第3話 清明と小雪。

俺が料理を張り切り出して数分後、案の定小雪は「無理しすぎ。張り切らないでいいって」と言って俺の尻を軽く叩いて「清明ご飯は今のままでも美味しいよ」と言ってきた。


「これも清明の悪い癖だよね。水月ちゃんにもそんなにやるの?」

「んー…、会えばやるけどあんまり会ってないし、懐かれてないからなぁ」


水月は俺の妹で今年5歳になる。

俺は水月との事があるから幼女になった小雪の世話も問題なくやれた。


「写真しか見せてくれて無いけど今なら会えるかな?」

「トラブルの種はいらないよ」


「なんでー?今なら同い年くらいでしょ?」

「だからだよ。なんで5歳の妹に5歳になったかも知れない友達を会わせるんだよ」


俺は呆れながら「なんて言うんだ?」と聞くと小雪は少し考えて「隠し子?」と言った。


俺は「意味わからないし鵜呑みにされてトラブルだよ」と言いながら張り切る手を止められずにハヤシライスに添えるサラダまで用意し始める。

確か小雪は生人参を嫌がるから大根のサラダにしよう。



「トラブルねぇ…。清明のご両親にそんな事を言う資格はないと思うけどね」

小雪は本当に好みの距離感で欲しい言葉をくれる。


俺は弱い人間だから言えない部分を小雪が言ってくれる。


「もう、その顔。結局この2年で言えてないなぁ?清明は言いにくくても言っていいんだよ?」

「んー…水月が可哀想で言えね」


「優しいお兄ちゃんは健在だなぁ」

「優しくない。弱いだけだよ」


俺はそう言って鍋にルーを入れると「さて、お茶に…って子供にカフェインってあれか…ココアでも飲む?」と小雪に聞く。


「子供扱いするなよぉ」

「いや、どう見ても子供ですから」

俺は笑いながら子供用のマグカップにココアを入れて小雪に渡した。



はふはふと熱さと戦いながら小雪がココアを飲む。

俺はつい目が離せなくてその顔を見てしまう。


似た言葉でもパートナーだった彼女の言葉と小雪の言葉では全く違う。


小雪の言葉には重みがある。

彼女の言葉はテレビの中の…ドラマ俳優が台本通り喋る言葉で小雪の言葉は本当の小雪の言葉に聞こえる。

彼女の言葉には「意味わかって言ってる?」と思えてしまう軽さが目立ち、小雪の言葉は重く、俺の心の奥深くに届く。


「それは怒っていい奴だよ!言っていいんだよ!」

そう怒った睦月 小雪の言葉は欲しいものばかりで俺はあの日泣きかけてしまった。


それはバイト代の使い道を話した後でなんとなく濁した者同士で話していて小雪は学費、俺は独立資金。若くして独立資金を稼ぐ俺は「なんで?ご両親は健在なんだよね?」と聞かれてなんとなく話をした。


俺は頭は良くない方なので、話していてボロがでるくらいならとそれをそのまま小雪に話した。


「俺の親、何度も別れて再婚してってやっててさ」

「あ…そうなんだ」

聞いてしまって申し訳なさそうな小雪の顔。


「うん。だから子供の頃どうとかそう言う話になるとボロが出るから言うと、親はネグレクトで再婚してる時は普通の家みたいな時間だけど少しすると揉めて別れてってして俺はその間は祖母と暮らすんだ。今はまた親と同居。でも親子感ないし、親は俺を子供と言うより使用人くらいにしか思ってない」

「お父さんお母さんどっちについて行く事になったの?今の話ならお父さん?」


まあ普通の感性ならそうなる。


「前の時は母さん、その前は父さん」

「え?」


「ちなみに今の苗字は霜月。前の苗字も霜月だよ」

「え?」


話が理解できずに困惑する小雪に「ごめん」と謝って話を続ける。


「親とか家の事とか話すの苦手でこんな言い方とか顔になるんだよね。俺の父も霜月で母も霜月。お互い遠縁の親戚同士だからどうとでもなるんだよ。だから毎回出て行く方は違うし、戻ってきて再婚したりする。周りからは面倒だからいちいち離婚するなって言われてるから出て行くと言っても最近は別居だね」

「…うわぁ…霜月君は凄いね。私なんかまだまだだよ」


小雪が目を丸くして俺の顔を見る。

俺は奇異の目かと思ってつい身構えてしまう。


「そう?俺からしたら睦月さんの方が凄いよ」

「そうかな?でもそんな家なら出たくなっても仕方ないよ」


「いや、このままならまだ耐えられたけど…」

「けど?」


「今度親が子供を産むんだ。だから家を出たいんだ」

「…マジで?」


「マジだよ。居場所はあるんだろうけど…保育士としてかな?だから嫌なんだ」

この話に小雪は俺を夕飯に誘ってくれて何時間も心の澱を聞いてくれて最後には「それは怒っていい奴だよ!言っていいんだよ!」と言ってくれた。


本当に心が軽くなって小雪と居る時に泣きかけて、帰り道1人で歩いている時に涙が出た。

俺は本当にあの日救われた。


その事を思い出しながら小雪を見て「んで、この先どうすんの?」と聞く。

小雪はバツが悪そうな顔をすると上目遣いで「治るまでここに居ていい?」と聞いてくる。


「は?治るの?お母さんに電話してみれば?」

「無理、やだよ知らない男の家で擬似親子を強要とか、清明もやでしょ?」


それは確かに嫌だ。

母親も父親も離婚中に別の人とお付き合いしていた事もあって紹介された事もある。

あれは嫌だった。


「でもここ単身者用だしなぁ」

「それこそ妹が遊びにきてますで押し通してよ」


「小雪のバイトは?」

「とりあえず最初は変な病気で押し通して長引くなら一度顔出して謝るかなぁ」


何となく話が見えた俺は「まあ仕方ないけど…とりあえず一週間だけって考えでいくか…。服足りないから買いに行くか」と言って立ち上がると小雪が自分の財布を見せてきて「お金ならあるから使ってねー」と言ってドヤ顔をした。


こうして再度服を買いに行って上から下まで揃える。

案外小雪は楽しんでいて今度は童話のプリンセスの服とか「たはー、子供の頃は子供臭いって言われて買ってもらえなかった奴だ」と言い、レジでは「お兄ちゃんありがとう!」とやってくれやがった。

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