第7話 臓器の密売組織 

 地下の向かいあう牢獄に1人ずつ放りこまれる。

 僕と視線をあわせると,誠皇晋は腰をおろし,牢獄の壁に背中を凭せて両眼を剝いた。「最悪……」

 地下牢全体に充満する忌まわしい臭気の出処を確かめる。僕の入る牢獄の左隣に先客がいて衣類に吸収しきれない糞尿が臀部下のコンクリートに滲出していた。しかしそれを遥かに凌駕して全身に纏わりつきながら目や鼻や喉を攻撃しつつ脳天を打ちのめす人為汚臭と言っても不快の万分の一も表現しきれない,彼に独特な香水のにおいが,右隣の牢獄から発散されてくる。

「芥?」海老の形に臥していた,においのもとが身を起こす。悪臭が巡りめぐる。

 民俗学者 溢樽祭いっそんさい たける は 鉄格子に 顔面を 押しつけた。「加護もいるのか? 牡丹萬華村以来じゃないか――」片瞼がひどく腫れあがり,口端に乾いた血がこびりついている。

「どうして,いるのさ?」僕は鉄格子から距離を置いた。

「フィールドワークだよ」溢樽祭が腕を突きいれてオイデオイデをする。「未確認飛行物体と地球外生物の情報を得て調査をしていたのさ。すると,とんでもないことが知れた――流星運送の実態だよ。奴らは臓器の密売組織だ! 社会的弱者を集めてきては臓器の提供を強要しているのさ!」

「勝手に喋んじゃねぇ!」少年が肩までのびた茶髪を揺らせて階段をおりてくるなり棍棒で鉄格子を叩きならした。

 左隣の囚人が泣きだした。少年が鉄格子のなかに棍棒をさしこんで囚人の坊主頭を打ちすえた。誠皇晋が一喝する。少年が誠皇晋の牢獄に躍りかかり棍棒を振りあげたものの,しばらく相手を凝視してから腕をおろし,地下牢をあとにした。

「君も何かの臓器を売ったのかい?」溢樽祭が震える坊主頭に問いかけた。

「薬,おくれや。ほしたら教えてあげらい」啜りなきながら失禁する。

 溢樽祭が自分のことを棚にあげて動物を追いはらうみたいな手振りをした。

「俺,持ってるぜ――」誠皇晋が身体検査のとき,うまく隠しおおせたグミの入るミニパッケージを坊主頭の牢獄へ放りなげた。「特注の上物だ」そう偽ったが,純粋な菓子である。

 坊主頭がパッケージを壊し,三和土たたきに散らばったグミを犬食いしてから,まだ傷の癒えない腹部を見せた。

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