第6話 最新式輸送機と犯罪集団

「御連絡くださったら東京からお送りしましたのに」堺は満面の笑みを湛えた。「朔夜島までいらした人ははじめてです。どうやってここまで?」

「みなさん御親切で――」僕は答える。「色々助けてくださいました」

「それはあり得ない――」相手の言葉を一笑に付す。「諸島界隈の人間は排除的で冷酷だ。盗賊さながら身ぐるみはがして飽きたらず,なお奪おうと見境がない。そうした血脈なのです。よほど浪費しましたね? うちで精算させてください」

「いえ,大丈夫です――」まさか幼馴染みが全部払ったとも打ちあけられない。「特に下弦島の方には親身になっていただいて――謝礼を渡そうとしても,お受けとりにならず困りました」

「……ははっ,下弦島は無人ですが……」堺は笑みのなかに困惑を交えた。

「そうらしいですね。でもその方がモーターボートで送ってくれたんです」

「下弦島から朔夜島までは潮流が不規則で甚だ激しい。とてもボートなどで渡れる海域ではない」

「でも僕らは実際に――」隣の誠皇晋を見た。「だよね――」

「宇宙人だ」誠皇晋の瞳にぶれはなかった。

「ええ?」堺が怪訝な色を浮かべる。

「宇宙人が,ボートに仕立てたUFOで,下弦島から朔夜島までワープさせてくれたんだろうよ」

「宇宙人なんて実在しませんよ――」堺が頭を振りつつ俯いた。

「実在するって。正真正銘,目のまえにも宇宙人どもがうじゃうじゃしてやがる――あんたらだって宇宙人じゃねぇか」

 堺が苦虫を嚙みつぶしたような表情の顔をあげ,鼻先を突きあげて威圧的に人を見る誠皇晋と睨みあった。

「面白い……」ふっと吹きだしてから堺は僕に問いかけた。「こちらの方は付き添いですか?」

「え,ええ――そんな感じです」

「付き添いの方が私どもを宇宙人だと思うのは,これのせいでしょう」背後の円盤に一瞥を与える。「うちの開発した最新式輸送機です。大型ドローンと思っていただければ分かりやすいでしょう――いや,言われてみれば確かにUFOだ。で,UFOを乗りまわす私どもは宇宙人ということになりますね」一つ二つ手を打ち,声をあげて笑う。

「許可を受けてねぇだろ?」誠皇晋は,僕を相手に話す堺の視界に割りこんだ。「こんなドデカイ物体を好き放題飛ばして安全上の許可がおりるはずねぇ。つまりは法に反した業務をしてるってわけだ。だから人目を忍んでこそこそ活動してるが,輸送機と犯罪集団を目撃した人間はUFOとか宇宙人とかいう臆測をたてたんだな」

「それで?――」堺は誠皇晋から顔を背けたまま言った。「うちへ来るお気持ちは,かたまりましたか?」僕に尋ねているのだった。

「かたまんねぇよ」誠皇晋が即答する。「こんな怪しい会社の正社員なんかにされたかねぇよ」

「芥さん?――」やわらかな物腰で再度問われた。

「あの,僕は,不便な場所は苦手で――」それ以上は言葉が出ない……

 堺の溜め息が終わらないうちにリムジンから複数の男たちがおりてくる。そのなかのグレーアッシュに濃紺のメッシュをいれたスパイラルパーマ頭の男が,薄灰色した小さな丸型レンズの眼鏡を指で押しあげながら,徐に黒光りする筒状の道具をさしむける。

きわまり社長,いけませんよ。物騒なものを出しては」堺が顔面を皺くちゃに窄めてから薄らわらいを浮かべた。「ああ,もう誤魔化しきれない」

「とっくに誤魔化んないっしょ――」極と呼ばれた若者が銃把を握りなおした。

 誠皇晋と僕とは拘束され,輸送機で運ばれた人間や車の向かった建造物に収容された。有刺鉄線の張りめぐるそこはかつて刑務所として使用された廃舎をリノベーションしたものだという。

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