第2話 勇者に草が生える
魔物の蔓延る世界、アース。
そんな世界で生きていくにはレベルとスキルの質が大切になって来る。
無論、どれほど戦闘に適性のないスキルでも戦えるには戦える。レベルのおかげで。
しかし、何があっても一流にはなれない。
スキルが戦闘に向いていないと、それだけで不利なのだ。
「っと、着いた着いた。にしても、高い城壁、にぎやかな街。いい国だな。ヴァルマンは」
そう感想を漏らした彩斗が門をくぐり入ろうとすると、左右に構えている門番から呼び止められた。
「すまない。『ステータスウィンド』を見せてもらえないか? 身分証明をしてもらわないと、こちらが困る」
「ああ、そうだな。悪い悪い。【ステータスオープン】」
「ふむ。月神……と。よし、いいぞ」
「あざーっす」
ステータスウィンド。身分証明書みたいなものだ。
名前、レベル、保有スキルが書いてある。
門番たちが見るのは主に名前とレベルだがな。
ステータスウィンドを開くことなんて、自分のレベルが上がったかなーってのを見るくらいしか出番がない。
人と話すときに、これ見よがしにステータスウィンドを開いていると、人間関係が悪くなるってのがあるからな。
自身のレベルやスキルを確認するくらいしか出番がないのだ。
…………
彩斗は、屋台で焼き鳥を買い、ヴァルマンの東に位置する街を歩いていた。
ここヴァルマンはそこそこ大きい国なため、様々な機能が潤っている。
勿論、ギルドの機能も。
そのため、ここでパーティーメンバーの募集をしている人も多い。
おっと、パーティーは何か説明しないとな。
パーティーってのは、ギルドで受けた依頼を攻略するための仲間みたいなものだ。
でも、ただの協力関係というわけではなくて、強固な繋がりが生まれている人たちで組む人たちが多い。
パーティー内には『役職』というものがあり、
『前衛』、『後衛』の二つが主だ。
戦士や拳闘士などは前衛で攻撃をすることが多く、魔法使いや僧侶が後衛で魔法を撃ったり、回復したりする。
まあ、パーティーによってそこら辺は違う。戦士が四人いたり、たった二人だけのパーティーだったり、異常に人数が多かったり。そこら辺のバランスはそのパーティーによる。
様々なパーティーが一体の大きな魔物を倒すため、組んだりする『レイド』というのもあるが、それ専用のパーティーもあるしな。
…………
久しぶりに来たヴァルマンの街並みを見ながらぶらぶらしていると、広場から何やらやかましい演説が聞こえてきた。
「なんだ? 街の中心部で叫びやがって。って、なんか書いてあるな。なになに……『パーティー募集中! 魔王討伐の旅に出るため、仲間を集めています! 将来性のある人、強い人大歓迎! 最大二人まで募集しています!』か」
「うるっせえな。もっと静かに集めろや。」
と、内心思っていたが、口には出さなかった。なぜなら、演説をしている男女の横に開かれているステータスウィンドを見たから。
Lv:120
スキル:天啓勇者・光天魔術
【天啓勇者】 これは、いわば神から直接、「お前は勇者だ」と言われた者を表す。
このスキルを持っているだけで、敵を倒した時の経験値取得量が常人の倍になるし、他のスキルの効果が大幅に上昇する。こいつの場合は【光天魔術】だな。光系統の魔法を使えるスキルだ。
世界に一人しかいない存在、勇者。そんな勇者が、パーティーメンバーを募集している。これがどれほどの幸運かみんな分かっているため、ここまで熱中しているのだ。
「なぜこの世界から魔物がいなくならない!? なぜ毎年魔物による災害が起きる!? なぜギルドがクエストを発行しなくてはならない!? 魔王がいるからだ!」
「「「「「……」」」」」
彩斗「ふわぁ~あ(ギルドのおかげで金が稼げてる奴が沢山いるんだよ)」
「国と国の間を移動するのに、なぜ傭兵を雇わなければならない!? 魔王がいるからだ!」
「「「「「……」」」」」
彩斗「あ、焼き鳥あと一本しかねえ(魔王のせいじゃねえよ。無知が何語ってやがる)」
「今俺たちは、魔王による世界の支配を解きに行く! この世界を救うんだ!」
「「「「「うおおおおおおおっ!!!!!」」」」」
「お前達も来ないか!? 世界を救う一人になりたくないか!? 歴史の一ページに名を連ねないか!? 勇者と宿命づけられた俺と、賢者と天啓を受けた彼女がいれば、何も問題ない! さあ、来たい者は立候補せよ!」
「「「「「うおおおおおっ!! 俺は行くぜえええ!!!」
彩斗「最後の一本か……(んー。あの勇者終わってんな)」
あの勇者の内心を当ててやろうか。
『よしよし。何人か可愛い子がいるな。魔王討伐に参加するって言ってくれたら、あの子たちだけは受け入れるのにな~。楽しい旅になるぞ~♪』
だ。絶対。
「おい、勇者さんよ! 俺はどうだ!? 生まれてこの方、魔物を狩り続けてきた! レベルは百三十二だ!」
そういい、ステータスウィンドを見せる。
そこには、Lv:132と、スキル:強体熱化とあった。
「おおー」と、周辺からどよめきが起こる。百三十二というと、結構なレベルである。十分強い方ではないか? という雰囲気が出るが……
「ダメだ。次」
「!? なぜだ!?」
普通に受かると思っていた男は驚愕し、広場に集まっていた人々からも、「そーだ」とか、「なんでだよー」という声が聞こえる。
それに対する勇者の返答。
「あなたからは、将来性が感じられない。それに、スキルの【強体熱化】というのは、身体能力を上げ、体から熱を発するスキルのようだが、近接なら俺がいる。せめて、何か長所を持ってくれているといいんだがな」
「ッ! くそっ!」
まあまあ強い奴だろうに、断るんだな。
そりゃあさっきの思惑があるからな。
「じゃあ、その隣の女子はどうなんだよ! ステータスウィンドを見せろよ!」
「分かりました。【ステータスオープン】」
Lv:65
スキル:天啓賢者・全魔無欠・導光淵視
「れ……レベル六十五じゃないか! なんで彼女はいいんだよ!」
「彼女は、教会で育った子で、賢者だ。それにスキルが潤っている。【全魔無欠】は、全ての属性、火、水、風、土、光、闇の魔法が使えるし、【導光淵視】は、数瞬先の未来をみるスキルだ。素晴らしいだろう?」
ふむ……確かにレベルは低いが、スキルはいい。【導光淵視】は俺も使えないしな。勇者はともかく、あの賢者の方は将来性がある。
ってか、教会で育ったの関係あるか?
「俺はどうだ!? レベルは九十二だが、スキルが強力だ! 戦士に向いてるぞ!」
と、スキルが殲滅力の高く、将来性の高い屈強な男が立候補しても、
「ダメだ。そこまで強くないだろ。それに、レベルが低いのは致命的だ」
とか、
「俺とかどうですか? 魔法使いを生業としています。スキルは、【焔炎魔術】と【流水魔術】の二つ。レベルも百二十と高く、後方で援助ができます!」
と、細身の男が名乗りを上げても、
「ダメだな。魔法が使えると言っても、体が弱かったら、この旅に付いてこれないだろう」
とか、隣の賢者は? と言われたら言葉が詰まりそうなことを余裕で言ってのける勇者。レベルが低くて、体が弱そうなのは何処の賢者だ!
でもやっぱ、みんな立候補してるけど、こぞって落ちてるな。って、ん?
勇者が気にしてた女子が迷ってんじゃん。行くかどうか。
行くように後押ししてやるか。
「なあ、お前、行かないのか?」
「ふえっ!? あ、えーっと、迷っていて……」
「ほお。どうして?」
「私よりも私よりもすごい人たちがみんなダメなのに、私なんかが行ってもダメなんじゃないかと思って……」
「あーそういうことね。大丈夫大丈夫」
「え?」
「絶対大丈夫だから、行ってみろ。落ちたら俺の首を差し出すから」
「え、ええ!? く、首って……」
「そんくらい絶対だから、まあ行ってみろって」
「ま、まあ、それほど言うなら……」
それを信じ、「わ、私はどうですか?」と聞く少女。
体も比較的小さく、思わず守ってあげたくなるような少女の登場に、広場に集まっている人々も、少し静かになる。
それに対し、勇者は、
「採用。パーティーに迎えよう」
当然、ブーイングの嵐。そりゃあそうだろう。少女がステータスウィンドを見せると、
Lv:46
スキル:身治神癒・我天超域
「レベル四十代!? 先ほどの賢者様より低いじゃないか! それに、スキルは治癒系統と、範囲内の味方を強化するスキルだけじゃないか! どうして彼女は入れるんだ!」
「それは、将来性があるからに決まっているだろう」
……
「は?」
「彼女は、役職で言うと僧侶だ。パーティーのみんなを回復させられる素晴らしい役職だ。それに、レベルが低いということは、まだまだ伸びしろがあるということだろう?」
「だ、だが……」
さてさて、皆スルーしているが、花咲の持っているスキル、二つともすごいからな?
【身治神癒】の治癒力は、瀕死から一瞬で癒せるレベルだし、【我天超域】の強化レベルは、恐ろしいほどに高い。
赤子がスライム倒せるくらいにはなる。
ま、それを加味してもレベル四十六は低いが。
さて、あと一人のようだが……
まあ、皆落ちてるよな。俺も行ってみよっかな~。入る気は無いけど。
「はいはーい。俺どう? レベル二百超えてるよ~」
そう言い、ステータスウィンドを見せる。
広場に集まっていたやつらは、「おおっ!!」とか、「これは行けるだろ」とか言っている。
スキルの欄を見て、頭の上に?を浮かべる人も多かったが、レベルの欄に驚いてスキルは見ていない人が多い。
俺的には、「さあ、強さと可愛い子、どっちをとる?」って感じ。
えー勇者の反応。
「……ダメだな」
「「「「「えぇ~っ!!??」」」」」
「ふーん……やっぱそうか」
「どうしてですか!? あの人、レベル二百ですよ!?」
おっ、さっきの女子が味方してくれてる。多分無駄だけどな。
「レベルは高いが、スキルは……なんだあれ? よく分からん! 魔王の手下かもしれないやつを、パーティーに入れることはできない!」
「「「「「えぇ~……」」」」」
無茶苦茶理論をぶちかまして来る勇者に、さすがのみんなも引いている。
しかし、そこは勇者。引き際は分かっている。
「また、入りたいと思う者は俺の泊まっている宿に来るがいい! そこで話は聞く!」
みんな引いていながらも、何だかんだ付いていきたい。今まで魔王を倒したパーティーは無い。しかし、勇者と賢者が揃っているパーティーも珍しい。このパーティーぐらいではないだろうか? 魔王を倒すという偉業を成し遂げるかもしれないのだ。皆付いていきたいに決まっている。
そんな心理を利用したのだろう。
「俺が行く!」や、「俺はどうだ!」とかが聞こえる。
呆れかえった俺は、いまだ人で埋め尽くされる広場を後にした。
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