第8話 魔王
「おー着いた着いた。地味に遠いんだよな。ここ」
そういう彩斗の前にそびえたつのは、魔王城。
人類の敵……とされている、魔王の根城。
本当にいいやつなのに、敵対視されている。可哀そう。
「さて、護衛達に見つかるのはめんどくさいな。【虚王輪廻】」
スウッ……
「よしよし。これで俺はこの世界の誰からも認識されなくなっただろう。【虚王輪廻】の中の【原点消羅】を使ったからな」
【原点消羅】というのは、姿だけでなく、匂い、魔力の流れですらも隠蔽する最強の隠匿系スキルだ。
これを看破できる者はそういない。
さーて、本題はこれからだ。
魔王城・最上階
…………ふむ。暇だな。もうそろそろ彩斗が来る頃だと思ったのだが……
今代の魔王は、歴代の魔王の中でも最強と謳われるほどに強かった。それ故に、同程度の力を持つものが現れないのだ。これすなわち、
しかし、そんな魔王の前にある一人の男が現れた。
『なあ、一つ聞きたいんだけどさ。お前って、人類滅ぼしたいのか?』
『貴様、何者だ?』
人の寝室に忍び込んできては唐突に質問を投げかけてきた。しかも、あらゆる護衛にばれず、何重もある魔王の結界に引っ掛からずに、だ。
この瞬間、魔王は目の前の男の興味を抱いた。『これほどの強者ならば、俺も楽しめるのでは?』と。しかし、
結果は違った。
楽しむどころではなかった。完敗だった。
こちらもそこそこ強いと思っていたのだが、手も足も出なかった。
身体能力強化を全力で掛け、魔王専用の剣を使い、全属性の魔術をもってしてもダメだった。
いや、途中まではよかったのだ。互角だった。
しかし、互いに武器を使い始めてからは可笑しいくらいに力の差が開いていた。なんだあの『永花』という我刀は。俺の我刀だって弱くは無いが、あれほどの出力は出せない。本当に頭のおかしいやつだ。
「おいこら。誰が頭おかしいって?」
「貴様だと言っている。俺が使う我刀は、お前にあっさり叩き折られたしな。というか心を読むな」
「我刀は無限に作れるんだし、いいじゃねえか」
「そういう問題か?」
「そういう問題だ。それより、今日もやるんだろ?」
「ああ。よろしく頼む」
「それと、俺、今日は試したいことがあるんだ」
「ほう? なんだ、言ってみろ」
「魔力を使ってみようと思って」
「……やってみろ。だが、この城は壊すなよ」
「っしゃ」
というわけで城の地下へ行き、二人で何重もの結界を張り、始めることに。
条件
魔王:本気
彩斗:我刀禁止・一部スキル(【虚理戒壊】等)禁止
「始めるか」
「いつでも?」
バゴオオッッ!!
「……フッ!」
「うん。攻撃力上がってるな。ストレスか?」
「そうだろうな。最近ストレスが溜まってるからな!」 ガキン!
「魔王の仕事って大変そうだもんな。一般人には分かんねえわ」 バキッ
「おごっ……」
「もっと本気で来いよ。魔力使えねえだろ」
「……【天魔凌駕】」
その瞬間、馬鹿げているほどの魔力がこの空間にあふれかえる。
体が少し重くなる。圧倒的な密度を内包している魔力により、重力が大きくなっているのだ。
「はっ、いいねいいねえ! 来いよ!」
「手加減はできぬぞ!」
「じゃ、こっちも魔力を開放するぞ」
「来い!」
【天魔凌駕】。それは、虚王輪廻の下位互換だ。
しかし、明らかに違う点が一つ。
「魔力開放術か……面白い技だよな。それ」
「ふっ、大体のものはこれだけで死ぬのだがな……あの余波だけで彼方まで飛ぶからな」
「あ~、いつぞやの勇者はそれで吹き飛んだんだったか?」
「ああ。あいつには期待していたのだがな。がっかりだ」
「じゃ、俺がボコしてやるよ」
「それは止めてくれ」
俺が魔力を使い始める。それは、俺の動き一つ一つがとてつもない威力で行われるというものだ。
「初手はこれだ」
そう言い、目の前で正拳突きをする。すると、衝撃波が発生し、部屋が揺れた。
軽く魔力を使っているだけでこれなのだ。全力で使ったらどうなるか……分かるな?
「おっ、一応回避したか」 パシッ
「後ろからの振り下ろしを見もせずに魔力だけで受け切ったお前には言われたくないがな!」
「そいつはどうも」
「ほめているが褒めてはおらぬ!」
「どっちだよ」
褒めてんじゃねえのかよ。
まっ、そんなことはどうでもいい。大事なのは、どれくらいなら魔力を使ってもいいか、だ。
この俺たちが何重にも張った結界は、その硬さだけでいうとこの世界にも匹敵する。
だから、俺が魔力を使ってこの結界が壊れた場合、実際に使うとこの世界が壊れる場合がある。その実験も含まれているのだ。
「もうちょっと強めで行くぞ!」
「受け切ってやろう!」
体全体に魔力を送る。先程よりも高エネルギーで。
面白半分で、パン! と拍手してみた。すると、
ゴオッ!
「くっ! ただの拍手でっ!」
ただの拍手。それが、衝撃を伴った攻撃にまで昇華する。
しかし、結界は傷一つない。つまり、まだ大丈夫だ。
「もうちょっと……いや、もっと上げるぞ」
「……来い!」
先ほどよりも高エネルギー……それは、永花の百花繚乱状態を彷彿とさせる。
つまり、どういうことか。
こうだ。
「破滅エネルギー……ッ! 魔王! これ、受け止められるか!?」
「無茶を言うな。触れただけで全てを滅ぼす力を、迎え撃てるわけがないだろう。結界も、触れたら即座に消滅するだろう」
「ですよねぇ……!」
さてさて困った。魔力ならば消せるのだが、魔力が変質し、破滅エネルギーとなると俺の支配下には置けない。
ってか、俺が魔力を強めに練ったら破滅エネルギー生まれんの!?
……すべてを消滅させる力で迎え撃つか。
俺は、もう一個(個?)の破滅エネルギーを作り出し、さっきの破滅エネルギーにぶつける。すると、互いのエネルギーがぶつかり、互いに消滅した。
「ふぃ~、焦った~! 放置してたら世界滅ぶよな? 多分」
「コントロールされていない力は、なにに牙をむくか分からんからな。というか、お前ならば何かしらのスキルで対処できただろう」
「【無魔還元】とか、【戦禍荒天】とかか。ま、究極、【虚理戒壊】で何とかなるけどな」
「だが、発動させると世界が持たぬ。それは分かっているだろう?」
「ああ。だから、使うときは限られてる」
【虚理戒壊】……それは、理、秩序、混沌すら破壊する最凶のスキル。それに否定できないものはない。
そして、このスキルは……先代の魔王が持っていたものだ。
……いや、別に俺が殺したとかじゃないぞ!?
遊びに行ったら瀕死だった。
で、あいつが「俺を殺せ」的なことを言ったから殺した。
ざっくりいうとこうだ。
そして、そのとき俺は世界の真実を知っちまったんだ。
世界の存在意義を。
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あとがき的なサムシング
テスト期間により、投稿が一週間開いてしまいました。申し訳ありません。
比較的短めですね。今回。
二作品+萎えてる一作品+新作の四作品同時執筆なので、カクヨムで四千文字超え続けるのはきついです。
ご理解のほど、よろしくお願いします。
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