第4話 虚王輪廻

「敗者の能力スキルを喰らう……? それは、どういう意味ですか?」

「文字通りだ。俺が倒した生命体のスキルを俺のスキルにできるんだ」

「……今まで倒してきた敵のスキルを使えるということですか?」

「そういうことだ。まあ、正確には、今まで倒した敵のスキルを【虚王輪廻】に組み込んでるんだけど」

「だから、あの移動速度が出せたのね」

「そうだな。身体能力強化系のスキルを使ったんだ。勝手に全部統合されてるからものすごい倍率になってるんだけど」

「ああ、あれはそういうことか……大地を動かしたり、身体能力の強化をしたり。様々なスキルを持っていると思ったが、まさか一つで全てを担うとは……」

「はっはっは。有能なスキルだが、欠点も多いぞ」

「欠点? それほど有能なスキルに、何か欠点があるのか?」

「ああ。残念なことに、手加減が難しいんだ」

「手加減が?」


 このスキルは自動的にスキルが統合されるから、重ね掛けされて、能力だって強くなる。

身体強化系統のスキルは、使用者が多い。それ故、倒した魔物が身体強化系統のスキルを持ってたら、俺のスキルも勝手に強くなる。

だから、身体能力強化をしようとしたら、踏み込みだけでその街が滅ぶ可能性がある。

だから、大変なんだ。


「有能でも大変だぞ? そもそも、このスキル元は二つだったんだ」

「二つ? 何と何?」

「【覇者簒奪】と【能力混成】の二つだ」

「? それが何故【虚王輪廻】に?」

「……俺が、三十個目のスキルを手に入れた時だ。【虚理戒壊】ってスキルなんだけどな?」

「きょりかいかい? ふん。それで?」

「そのスキルが、虚と理を戒め、全てを壊すっていう能力なんだ」

「うん。なにそれ」

「怖すぎるんですけど」

「そのスキルがどうしたんだ」

「そのスキルがさー、【覇者簒奪】の中に閉じ込められた能力と、【能力混成】を戒めて、壁を壊しちゃったんだ」

「??? 壁を壊す? スキルのですか?」

「ああ。スキルの壁。境界線をぶっ壊したんだ」

「わけが分かりません……」

「スキルの壁を壊す? ……? それに、【覇者簒奪】で能力を奪って、【能力混成】で混ぜてたんですよね? じゃあ、吸収したスキルはどこに?」

「【覇者簒奪】の中に入ってた。けど、能力の大半を封印されてたんだ。効果がだいぶ落ちて」

「それが、二つ混ざって【虚王輪廻】になったんだね」

「そういうこと」


 能力の全てが解放されたからな。

ちなみに、これは所属しているパーティーが倒した敵でも適応される。

つまり、俺と勇者パーティーが組んだとして、こいつらが倒した魔物のスキルが俺に入って来る。

だから、その時俺が倒せない魔物でも、そのスキルを入手することができる。


「ああ、あと、俺死なないから」

「は?」

「ん?」

「なんだと? 死なない?」

「俺がまだ弱かったころ、俺の所属してたパーティーが不死鳥を倒したんだ」

「……不死鳥を……」

「倒した!?」

「不死鳥は、死なないことが名前の由来だ。死んでも死んでも蘇るからな。それを、倒しただと?」

「ああ。だが、俺の所属してたパーティーは、強かったんだ。蘇らせないほどにな」

「ということは、お前は……」

「不死鳥の専用スキル、【不死超越】を持っている」

「ええええ!? 専用スキルの意味無い!」

「【不死超越】を持ってるなんて……」


 【不死超越】。それは、不死鳥専用スキルで、死んでも死んでも蘇り、さらに強くなるっていうスキルだ。

世界一般では、『チートスキル』と呼ばれている。

じゃ、実際にやってみようか?


「よし、勇者。俺を斬ってみろ」

「は?」

「その聖剣で、俺をスパッとやれって言ってんの。ああ、スパッとはいかねえか」

「……これで死んでも文句言うなよ!」


 そういい、天崎はとして聖剣を振り上げた。

そして、思いっきり振ると、俺の体に入り込み、ズププ……という気味の悪い音が響いた。

俺の左半身が、腰から分かれている。

その瞬間、


ボオオオオオッ!!


「んなっ!? 燃えて……!?」

「あ? 知らないのか? 【不死超越】は、その体を燃やして、燃やした箇所が再生するんだぞ? で、一回死んだ判定喰らってるから、俺の身体能力はまた上がった」

「それが、【不死超越】の能力……」

「便利だろ? まあ、死ねないってのが枷になることもあるがな……」

「……?」

「いや、気にするな。こっちの話だ」


 あのときのことは思い出したくもない。

今でも時々悪夢にうなされる。

はあ、きつい。


「……あなたの強さを見込んで、話があるのだけれど、あなた、勇者パーティーに入らない?」

「なっ!? そんな勝手に!」

「だって、あなた一人じゃ前線が持たないのだし」

「だが……!」


 はぁ~。めんどくせえ。

そもそも、俺が入るわけないだろうが。勇者パーティーに。

それに、何も知らないくせに魔王を倒そうとするのは、甘すぎる。

あいつ、いいやつなんだぞ。


「俺は入らないぞ。お前らのパーティーなんぞ。そんなめんどくさいことやってられるか」

「め、めんどくさい!? 地位や名誉に興味はないの!?」

「無いな。そもそも、魔王を倒したぐらいで、何か誇れるのか? よく分かんねえな。ま、その強さで魔王倒そうなんぞ、片腹が痛いけどな〜」

「なんだとぉ……! 黙っておけば……!」

「ああ、俺と魔王の力が同じくらいだからな。俺を倒せれば魔王も倒せる」

「「「……んえ?」」」


 懐かしいな……魔王との一VS一タイマン

互いに能力をいくつも持っていて、身体能力が化け物同士、いい戦いだった。

周辺の国がいくつか滅んだが……

まあ、結局直したんだし問題ナッシング。


「で、どうすんの? 魔王倒しに行かないの? 倒すのに何年かかるの? ねえねえ」

「……行くぞ! 舞! 愛菜!」

「えっと、どこに行くのかしら。聖剣も取ったのだし……」

「次は、森に生息している毒竜の討伐に行く! この国最大級の魔物だ……必ず俺たちのレベルが上がるだろう!」

「ん? 毒竜ならついさっき俺が倒したが?」

「は?」

「……あっ! もしかして、さっきの地面にあったクレーターって……!」

「あー、多分、俺が毒竜ぶん殴った時の衝撃が伝わったんだろ。力加減が上手くいかなかったかな。もうちょっと手を抜いたはずなんだけど」

「……じゃあ、俺たちは次の街へ行く!」

「あっ、いってら~」


 ……ん? でも、魔族領に向かうルートで次に行く国って言ったら、『メサイア』じゃね?

んー……あいつらで行けるかな?


「あぁ、一つアドバイスをするなら、この国で強くなってからあの国に行くことをお勧めする」

「なぜだ?」

「魔物の強さが段違いだからだ。あいつらは神の庇護下……にいるからな。そりゃあ、進化するさ」

「ふん! お前の忠告なんか聞くか!」

「そうか。じゃあな」


 人の忠告は聞くべきだと思うが……ま、いっか。

俺は俺で会う人がいるし。

会いたいとは思わんがな。



…………



「遅かったな。彩斗。三十秒もオーバーだ」

「三十秒なら誤差でしょ。許してくださいよ~」


 少し遅刻しちまったが、ギリ間に合った。

俺の目の前にいる眼鏡をかけた真面目そうなキャラ。こいつが、俺の師匠の一人。

草薙くさなぎ つるぎ

刀を使う素早い剣士であり、不死鳥を倒したパーティーの一人。

その速さと正確無比な剣術は、スキル発動前の俺を容易く凌駕する。


「それで、国々を旅してた俺をわざわざ呼びよせて何の用ですか?」

「ああ、それがな、愛用していた刀が折れてしまってな」

「ほうほう」

「お前、錬成する能力を持った魔物を倒していただろう?」

「あー、はい」

「新しい俺の刀を作ってくれ」

「ええええええっ……」


 新しい刀、だと……

この人の刀だったら、多少のミスも許されない……!

100%中120%のクオリティじゃねえと、殺される……!

いや、まあ、死なないんだけど。


「それで、作れるか?」

「はぁい! 作らせてもらいまぁっす!」

「そうか。ならば作れ」

「あ、今ここでですか」

「そうだ」


 妙に悟ったような表情になりながら、スキルを発動させる彩斗。

【神業錬成】と言う、制作系の頂点に立つスキルだ。

普通ならば、適当にするだけで最上級の刀が作れる。

しかし、相手は師匠だ。少しでもミスがあると、その場で切り伏せられる可能性がある。

それはそれは丁寧に作らねば。


そして……


「できました。『名付け』してください」

「ほう。いい刀だな。そうだな……『戦牙』というのはどうだ?」

「いいんじゃないっすかね。それじゃ、俺はこれで」

「まあ待て。せっかく新しい刀を入手したんだ。久しぶりに模擬戦しないか?」

「……殺傷系のスキル禁止、俺のフル装備禁止って言う鬼畜なルールのですか?」

「あのな? 俺がお前の師匠である所以は、お前が俺の技術を評価しているからだ。昔とはもう違う。お前がスキルを発動させたら太刀打ちできるわけがないだろう。【虚王輪廻】とは、まだ謎の多いスキルなのだからな」

「まあ、そうですね。いや、スキル禁止はまだわかっても、フル装備禁止はなんでですかね」

「お前、本気の時の自分の装備の質分かっているのか? 世界各国のダンジョンを踏破し、様々なアーティファクトで身を固めたお前に太刀打ちできるやつなんて魔王ぐらいだろう。歴代最強と名高い魔王とな」


 本気の俺の装備は、見た目で言えばありふれた見た目だ。

しかし、その性能は段違い。

ただの繊維に見えるくせに、実はユニコーンの鬣でしたー、とか、このフード被ってるだけで最強の隠密効果がありますー、とか。

六歳の子でもあの装備を着ているだけで多少の魔物は倒せるだろう。

まあ、そんな装備だからこそ【亜空管理】に入れてるんだけどな。

ああ、【亜空管理】っていうのは、簡単に言えば持ち歩ける倉庫。いわゆる、荷物持ちポーターと言われる仕事をしている人が持つスキルだ。

大体無限に入るから、便利だぞ? その中は時間も止まってるしな。


「んー、調子も確認したいし、フル装備でもいいですかね? 最近着てないし。あれ着なくても素のステータスで勝てますし」

「たしか、フリーサイズだったよな。お前の装備。自動的に着用者に合わせてくれるんだよな? 便利な装備だ」

「でしょう? じゃあ、模擬戦始めますか?」

「ああ、そうしよう」


 師匠はそういうと、訓練場に向かって歩き出した。

俺も久しぶりに本気の装備を纏い、訓練場へ向かった。

久しぶりの模擬戦……超楽しみだ!!

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