いに認定していた。多分あの時の親は頼りたい時、言うことを聞かせたい時は俺に親だというが、親としての義務を果たさずに居たので、彼女と居られる時間は全て水月に使えと言ってきただろう。

現に言われた。

そして後は小雪はその頃に彼氏を作り住み着いていた。


お互いにあのバイト先は辞めている。

俺は引越しを理由に、小雪は進学による環境の変化が理由だった。


だが連絡は取っていた。

そして水月のことを聞かれ答えた時に引っ越しを諦めかけていた俺に喝を入れて引っ越せるように応援してくれていた。


なんとなく年が離れた妹をもう1人の自分と思ってしまい、見捨てられなくなっていた。


だがそれを聞いた小雪は「そんなの水月ちゃんも嬉しくないよ!大きくなって用済みになった清明はそれから好きなことできるの?間に合うの?引っ越すなら今だよ!私に話した引っ越したい気持ちを思い出すんだよ!」と言ってくれた。


それもあり、俺はようやく覚悟を決めて金を貯めて親の仲が良くて俺をどうでもいいと思っている時期に引っ越しをした。

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