第7話 我刀:永花
「さ、始めるか。『無限開花』」
これが起動の合図だ。
俺の目の前に光が集まってくる。そしてそれは刀をかたどっていき―――――
バシュウンッ!
刀が生まれた時の衝撃で、結界が壊れた。しかし、そんなことは関係ない。
「これが俺の我刀、『永花』だ」
「永花……なんというか……綺麗……」
「今まで見てきた刀の中で、一番の形状、性能……」
「さて、試し斬りでもしてみるか?」
「やってみてほしいです! 見てみたい!」
「やめとけ、彩斗。まさか、『御業』を見せる気か?」
「いやー、さすがにダメですかね……」
「はあ……倖月と……あいつも呼んでくる」
「おっ、久しぶりに会うかも」
「こうづき? あいつ?」
「俺の師匠ズの一人。倖月さんは、女性っちゃあ女性だと思う。まあ、女性。うん。女性だ」
「えっ、心配になってきた」
まあ、倖月さんは一応武力で制圧できるけど、あの人はなぁ……
魔導なんか余裕で使うし、その上魔法を自作する。
別に苦手ではないけど、
魔法に関して、あの人の右に出る者はいない。と思う。
…………
「よーっす!! さっきぶりだな! 彩斗!」
「……ちわっす」
「あ、どうも。お久しぶりです、千早さん」
「は、初めまして! 私は花咲です! よろしくお願いします!」
「……白雪舞です。よろしくお願いします」
「うむ! いい若さの二人ではないかッ! これは楽しみだっ!」
「「えっ……」」
「ちょっ、倖月さん。引いてるんで、やめてやってください。それと、空乃さん。もうちょっと何か話してください」
「ええ~、だって……めんどくさいし、彩斗の御業を止める結界とか、どう頑張っても作れないし。そもそも、なんでこんな場所でそんなことするかわかんないし……」
「分かりました、分かりました! 別に、周囲に害のあることはしないので、よろしくお願いします」
「仕方ないな……」
ブカブカの魔導服を着て、魔法薬独特の匂いがする、ロリっ子。
この国、いや、世界トップクラスの魔法の才能を持ち、新たなる魔法を開発し続ける少女なのだ。
おっと、見た目は少女なのだ。
「はあ……【神怒流域】」
ゴゴゴゴゴゴ……
「あっ、結界……ん? なにこれ。硬すぎない!?」
「隕石くらいなら簡単に防げる。結界専用スキルっていう珍しいスキルだからな~。すごいだろ~。通常、結界はそいつの持っている魔力を想像して具現化するドームのことだ。その防御力は、その人の魔力量に比例する。つまり、スキルを持っていなくても使える防御手段だな。だから、結界や障壁専用のスキルを持っている奴は珍しいんだ。あっ、ちなみに、結界と障壁は違ってだな……」
「ちょっと落ち着いてください。みんなそんくらい知っています。あと、魔法やスキルについてになると急に饒舌になるのは止めて下さい。めっちゃ引かれてます」
「うわっ……ごめん。で、始めないのか?」
「……じゃ、やりますよ。ああ、これから発動させるのは、『御業』と呼ばれる技だ。まあ、武器の扱うスキルみたいなもん。それで、今は三つ使えるんだけど、そのうちの一つ使うわ」
「は、はい!」
ふぅ~……よし。
「目覚めろ」
第一の御業
「【百花繚乱】」
パアアアアッ!! ゴウッ!!
「キャッ! な、なに!? どんな技なの?」
「【百花繚乱】は、周辺の生命エネルギーを奪って永花の力にできるという御業だ。その威力は、振っただけで国を滅ぼしかねないほどだ」
「えええ……え、そんな危ない刀が、こんな近距離に?」
「はっはっは。それで、この技の神髄はそこじゃない」
「? というと?」
「ちょっと難しい話になるぞ。まず、これを発動させた瞬間、周辺の生物以外の生命エネルギーを吸収するんだ。仮にその量を一とする」
「はいはい」
「そして、この技は、永花の中でそのエネルギーを二に出来るんだ」
「……はい? つまり、エネルギーを倍にして転換すると?」
「ああ。そして、半分を永花に内蔵。もう半分を周辺の大地に振りまく。すると、元通りになりました! パチパチパチ! ってわけ」
「おお~。つまり、化け物だと! なるほどなるほど!」
「そんで、周辺の大地にちゃんと一返したじゃん? それを吸収して、さらに二に転換。一返す……ってのを繰り返せば、どうなる?」
「え……理論上、無限の強化が可能ということですか!?」
「そゆこと~」
無限回の進化……試したことは無いが、やってみてもいいかもな。今は空乃さんがいるんだし、多少の無茶はできる。
「というわけで、無限回の進化、やってみるわ」
「なんだと? 彩斗、それはやめておけ。前、たった三回強化したその余波だけで一つの町が消し飛んだんだぞ」
「ひえっ……」
「あれは誤算でした。うまいこと制御できなくて……でも、今は大丈夫です。成長していますし、空乃さんがいます。周辺への被害は出ないでしょう」
「……まあ、やってみろ」
「はい!」
許可は出た。さあ、本気で強化だ。
二回目
「まあ、この程度の衝撃波なら、私たちでも耐えられるわよね」
「そうですね! ちょっと力を入れれば耐えられます!」
三回目
「おおっと……まあ、結構頑張れば耐えられる……ッ!」
「ひゃっ! 風が強いっ!」
四回目
「荒れすぎてッ! 飛ばされるうっ!!」
「ああああっ!!」
「あっ、白雪と花咲はダウンか。でも、結界はまだ丈夫だし、まだいけそうだな」
「引き際を見誤るなよ」
「はい」
五回目
そろそろ周辺にミニ竜巻ができ始めた。結界には、ヒビ一つない。
六回目
地面が割れ始めた。結界は少し揺れている。
七回目
周辺の落ち葉や、枯れ木がこちらへ飛んでくる。あまりのエネルギーに、重力が歪み始めているのだろう。結界から嫌な音がする。
八回目
風が凶器になり始めた。荒れ狂う暴風は、生物の薄皮を切りつける。歪んだ重力は強力になり、周辺の樹木がこちらに飛んでくる。結界にヒビができた。そろそろか?
九回目
「え? なに?」
「風が消えましたね……」
急に、風が消えた。重力も元に戻っている。ここまで強化したのは初めてだから、何が起こっているのかが分からない。
結界のヒビも消えた。
不思議に思いながらも、十回目の強化をする。
十回目
突然、破滅の力が溢れ出た。どうやら、さっきの静けさは、永花の中に莫大なエネルギーが込められた故の現象だったらしい。そして今度は、莫大なエネルギーが
焦って百花繚乱を止める。すると、周辺の息苦しさが消え、莫大なエネルギーが霧散した。
「はあ~、怖かった。九回目の静けさは、嵐の前の静けさだったんですね。十回目の黒の雷はなんですか? いかにも危なそうでしたけど」
「そうよ、触れた枝が霧散して消えたじゃない」
「……ぶっちゃけよく分かってない。ただ一つ分かることといえば、十回目はダメだ。うっかり永花を振っただけで星が割れちまう」
「始めて星が割れるって言う単語を聞いたわ」
「えっ……ていうか、こんな化け物みたいな装備を持つ化け物と同等の力をもつ魔王と戦わなきゃいけないの!? 嫌だあ!」
「いや、違うけど」
「「え?」」
そりゃあそうだろ。魔王とはいえ、我刀を使ったら勝負にすらならない。
ああ、言ってなかったが、
炎の“紅蓮”
氷の“氷獄”
風の“絶風”
雷の“雷紫”
の四つ。
“紅蓮”では、半径一キロの水を全て蒸発させる程の熱を発する。
“氷獄”では、半径一キロの水を凍らせる程の冷気を発する。
“絶風”では、半径一キロの大気をかき混ぜ、竜巻を作り出す。
“雷紫”では、半径一キロに熱量が通常の雷の五倍の紫電を落としまくる。
それだけで最強なのだ。重ねて御業。
第一の御業:「百花繚乱」
さっき解説した通りだ。周辺の生命エネルギーを吸収し、二倍して半分を元に戻し、もう半分を刀に蓄えさせる。無限に強化できるが、試したのはさっきの十回まで。
第二の御業:「千刃狂乱」
自身の目の前で永花を振っただけで、あらゆる場所に千を超える刃が周辺に襲い掛かる御業だ。こちらで座標を指定できるため、ほぼ確実に当たる。
第三の御業:「神華絢爛」
最後であり、最強の御業。俺の魔力をすべて注ぎ込んだうえで、数多のスキルを発動させ、我刀に内包されている魔力も全て開放する、最強の一撃だ。
その状態で我刀を振ると、次元が斬れる。
自分で作っといてなんだけど、やべえ刀だと思う。
ま、御業なんぞ第一ですらあんまり使わないのに、第三とか出番があるのか謎。
しかも、モードを変えると周辺が荒野になる。
全部蒸発したり、全部凍ったり、全部吹き飛ばしたり、雷が落ちまくったり。
はあ~、逆に辛い。
最近ずっと本気出せてないし……
「で? 我刀見てどうだった?」
「いや、なんか武器の域を超えているような気もするわ……魔王が弱く感じるわね」
「私も我槍が欲しいです! どうすれば手に入りますか!?」
「まずは、槍術を極めて、槍の扱いを上手くなれ。それから、俺に願うのが早い」
「えっ!? 我装シリーズって、彩斗さんしか作れないんですか!?」
「いや? 普通に錬成系のスキルを極めれば作れるかな。まあ、そこまで極めている人もあんまりいないけど。世界に四人くらい? 多分」
「とりあえず、槍を極めていきます!」
「頑張れ。もうそろそろ勇者も帰って来る。俺がいたらあいつも荒れるだろう。じゃあ、白雪は魔剣士として、花咲は槍使いとして、頑張れよ」
「分かったわ。ありがとう」
「はい! ありがとうございました! またいつか、会いに来てください!」
「ああ、またな。あ、師匠たちはどうされます? 二人の師匠として教えてあげるってのもありですけど、俺はその件に関与しないんで」
「そうだな……俺は毎日暇だし、本人がよいというなら、教えてやりたい」
「あっ、じゃあ、お願いします」
「ああ、よろしく」
「なんとなく分かりますけど、倖月さんはどうされます? まあ、多分―――」
「自室で魔法の研究をするから、無理」
「まあ、そうですよね」
なんとなく分かってました。はい。
ま、俺は俺で魔王に会いに行かなきゃなんねえし、さっさとおさらばかな。
その後、俺は、我刀で荒れまくった森の中心部を眺めながら、ヴァルマンの上空を通って帰った。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
あとがき的なサムシング
こちらでの伸びが悪いので、なろうの方でも同じものを出そうと思います。
これからも応援よろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます