第29話 ローズ視点

私はローズ・ウエスト男爵家の令嬢として生まれたの。


小さい頃から家族も、周りのみんなも「かわいい、天使」と言って甘やかされて育ったわ。

特にお父様は可愛くお願いすればなんでも与えてくれたわ。


でもお母様は我儘になりつつあった私を心配して、将来困らないように家庭教師を雇ってくれたの。


そこで貴族の中でも男爵家は低位だと家庭教師に教えられたの。

だから少しでも上の爵位の方と結婚できるように一生懸命勉強もしたし、礼儀作法も覚えたわ。

だから自信を持って学園にも入学したの。



入学式前、早く着き過ぎた私は少しだけ学園内を探索していたの。

私とすれ違う男の人には目が合うとニッコリと自慢の笑顔を見せると顔を赤くして目を逸らすの。

だから学園でもきっとチヤホヤされると思ったわ。

その中から素敵な男性を選べばいいと・・・


そんなことを考えながら歩いていると、前から真剣な顔で走ってくる男性がいた。スラリと背も高く、顔も凄く整っていた。

知り合うきっかけが欲しくてワザと前に出てぶつかったのに「ワルい」と言われただけで振り向きもせずに去って行ったの。




入学式が始まって、新入生代表の挨拶に出てきた女性は儚げな美しさと気品を兼ね揃え、凛とした姿を見せた。

誰もが見惚れる、そこにいるだけで周りの空気も変えるような存在感、彼女ほど綺麗な人は見たことがなかったの。

アスパルト公爵家のご令嬢、ティアリーゼ・アスパルト様だと知ったの。

彼女には何もかも敵わないとわかったわ。


在校生代表挨拶はこの国の第1王子様だったわ。

優しい笑顔に堂々とした気品ある佇まいはとても美しく、端正なお顔は惹かれるものがあったわ。


でもそれだけ。


この学園で婚約者を見つけるつもりだけど、

そこまで高望みはするつもりはないの。

男爵家よりもちょっとだけ上の爵位の方に見初められればいいと思っていたの。





学園にも慣れた頃、あの時ぶつかった彼を見かけたの。

いつも柔らかく微笑んでいる第1王子様とは違い、無愛想だけど整った顔立ちの第2王子様。


いつも柱の陰からアスパルト公爵令嬢を優しい眼差しで見つめていると気づいた時、王子様でも片思いするのだと、何故かおかしくなったの。

だからなのか私も公爵令嬢を目で追うことが多くなっていたわ。

見つめているのは彼だけじゃなかったし、アスパルト公爵令嬢に見惚れている人はたくさんいたの。



だから、少しだけ私も注目されたくなったの。





相変わらず、アスパルト令嬢を探して柱の陰にいる第2王子様にワザとぶつかってみたの。

「痛った~い」と涙を潤ませながら見つめても知らん顔されたわ。

歩けないと手を出してもだめだったの。


立つタイミングが分からず、そのまま座り込んでいたら、「大丈夫ですか?歩けますか?一緒に医務室に行きましょう」と白い綺麗な手が差し伸べられたの。

アスパルト公爵令嬢だった。近くで見ると本当に綺麗な令嬢だったわ。

無意識に手を取ろうとした時、第2王子様が

公爵令嬢の手を取ったの。


その時、何故だか公爵令嬢が憎くなったの。

美貌も教養も地位も何もかもに恵まれている彼女が羨ましくて、妬んでしまったの。

気が付くと睨んでいたわ。


医務室に連れて行かれても痛みなんてあるわけないわ。仮病だもの。

痛くもない足首を治療してもらっている時、

6人でランチを食べに行く話になっていたの。

慌てて私もメンバーに入れて欲しくてご一緒したいとお願いしたのに治療中の為連れて行ってくれなかったの。


公爵令嬢が後で様子を見に来てくれると言ってくれたけど、勝手に仲間はずれにされたと思い込んでしまったの。


授業の終わりのチャイムが聞こえるまでイライラしていたわ。


医務室を後にして歩いていると前から公爵令嬢と友人たちがこっちに向かってくるのが見えたの。

気づいた時には体当たりしていたの。

公爵令嬢は私と一緒に転んだのに、心配までしてくれたのに、私はあたかも意地悪されたかのように振る舞ってしまっていたの。


騒がしくなった頃、彼女の兄レオン様が現れたの。彼は彫刻のように端正な顔立ちに、スラリとした長身、圧倒的過ぎる程の存在感。

残念ながらいつもは無表情。彼は2人の王子様よりも人気があるの。

私も憧れたけどそれだけ。


彼はすぐに妹を大事そうに抱き抱えたわ。


私も手を差し出したけど、冷たい目で見られたの。




次の日、食堂で公爵令嬢のことを嵌めることばかり言ってしまっていたわ。

詳しく聞こうと周りに人が集まってきた時、同情されるような言い方をしてしまったの。


やっと冷静になれた時にはアスパルト公爵令嬢の噂が広がった時。


1週間程で噂は治まったけど、申し訳なくて謝りたくても、近づくことも出来なくなっていたの。


何であそこまでムキになっていたのか、それも嘘までついて・・・バカだったの。


私のしたことは許されることではないことは分かっているわ。

噂を治めてくれた人には感謝しているの。

怖かった。人の悪意は本当に怖かった。

私の行動と言動で、あの優しい手を持った彼女を傷つけてしまったの。


もう絶対に間違えないわ。


残りの学生生活は真面目に勉学に励み慎ましく過ごすことにするの。


だから本当にごめんなさい。

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