第3話 力の片鱗

前書き的なサムシング

五話までは一週間に二回投稿します(水、金)。

六話目からは二週間に一回投稿です。

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「さーて。狩るかな」


 今日は朝一でギルドで依頼を受けてきた。

何故かって? もう少し遅い時間になったら、勇者にアピールしたい冒険者で溢れかえるってのと……そもそも勇者が来るかもしれない。

これから旅を始めるってことは、資金を用意しなければならない。→資金は、冒険者になって依頼を受けるのが手っ取り早い。→じゃあ、俺たちで行くか! ってなるだろう。


「その前にここら辺のやつ狩りつくしとくかな~」


 今回の依頼は、森林の奥部に生息する毒竜を討伐せよ、って言う依頼だ。

今回の毒竜は、その毒を喰らっただけで一発アウトだから俺が受けた。

レベルがどれだけ高くても、毒を無効化するスキルを持っていないと死ぬほどの毒だ。


「おっ、いたいた~。さ、狩るかな」

「キシャアアアアアッッ!!!」


 確かにこいつの毒は厄介だが、毒無効のスキルを持っている奴らはそれ以上にでかい図体がうざったい。

全長が俺の約四十倍ある。軽く尻尾が当たっただけで、吹き飛ぶだろう。


普通ならな。


「オラぁ!!!」


 ドゴオォッッッ!!!!!


「キシェ!? ゴハッ!」


 消滅していく毒竜。こうして死んだ魔物は消えていく。

え? 今俺が何をしたかって?

簡単だ。ぶん殴った。


「さーて。いくら落ちてるかな~っと。あー。五シルバーか。一日生活するには困らないな。ま、どうせ散財するが」


 すでに金持ちの彩斗は、金に興味がない。だから、通常ありえない五シルバーの散財をする。

さてさて、まずはギルドへ報告をして、報酬を貰わないとな。

依頼書を持っていれば、達成した瞬間その依頼書に判が押される。どういう原理かは知らない。

さ、ギルドに持って行こ。



…………



「はい! 依頼達成ですね。お疲れさまでした」

「ん。ありがとー」


 これで、また報酬の二シルバーを稼いだ。

今日の稼ぎは七シルバーだ。節約したら、これだけで一週間生きていけるだろう。

一日で使い切ってやるが。

さー何喰おうかな~。

いや、もっと稼いで一貫一シルバーのめっちゃ高い寿司屋に行こうかな。

依頼依頼~。



…………



「えっと、天崎さん。どうしましょう……」

「浩介でいいよ。愛菜。これは、ギルドに報告した方がいいんじゃないかな」

「浩介。このクレーターのでき方は、隕石とかじゃないわ」

「なんだって? 舞。それは本当か?」

「ええ。これは、強力な力で地面を殴った時にできるクレーターね。というより、何かを殴った時の力がここまで伝わってきた感じね」

「毒竜は殴られて消えたのか……なんて強い奴なんだ」

「これは街で探した方がいいかもね……これほどの強者なら、魔王討伐の旅で役に立つでしょうし」

「えっ! だ、だが……」

「なに、何か問題でもあるの?」

「い、いや、無い……」


 不審な反応をする天崎を気にするが、何でもないだろうと思い、無視をする舞。

現勇者パーティーは三人。しかし、前衛が一人足りない。勇者一人ではこの先攻撃力が足りないのだ。

そのため、舞は前衛が欲しかった。そして、愛菜も前衛を欲していて、「あの男の人がいてくれればな」と考えるようになった。


あの、勇者パーティーに入るきっかけになった男性に。

レベル二百、スキルの効果も分からない。それでも、「この人は悪い人じゃない」というのが分かった。

……また会えるかなぁ……


バキッ


 木の枝を踏み抜いた音がした。周辺に何かいるということだ。


「全員集合! 全方位警戒し、発見したら俺に言うこと!」

「「了解!」」


 ……な、なんだろう……何かいるのかな。

噂に聞く毒竜かな。でも、ここら辺の毒竜はとても強いって言うし……

一応、【我天超域】を発動させる。

すると、私の周囲十メートルに魔法陣が浮き上がり、その範囲内の浩介さんと舞さんの身体能力が強化される。スキル効果も上がるから、悪いことは無いはずだ。

……あれ? この人って……!?


「ん? 勇者パーティーか?」

「あっ! あの時の!」

「おう、花咲さんか。結局は入れたんだな。おめでとう」

「はい、ありがとうございます! あの時背中を押してくれたおかげで今の私があります!」

「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待て。お前は、あの時の広場でパーティーに入りたいと言った男だろう? なぜここにいる?」

「は? 依頼を受けちゃダメなのか? 普通に狩りに来ただけだが」

「そうか……じゃあ、近づくんじゃないぞ」


……


彩斗「は?」

舞 「ん?」

愛菜「え?」


……お?

 何? ここまで露骨に俺拒否られたの?

まあ、こっちから接したくないがな。

とかいいつつ、こっちに勇者パーティーがいると分かったから来たんだけどな。

ちょっと色々話したくてな。

まあ、ここまで拒否られるとは思わなかったが……


「ちょっと、浩介。失礼過ぎない? 依頼を受けて狩りに来ただけなのに、近づくなって、ひどいと思うわ」

「私もさすがにひどいと思います……まだ彼の力も知らないんですし! 知らないんですし!!」

「なぜ二回言う」

「ぬ、ぬぅ……。だが……」


 はあ、面倒くさいな。

この勇者、大して強くないくせに一人でハーレムを楽しもうとしてるだけだろ。

俺的には何でもいいが、花咲さんがこいつに惚れるのはなんかムカつく。

というわけで……


「お前等あれだろ? 勇者の聖剣を抜きに来たんだろ?」

「なっ……! なぜそれを! それは王室の秘密のはず!」

「……なんとなくそう思っただけだ(心を読んだだけなんだがな)」

「ちっ。そうか、まぐれか」

「そうそうw。まぐれだから気にするなw」

「なっ、何を笑っている!」

「いや、何でもw」


 いやー、ちょっと、申し訳なさ過ぎて……

確かに、心を読んだことで聖剣を取りに来たのは分かった。

だが、聖剣を取りに来るだろうな、というのは知っていた。

なぜなら……



あの剣、俺が引っこ抜いちゃったからな。



…………



「つ、着いた……! ここが、聖剣の安置されているという山の頂か! ということは、近くに……」

「……(やべえ、言えねえ。俺が抜いちゃったって言えねえ)」

「……どこだ? ないぞ? 舞! 愛菜! そっちにあるか!?」

「無いわよ。本当にここにあるんでしょうね?」

「こっちにも無いでーす。大きな岩があるだけですね」

「そうか……」

「……(その岩に聖剣ぶっ刺さってました。はい)」

「ところで、なぜお前が付いてきている。神崎」

「え? ユウシャガセイケンヲヌクトコロガミタクテ」

「そうか。だが、その聖剣が無いんだ。これは、国に報告しなければならない!」

「この山というのは間違いないのよね? この頂上に刺さっているというのは間違っていないのよね?」


 間違いないよ。ここにあったからね。

仕方ないか。


「ちょっといいか?」

「なんだよ! しつこいな!」

「いや~。お前らの言う聖剣さぁ……あの……」

「早く言え!」

「抜いちゃった」


……

場を静寂が支配する。


「……なんだと?」

「いや、だから、あの聖剣、力で抜いちゃったんだって」

「「……は?」」

「ど、どういうことだ! あの聖剣は【天啓勇者】を持っていないと抜けないはずだ! それに、仮に抜けたとしても振り回せるはずがない!」

「そうか? 結構普通に使えてたけどな。俺。結局違う剣の方が強いと分かって使ってねえけど」

「今聖剣は何処にある!?」

「えー。多分家にあると思う。取りに帰る?」

「……俺たちは狩り続ける! レベルを上げるんだ!」

「いや、私は聖剣を見てみたいんだけど。世界最高とまで言われた剣を見てみたいじゃない」

「私もです。勇者の代名詞ですよ。見たいに決まっています!」

「ぬぅ……」


 というわけでマイホームへレッツゴー。

置物に入ってればいいくらい。もしかしたら売っちゃってるかもしれない。

ま、その時はその時か。



…………



「で、お前の家はどこにあるんだ」

「北に二千キロ行っ―――――」

「ちょっと待て。今、なんて言った? 北に二千キロだと? 馬鹿も休み休み言え! それほど離れているなら、今から気軽に行ける距離ではないだろう!」

「は? 二千キロぐらいだったら十秒ぐらいで着くだろ? 何言ってんだ。お前」


「「「?????」」」


「ん? 俺なんか変なこと言ったか?」

「変なことしか言ってないぃ! 二千キロだよ!? 二千キロ! 一瞬で魔王城に着くじゃん!」

「さすがに二千キロは遠いし、十秒は早すぎ……」

「ほんとなんなんだよお前! さっきから!」

「(無視)さー、行ってくるから、待っといてくれ」

「あ、う、うん……」


 十秒は言いすぎたか。せめて五秒で帰って来る。

本気だ。


【虚王輪廻】


「んじゃ」


 その瞬間。


 バシュンッ!!


「あ、消えた」

「瞬間移動系統のスキルでも持っているのかしらね」

「にしては、地面に足跡が残っているな。強烈に蹴り出した足跡が」


 ゴオオオオオオッ!!


 ドゴオオオオンッ!!


「ただいま~」

「い、隕石が落ちてきたのかと思いました……」

「おっけーおっけー。五秒以内には帰ってきたんじゃないか?」

「そうですけどっ!」

「ああ、そうだ。ほい。勇者」

「あ?」

「なんだよ。聖剣が欲しかったんだろ?」

「あ、ああ。いや、そうだが。もっと、こう、自分で抜かないと。なんか」

「ったく、しちめんどくせえな」


 そういうと、彩斗は聖剣を地面にズバアン! と刺し、勇者に言う。


「はい。ぶっ刺したから抜けよ」

「は? ただ刺しただけならば、抜くのは簡単だが? 頭を使え、頭を」

「ほう? 簡単か。じゃあ抜いてみろよ」

「! 簡単だと言っているだろう!」


 フン! あれ? 抜けないな。だが、本気を出せば……フン! はぁ!? なぜ抜けないんだ!


 見てて滑稽だ。

簡単に抜ける? 台座にぶっ刺さってた時はな。

今俺は、この場にぶっ刺したうえに、周辺の大地を操って剣を本気で埋め込んだ。

これで抜けたらすげえよ。


「おい~。どうしたよ。簡単に抜けるんじゃねえのかよ? お?」

「な、なぜ抜けない! お前、この剣に何をした!」

「この剣には何もしてないわ。まあ、周辺の大地を寄せて固めたけど」

「それだけで……ッ!」

「えっと、これ手伝った方がいいのかな? 【我天超域】」

「んぬっ! う、うおおおおおっ!!」


 ズボッ!


「おっ、補助スキルあってようやく抜けたか。及第点ってとこかな」

「はあ、はあ。お前、何者なんだ? どういうスキルなんだ?」

「確かに、私も疑問に思います。一瞬で遠い距離を移動したり、地面を動かしたり。前ステータスウィンドを見せてもらった時は、どういうスキルか分かりませんでしたし」

「私も興味があるわ。説明してくれないかしら」

「……ったく。しゃあねえな」


 彩斗はダルそうにステータスウィンドを開くと、スキルの欄を見せた。


「俺のスキルは、【虚王輪廻】。敗者の能力スキルを喰らうスキルだ」





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