第5話 手合わせ
「では、始めよう」
「よろしくお願いします!」
「さて……鈍っていないだろうな!」
「ッ!」
ノーモーションから放たれる一閃。しかも微妙に間合いを詰めるため、回避が面倒くさい。
バックステップで回避し、相手の一挙一動に目を配る。
相変わらず綺麗な剣戟だ。瞬きの瞬間に三十回ほど刀が往復している。
全て寸でのところで回避するが、最後の刀を回避したとき、視界の隅にもう一本の刀が見えた。
「んなぁっ!?」
「ほう。よく回避したな。最近習得した秘技なのだが」
「変な技覚えないでくださいよ……どういう技ですか?」
「秘技というのは秘密だから秘技なのだ。簡単に言うわけがないだろう」
「それもそうですね」
「では……ギアを上げよう」
「ッ!」
秘技って言ってたじゃねえかっ! という俺の心の声は封じ込め、反撃のチャンスをうかがう。
ちっ。どう動いても刀が邪魔してくる。はじこうにも、この人のスキルが邪魔してくる。
スキル【絶会心斬】
刀の一撃が、昇華されるスキル。
どのくらいかと言うと、俺が身体強化系統のスキルを全力で発動させたとしても、バランスが崩れるくらいのクリティカルを与える。
威力が上がるというより、全一撃がクリティカルみたいな感じ?
刀が扱えない俺からしたら、回避しかない。
「っ、ふう……全回避ッ!」
「上手くよけたな……俺も鈍ってきたか……」
「俺が強くなったっていう発想は無いんですかね」
「ふっ、冗談だ。強くなったな。彩斗」
「師匠……! ありがとうございます!」
「で、この後用事はあるのか?」
「はい?」
…………
「ったく。たった今地獄の訓練が終わったところで、次の訓練はさらに地獄かよ……」
用事があるか? と聞かれ、無い。と答えたら、次はこいつが待ってるから酒場へ行け、だってよ。
四人パーティーの中で、破壊力最強の拳闘士。
その破壊力は、隕石すら打ち砕く。
「おう! 来たか! ひっさしぶりだなぁ! 彩斗!」
「まあ、そうですね。それで、何の用ですか?」
「いやー、そんな冷たい言い方すんなって~。最近ドンパチできる相手がいねえからよぉ、久しぶりに殺らねえ?」
「……はい。よろしくお願いします」
この人、本当に女性か? 愛菜とか舞とかを見た後だとすげえヤバイ武闘家だな。
この人相手には、スキルを使ってはならないが、フル装備ではないとガチで殺される。
死ななくても、痛いもんは痛い。この人の拳まともに受けたら腕が折れてしまう。
「ほぉ。久しぶりに見たな。お前の本気装備。ガチンコでやれるじゃねえか……さあ、やるぞ!」
「そんなにガチンコでやりたいならスキル使っていいですか?」
「ダメだ! そんなことをしたら一秒も持たねえ!」
「えぇ……」
もう。めんどうくせえな……
さっきの草薙さんよりも速いし、細かい。しかし、威力は高い。
スタイルを合わせるしかないな……
バババババババッ!!
シュッ! シュシュッ!!
「いい回避だ。成長したな。まさか、薄皮を掠るレベルでしか当たらんとは……じゃあ、本気で行こうかなぁ!」
「ッ! ダメですって!!」
ドゴォッ!!
「……痛ってえな……なんだよ。せっかく本気出そうと思ったら止めやがって」
「国から言われたじゃないですか。俺たちのパーティーは本気出すなって」
「ちえー。剣は出したんだろ?」
「いいえ? 身体強化系のスキルは使わずに、【絶会心斬】だけですね」
「ちっ……私も使っちゃあダメっぽいな……」
「ダメです。あなたに関してはもっとダメです」
「というか、さっきお前はどうやって止めたんだ? 身体強化をしようとした私を一瞬で止めたじゃねえか」
「え? 自分が許されてるレベルの身体強化をして、あなたのスキル発動を止めに行ったんです。そういう系統のスキルがあるんで」
「お前〜、本当に何でもできるな」
「まあ、大抵のことはできますね」
しかし、治癒系統は別だ。
治癒系は、そもそも治癒系を持っている魔物がほぼいない。
魔族は治癒とは別系統の治癒方法を持っているからいいんだが、魔物は治癒のスキルを持てるはずがない。
治癒は神の贈り物だから、魔物にギフトは贈られないからだ。
だから、俺が治癒系統のスキルを得るためにはそういうスキルを持った人間を殺さなければならない。
そんなことしたくないからあんまり持ってないんだけど。
「どれくらいなら治せるんだよ?」
「身体の一部が損傷したぐらいですね。腕が一本取れたとか」
「気持ち悪っ。十分な効果だろ。はあー、なんか冷めちまったな。もう終いだ。終い」
「(っしゃ!)はい! ありがとうございました!」
解放された~! いやっはー!
さー、これからぁ!
……
何しよう。特に決めてないな。
んー。そうだな。
面白そうだし、勇者パーティー見に行くかな。
サイド:勇者パーティー
「よし。準備はできたな? 次の国、メサイアへ向かおう!」
「あのー。本当にもう行くんですか? メサイアって、強い魔物が多いって聞きましたけど」
「私も、あんまり賛成はできないわ。もう少しレベルを上げた方がいいと思うのだけれど。ここらへんの魔物も強い方だし」
「大丈夫だろう。あいつだって簡単に毒竜を倒したんだ。俺たちの方がもっと強いはず。ならば、メサイアの通常の魔物も簡単に倒せるだろう?」
「「……はぁ……」」
やんわりと言ってあげたのに、気付いていないようだ。
天崎だけでは前衛が持たない、ということに。
四人一パーティーが普通のなかで、三人の時点で異常だ。さらに、前衛が一人など、正気の沙汰ではない。
「それでも、もう一日くらいは魔物を狩らない? せめてレベルが百までは上げたいわ」
「私もです。体が弱すぎて、死んでしまっては元も子もないですし」
「チッ……分かった。俺は違うところで狩って来る。二人でやっておいてくれ」
「あっ……」
「あのバカ……」
天崎には脳がついているのだろうか。後衛二人で狩れる魔物などたかが知れている。
まあ、舞は全属性の魔法を使えるため、殲滅力で言えば高いが……
それでも、身体能力が低いというのは致命的だ。
これではレベル上げも何もないだろうに……
「どうする? あのバカは行ってしまったし……私たち二人じゃあ、そこら辺の魔物にも負けちゃうわよ?」
「私の【我天超域】も、使いすぎたら私が倒れちゃうので、連発はしたくないんですよね……それでも、倒せるやつらから倒しますか」
「そうね。ちょうど何匹か来たみたいだし」
ガルルルルル……!
ガオオオオオオッ!!!
「【我天超域】ッ!!」
「【全魔無欠】!」
二人に超常的な身体強化がかかり、周辺の大地に火の雨が降る。
近づいてきた魔物は氷の槍で刺し、中距離は風の刃で切る。
魔法使いとして完璧な立ち回りだ。
しかし、魔法を発動するには、『魔力』が必要だ。
魔力は、所持しているスキルの中に入っている。
例えば【全魔無欠】を発動させるためには、【全魔無欠】内の魔力を媒体として発動させなければならない。
だから、スキルの量が多かったり、スキルの密度が高かったら比例して魔力量が多くなる。
そのため、【全魔無欠】だけの魔力量では限度がある。百を超える魔物を屠り続けるには、圧倒的に足りない。
「くっ……! ゲホッ! ゲホッ!」
「舞さん!? 大丈夫ですか!?」
「え、ええ……でも、ちょっと私は魔法使えないわ……数瞬先の未来の未来が視えるから、逃げるルートは割り出せるわね」
「【我天超域】は、あと三十分しか持ちません! 急いで駆け抜けて……ッ!」
「あの大きい熊は……グリズリー!? 私たちのレベルじゃあ、到底勝てない!」
グリズリー。この国の周辺に出没する中でも、上位の力を持つ。
比較するならば、毒竜の少し弱いくらい。
推奨レベル百五十だ。
「ここで死ぬわけにはいきません!」
「あっ! 愛菜!」
「ええええええいっ!」
蹴りを叩き込む。しかし、レベルの差が大きすぎる。弾き飛ばされる愛菜。一切のダメージが通っていないグリズリー。
近接戦闘は前衛の仕事だというのに、勇者がどこかへ行ったせいで二人は危機に陥っていた。
攻撃手段は無い。ダメージも通らない。残る手? すでに無い。
「ここで終わっちゃうの……? まだ、何もしてないのに……」
「諦めちゃダメよ! まだ手立てはあるかもしれないじゃない!」
「舞さん……」
そう言って励ます舞だってほぼ諦めている。勇者が帰って来るとは思えない。あの性格だから。
グリズリーが大きな爪を振りかぶり、二人に振り下ろそうとしたその瞬間。
ドゴオオオオオオンッ!!!
「「なんか既視感あるんですけど……」」
「だろうな。何回かこれしてるだろ? もうそろそろ慣れてきたか?」
「……彩斗さん……」
「あなた、どうしてここに……」
「いや、『勇者パーティー見に行ったろ!』と思ったけど、どこにいるか分かんなかったから、一回飛んで空から探してみたんだよ」
「何を言われてももう驚かない」
「ソラ、トブ」
「そしたら、一か所に異常に魔物が集まってるのと、その中心部に見覚えのある服装が見えたからな。飛び降りてきた」
「なるほど……」
あまりの驚きに魔物は全て硬直していたが、すぐに我に返り、襲い始めた。
いくら身体能力を上げようと、単騎だ。殲滅力が足りないため、私達は少しは傷つくだろう。そう、覚悟していた。
「あ゛~。あれだな。わざわざ一体ずつ相手するのも面倒くさい。どうせなら一気に殲滅しようかな」
「んえ? 一気に?」
「ああ。白雪。よく見とけよ」
「え? 何を?」
「これが、『魔導』だ」
ボオオオオオッ! ザッバアアアッ! ビュウウウウッ! ゴゴゴゴゴゴッ! バリバリバリッ! パリイイインッ!
彩斗の全方向へ火、水、風、土、雷、氷の魔法が撃ち乱れる。
無論、狙っていないわけがない。全て魔物に当たり、オーバーキルとなっているものまである。
『魔法』は、スキルを使って脳内のイメージを魔力で具象化するもののことだ。魔力に属性を与えて発動する。
『魔導』は、魔法を混ぜたうえで、三属性以上同時に使うことだ。
普通はできないどころか、しようとするだけで肉体が滅びるだろう。魔力が足りないからだ。
しかし、俺はスキルを数多持っている。魔力量だけで世界と匹敵するくらいだ。
いや、そんなことはどうでもいい。
「はい。おしまい。ってか、お前らなんで二人だけなんだ? 後衛二人で魔物に挑むとか、自殺行為じゃね?」
「馬鹿に置いてかれたのよ。ったく、脳みそが入ってるんだか」
「なるほどなるほど。じゃあ、こうしよう」
「? 何をするの?」
「お前たちを鍛えてやる」
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あとがき的なサムシング
勇者パーティーは、彩斗の名前を、ステータスウィンドを見た時に知りました。
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