第6話 訓練

 一時間後、森の入口に集まる舞と愛菜。

しばらく待っていると、彩斗がやってきた。


「おっ、来てるな。じゃ、始めるか」

「えっと……具体的にどうすればいいのかしら? 何も知らされてないのだけど……」

「そうだな。白雪。お前は、魔剣士に向いていると思う」

「魔剣士? 魔法を使いながら近接で戦うあの人たちのこと?」

「そうだ。お前は全属性使える代わりに、一属性当たりの魔力量が少ない。だから、消費量の少ない魔法を細かく使う方が合ってると思うんだ。それに、数瞬先の未来を視えるんだしな」

「たしかに……その戦い方をするための、魔剣士ね。でも私、力は無いわよ? 剣だって持ったことは無いし」

「それに関しては大丈夫だ。俺の師匠を呼んできた。もうちょっとで来るはずだ」

「え? し、師匠?」

「ああ。だから、そっちは頼んであるから、頑張れ」

「あ、うん」


 師匠……といっても、草薙さんの方を呼んできた。刀の扱いに関してはトップクラスだ。

まあ、剣になったら別なんだけどな。刀なら、トップクラスというだけで。

それでも、十分強い。


「んで、花咲。お前は、ちょっと違う」

「違う? 全属性の魔法は使えないけど、何をすればいいの?」

「お前が使えるのは、広範囲の味方を超強化する【我天超域】と、異常なまでの治癒をする【身治神癒】の二つだ。ま、圧倒的に後衛だな」

「うんうん」

「まあ、レベルを上げるのは当たり前として、お前の戦い方を決めなきゃならない」

「戦い方? 舞さんみたいな魔法を使いながら刀を使うみたいな?」

「そうだな。お前は圧倒的に後衛だが、前衛……というか、接敵しながらも戦えそうな気がするんだよな」

「? というと……槍でつつきながらリーチを取って、隙がある時にスキルを使うみたいな?」

「ん~。【我天超域】はさ、一回発動させたら、あんまり切れないだろ? だったら、一回発動させて、自分も戦う、ってのが合ってそうだと思うんだよ」

「なるほど……」

「というわけで、まずは槍だな。俺が作る自律運動人形アンドロイドを次々と倒していってくれ」

「あんどろいど?」

「それはいい。戦い方も適当でいいから、とりあえず何とかしてみろ」

「えぇ……」


 そう言い、彩斗は作り出した槍を愛菜へ渡す。

受け取った愛菜は、異常に振りやすいことに驚きながらも、『まあ、やってやるか』みたいな感じで意気込んでいた。

俺の自律運動人形アンドロイドだが、同時に五万体ぐらいはそれぞれ別の動きをさせられる。

十万体まで増えると、俺の管理下に置けないやつが出て来る。

完全自律ならば、推奨レベル八十くらいか?


【神業錬成】


「ほい。戦ってみ。こっちで色々確認するから」

「う、うん……」


 そこら辺の魔物の何倍も強い自律運動人形アンドロイドを、丁寧に相手していく愛菜。

ふーん……いいね。こいつには槍が合ってるようだな。

本能的に最善手を打ち続けている。型みたいなものは無いし、振りも美しくはない。

しかし、傷つくことは無い。面白いな。


「はあ、はあっ! ええええええいっ!」


ガキンッ!


「うん。いいね。あれから襲ってきた三十体の自律運動人形アンドロイドを全て倒したか。やっぱりお前には槍が合ってるな」

「そ、そうですか?」

「ああ。これは、勇者パーティー全員前衛できるようになるな」

「全員前衛の破壊力……でも、ちょっと……」

「どうした?」

あの人勇者に付いて行きたくないんですよね……下心丸見えで」

「(笑)下心ね。あるよ、あいつは。なんなら、旅を続けていくうちにどっちかと、あるいはどちらとも……って考えてる」

「ええ……それ、信じていいんですよね?」

「スキル持ってるからな」

「そうですね」


 心を読む系のスキルを持っていないとでも思ったのか? 意外と何でも持ってるんだぞ?

まあ、いくつかできないこともあるけどな。


「あ、そうそう。ずっと聞きたかったんですけど、あなたの本気ってどのくらい強いんですか?」

「知らね。一年前くらいから本気を出したことが無いからな」

「なぜ?」

「そりゃあ、本気を出すってことは、身体能力全快ってことだ。そのうえ、理を破壊するスキルも併用できる。さらに、魔力も開放すれば、世界が持たない」

「こ、理を破壊……意味が分からないんですけど……」

「ん? 前言ったろ。【虚理戒壊】『虚と理を戒め、全てを壊す』だ。理、って言うのは、秩序のことだ」

「秩序?」

「それについてはいつか教えてやる。ちっとばっかし面倒くさい話だからな」

「あ、はい」


 秩序となると、神を出さなければならない。そんなことを言い出したらこいつの頭がパンクするだろう。だから、今は言わない。

まあ、とりあえず教える方向性は決まった。槍だな。

こいつが槍術をマスターしたら、何か専用の武器を作ってやるか。

我槍を。


「槍かぁ……難しいな。教え方がよく分からんし」

「え、彩斗さんはどんな戦い方なんですか? まさか拳?」

「ちゃんとしたフル装備だったら、刀かな。我刀を使う」

「? がとう、ですか?」

「我刀。めっちゃ平たくいえば、その人の専用武器。深く言えば、神髄にたどり着いた武器」

「より一層分からなくなりました」

「ま、いつか、お前専用の我槍を創ってやるさ」

「本当ですか!? ありがとうございます!」


 よくわかってなさそうだが、まあいいか。

勇者は帰って来る気配は無いな。よし。


「今から、精神世界で一週間訓練する」

「精神世界で一週間……? それは、どういう……」

「やれば分かる。【夢無幻想】」

「ッ!?」



…………



「ん、んんぅ……」

「お、起きたか」

「あ、はい……それにしても、ここは? 何もない空間……真っ白です」

「文字通り、夢の中だ。精神世界だから、時間の流れが速いしな」

「ああ、だから訓練に向いてるんですね。それで、私はどうすればいいのですか?」

「これから、十回に分けて自律運動人形アンドロイドの大量襲撃を行う。それを耐えきればいい」

「え? それだけですか?」

「ああ、それだけだ。一ウェーブごとに一定数出すから、そのウェーブの中で最後のやつを倒したら一分の休憩を与えよう。そして、一分経ったら次のウェーブだ」

「意外と簡単そうですね」

「そう思うだろ? じゃ、やってみるか」


 自律運動人形アンドロイドの大量製造をし、襲いかからせる。

ここで鍛えたいのは、最善手の打ち方だ。

何回も負け続け、身体に覚えさせる。

効率の良い動き方を自分で見つけていくだろう。

さあ、一週間ぶっ通しだ。



…………



「君が、白雪さんか? 彩斗の紹介で来た、草薙という。よろしく」

「あっ、よろしくお願いします!」

「彩斗から聞いたが、君は魔剣士に才能があるのだって?」

「私はよく分からないのですけど、魔剣士の戦い方が合ってると言われて……」

「なるほど、では、一度試してみよう。刀は持っているのか?」

「あ、さっき神崎さんから貰いました。随分振りやすくて……」

「あいつのスキルはまだまだあるからな。そういう系統のものもあるのだろう」

「よく分からないです」

「俺たちもよく知らない。あいつは秘密主義だしな。まあ、それより指導に入ろうか」

「よろしくお願いします!」


 丁寧に教える草薙と、本気で学ぶ舞。

流水の如く鋭い剣戟を超至近距離で受け続ける舞は、その手順とフォームを覚え始めていた。

草薙は、ここまで必死に教わってくれるやつも少ないからな、と喜び、張り切って伝える。

最適な手順を。最高の効率を。


数時間ぶっ通しに訓練していると、当然体に叩き込まれる。

どれほどのレベルか? 分かりやすく言えば、『剣聖』と呼ばれる草薙と同レベルなほどだ。

これに、魔法を混ぜ始めるのは舞が模索していかなければならない。


「よし。これで終わりだ。よく頑張ったな」

「はい! ありがとうございました!」

「ふう。で、彩斗たちは何処にいるんだ?」

「あっちの方にさっきいましたけど……」

「……ふむ。来たな」

「おっ。ちょうどそっちも終わった感じですか?」

「ああ。全てを教えた。これほどまでに理解力が高いのは珍しい。こっちも熱くなってしまったな」

「へえ~。珍しい。師匠がそこまで熱くなるなんて」


 ま、俺の方も熱くなっちまったけどな。

どんどん強くなっていくし、殲滅速度が上がっていく愛菜に熱くなって、自律運動人形アンドロイドを大量放出してしまった。

久しぶりに使えて、楽しかったわ。


「あ、それで、我刀の話なんですけど、彩斗さんの刀、見せてもらえませんか?」

「「……」」

「えっ、あれ? ど、どうしたんですか? 急に黙って」

「い、いやー……それがさ。俺の我刀……【永花】っていうんだけどさ、強すぎるんだよ」

「……自慢ですか? 俺は強い刀持ってるんだよアピールですかぁ!?」

「いや、そういうレベルじゃなくて……」


 どう説明すっかなー、と、困っている彩斗を見た草薙は、一つの事件を語り出す。


「……一回彩斗は、永花を使って国をいくつか滅ぼしてしまったことがあるんだ」

「「!?」」

「永花とは、そういう魔力が満ち溢れている、化け物のような刀だ」

「「……」」

「……ハァ。仕方ない。使ってやる。だが、ここら辺一帯に結界を張るんだ。全力で」

「え? まあ、分かったわ」


 結界と言うのは、その人が保有する魔力で張る強力な盾のことだ。

まあ、盾と言うよりは、ドームなんだけど。

盾は、どっちかって言うと障壁かな。


魔力を満遍なく広げて作り出す、広範囲を護るドームが結界。

ドームの魔力をある程度一か所に集めて作る盾が障壁。


 そして、結界を張ってもらうには理由がある。

永花顕現の瞬間に、永花内の魔力が溢れ出して、周辺に衝撃波をまき散らすんだ。

だから、結界を張ってもらって誰にも被害が無いようにする。


「さあ、よく見とけよ」

「「「……」」」

「これが、我刀だ」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る