第10話 秩序と神

 翌日、ヴァルマンの街を出た勇者一行はそのまま隣町のメアイアへ向かう。

メサイアは、神を心酔する国で、神を冒涜する行為は許されない。死刑まっしぐら。


この国の魔獣は全てヴァルマン周辺の魔獣とは一線を画す。

全て“神の加護”を受けているからだ。

まあ、その実―――


「ただの魔道具での強化だけどな」

「え? 神の加護ではないのですか?」

「違う違う。メサイアが誇るのは国を覆う城壁と結界。圧倒的な出力と密度を誇るその結界にてあらゆる魔獣の進行を防ぐ。ならば、魔獣の強化をしても問題が無い」

「なんで魔獣の強化をするのよ? 自分たちが危ないじゃない」

「だから、結界があるんだって。結界があるということは、国内は安全。つまり、他国による侵攻を防ぐ手段として魔獣が使われているんだ」

「「なるほど……」」


 これは国王本人から聞いた。

俺が門番とひと悶着あって、入国がめんどくさくなった時に結界を切り裂いたら呼び出された。

んで、一つ悩みを解決する代わりに許してもらうっていう条件で依頼を受けて解決。許してもらえた。

ちなみに、今の結界は千早さんが造った。最強の結界になっちまったぜ。


「で、お前らはなんでここにいるんだ」

「どうせあっちで会うなら、一緒に行った方が早いと思って」

「それに、あのバカは『俺は道中魔獣を狩りながら行く。お前たちもレベリングをしながら来るんだ』ってほざいて先に行ったんだもの。いいでしょう?」

「なにやってんだあいつ」


 馬鹿だな。現実から目を背けたのか。

別にあいつが死のうと知ったこっちゃねえが、あいつの本来の目的、『ハーレム作って楽しい旅にしよう!』はどうなったんだろうな? これじゃあ関わる時間が短くなっているだろうに。

 ああ、あれか? 一緒に戦った時に、「キャー天崎さんかっこいーひゅーひゅー」がされたいのか?

ま、知らんけど。


そんなことを考えていると、いつの間にか着いた。

信仰都市メサイアに。


「さーて、お前らはどうするんだ? いったん狩りに行っとくか? それとも、沙紀にホテルにチェックインしとくか?」

「私たちは先にホテルにチェックインするわ。埋まる前にね」

「そうですね! 彩斗さんはどうされるんですか?」

「帰るけど?」

「「えっ」」

「家なんか数秒で帰れるしな。あと、家じゃないとできないこともあるし。やってみたいことができたんだ」

「分かりました。私たちは色々していますので、どうぞご自由に。本当にありがとうございました!」

「あっ、ついでと言ってはなんだけど、今の浩介の位置がわかるかしら? 結局集合場所も決めていないのよね」

「ん? ちょい待ち」


 目をつぶり、意識を数キロ彼方へ向ける。


居た。


「ここから西に二キロ。進行方向ミスってるぞ。一応迎えに行ってやった方がいい。どんどん西に外れていく」

「馬鹿なのね……? あいつ馬鹿なのね?」

「地図持っているはずなんですけど……あとコンパスも」

「……まあ、あいつの世話は任せた。俺は帰る」

「あっ、うん。それじゃあ」

「また会いましょうね!」

「ああ」


 バチイッ! という音を残し、彩斗はその場から消えた。

今回は足跡が残っていない。本当に器用なやつだ。

さて、私たちはあの馬鹿を迎えに行くとするか。



…………



「せ、成功した……」


 ワープ、テレポート、またの名を瞬間移動。

様々なスキルを合わせ……つっても【虚王輪廻】だけだが、その中のスキルをふんだんに使い、瞬間移動に成功した。

失敗したら地獄の苦しみながら死と再生を味わうだろうからビビってたけど、成功してよかった。最速の移動手段の確立だ。

さてさて、やりたいことというのは、これだ。


「『無限開花』」


キイイイインッ!! パンッ! という軽快な音を鳴らし、俺の目の前に永花が現れる。試したいことというのは、これについてだ。

まずは、破壊不可の空間に行くとしよう。


虚元地獄


ゴオッという音と共に、辺りが暗くなる。否、暗いのではない。黒い。

この空間は、次元の狭間であり、秩序が通じない空間。

【虚理戒壊】と【次元牢獄】、【裁天領域】による混成スキル。勝手に作っただけ。

この世界は壊れることが無いが、使い勝手が悪い。


 まず、この俺の膨大な魔力を半分吸い取る。

これだけの最強スキルを併用しているのだ。こうなるのは当然。

 次に、今この瞬間、元の世界に俺の存在は無い。つまり、神が指定して、“禁忌”とした俺が―――って、これはいいか。つまりは、面倒くさくなる。

 最後に、この空間の解除は俺しかできない。ここに閉じ込めれば、誰も抜け出せない牢獄の完成だ。


 じゃあ、本題に移ろうか。


「みんなは危なくて巻き込みたくなかったからな……『目覚めろ』」


第一の御業


「『百花繚乱』」


 無限の強化は出来ずとも、せめて十回まではしてみる。

永花自体はとてつもないエネルギーをはらんでいるが、この世界には影響がない。思った以上に頑丈だな。破滅エネルギーでも滅ぼせない世界か。面白い。

無の空間で生命エネルギーはどこから? と思うが、俺は知らん。

だいたいニ十回ほどの強化ができたため、次のこともしてみる。


「『開花せよ』」


第二の御業


「『千刃狂乱』」


 一度振るだけで千の太刀が振るわれる御業。座標も時間も指定できる。これを、永花一か所に集める。

千を強大な一にする。

さあ、仕上げだ。


「『咲き誇れ』」


第二の御業


「『神華絢爛』」


 瞬間、俺の体から夥しいほどの魔力が溢れ出し、永花へと集まる。永花自身も、内包された百花繚乱とは別のエネルギーを取り出す。奥義中の奥義。

さあ、準備は整った。


「試してみるか。次元斬りのその先を」


 次元を斬るだけならば、神華絢爛で事足りる。しかし、それでは届かない場所があるのだ。


 神界。神々の住まうところだ。

まあ、住まうって言ってもただいるだけなんだけど。

あいつらが全ての秩序を司る。

秩序=神だ。

つまり、神を滅ぼせば秩序は消え、世界の均衡は崩れる。

そうだな……


響音神(音を司る神だ)を滅ぼすとする。すると、この世から音という音が全て消え、何も聞こえなくなる。

一応、秩序から逸脱している俺は例外だが、一般人は何も聞こえなくなるだろう。

こういうことだ。

そして、俺は神界にいるに用がある。そのために、次元の向こう側にある神界に行きたいんだが……うーん。

斬れば行ける……と思うんだけどなぁ。

まあ、やってみるか。俺が持ってる刀がドゴゴゴゴゴッってうるせえし。


 深呼吸を一つし、構える。そして、大上段斬りを何もない空間へ振った。

次元斬りを超えた―――


「『虚故散花ここちりばな』」


リン―――という鈴を振ったような音が響いた。





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魂を使い、屍に立つ 如月 弥生 @murabitp

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