第2話 UFO,見にいかない?

 豚肉とキャベツと茸の炒めものをつつきながら,加護かご 誠皇晋せいのうしん は濃い一文字眉と異国情趣漂う目との狭い間隔を一搔きしただけで,スマホの着信履歴を残した相手に連絡しようとしない。

 フリーライターの依頼らしい。一旦は断ったのに先方が繰りかえしアプローチしてくるので困っていると呟く。依頼主は「あなたの知るべき世界」というウェブサイトだ。そこは読者から寄稿された情報を探査して真相を報道する,一部のつうに人気のオタクサイトだ。そして吸血鬼の出るという牡丹萬華村ぼたんまんげそんでの調査レポートを誠皇晋に昨年依頼したところでもあった。

「ここの仕事はやらねぇ。まえみたくヤベェ事件に巻きこまれたかねぇからよ。奇しくもまた四国だし」

「へぇ,四国なの? 四国と縁があるね」面接後に出会った堺を思いだす。

「――だろ。四国の何ていったけ……流星郷ながれぼしごうとかいう地名だったな」

 朔夜島さくやじま霧間郡きりまぐん流星郷――堺からもらった名刺に記されていた会社の所在地だ。

「そこで何かあったの? 何を調べろと言われたの?」

「未確認飛行物体――UFOだよ。矢鱈滅多出没するそうだ。UFOから出てくる宇宙人を目撃したっていう書きこみもある。人体実験された奴もいるって噂だぜ。そこに宇宙アジトがあるんだな」

 ……期待しているわけではない。未知瑠の言うようにブラック企業かもしれない。しかし仮にまともな会社なら,正社員になって誠皇晋を驚かせてみたい。今まで迷惑かけたとか照れわらいしながら紙幣の数枚も握らせて寿司だのビールだの奢ってやるのだ。

「ねえ――UFO,見にいかない?」

 誠皇晋は口を半びらきにしたまま絶句している。

「僕も一緒に行きたい」

 誠皇晋が炬燵から出て胡坐を搔いた。「は? 何て?」

「仕事の依頼を受けたらどう? 僕も流星郷へついていこうかなぁて」

「ついていこうかなぁて――何を言ってる? 去年俺たちは命の危険にさらされたんだぞ」

「去年は――運が悪かったのさ。あんなことはそう何回も起こるもんじゃない」

「俺はいやだね。悪い予感がする」

「人には臆病だとか小心だとか言うくせに,いざとなったら自分こそ肝がちっちゃいね」

「何だって――」

「第一,選りごのみなんてしていると仕事を干されちゃうから。居候に牛肉ぐらい振るまえる経済力をつけてほしいね。脂身のコッテリしたビフテキとかいっぱい食べたい!」

「食わしてやるよ!――」

 誠皇晋はキッチンへ猛進するなり冷蔵庫に短髪頭を突きいれ,白い蒸気のわきたつ肉塊を摑みだした。

 滋養強壮を得て目覚めた翌日未明,四輪駆動に飛びのった僕たちは吹きあれる烈風に運ばれるみたいに本州の果てまで到達し,空も白まないうちに瀬戸大橋を通過してもう今は西海の孤島に渡る港湾地帯へ迫っていた。

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