第4話 樹海での告白
足が縺れて転倒する。先を行く誠皇晋がUターンして僕を助けおこした。2人とも荒い息遣いをしながら何度も咳きこんだ。
「ヤバかったな,さっきのじいさん」
「じいさん?――おじいさんじゃない。僕らと同い年ぐらいさ」
「俺にはじいさんに思えた。さしずめ何百年も生きてる地球外生命体ってとこかな」
2人の視線が
「島にいるうちは大人しくしてようぜ。1泊だけして明日には帰ろう」
交通アクセスの障害,島民たちの疎外感,アーモンド型巨眼をもつ白銀男――流星郷での仕事を受けたくないと言った誠皇晋の予感は的中した。もし流星運送がブラック企業でないにしても,生活の拠点を置くにはあまりに環境が悪過ぎる。縁がなかった――そう思うことにしよう。正社員としての就職は別の機会に回せばよいのだ。「――だね。明日には帰ろう」
「おう――」
僕たちは妙な安堵を共感し笑いあった。
「問題は今夜だな。旅館とかあるのかよ。まさかここも無人島だったりして?――てか,俺たち,迷子になってんじゃねぇ?」
樹海のなかにいた。
絡みあう枝葉の隙間にかいまみえる薄灰の空さえも,たちこめる濃厚な霧におおい隠されようとしている。
「日没までには何とかしねぇと。けど下手に動けば体力を無駄にするだけだし……」
「セイノシン,隠していてごめん」姿勢を正し,頭をさげてから言葉を継いだ。「僕の流星郷に来た本当の目的は取材旅行に同行するためじゃない。実は,実はね――正社員になるためだったのさ。そのために流星郷に所在する流星運送という会社の重役を訪問するのが目的だった」
「ああ,そうなんだ」あっけらかんとしている。
「黙っていたこと怒らないの?」
「別に。おまえのことだから俺を仰天させようとしたんだろ。サプライズ!とか言ってさ,給料で寿司屋につれてったりして――へっ,お生憎様だ。そんな思いどおりに事が運ぶかよ」げらげら笑う。
「笑うな。僕だってちょっとはできると思わせたかったんだよ」
ますます捧腹する。「流星運送て? 聞いたこともねぇ。運輸関連ならよ,流通網の整備されない未開の島に会社なんかつくるかよ。きっと,そりゃブラックだね」
「そうかもしれないけど――逆にそうだから,かもしれないじゃない。未開だからつくった――」
誠皇晋が真顔になる。「そう……だな。確かにそうだ」
少しだけ面目の保たれた気になった。
「就職は断るよ。でも今晩の宿泊所ぐらい相談してもいいんじゃない?」
誠皇晋が樹海に視線をくぐらせた。「野宿は御免だ。雪に降られるのも熊に食われるのもインベーダーにさらわれるのも真っ平だ」
僕は堺の名刺をとりだし,誠皇晋にスマホを貸すよう求めた。
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