銀河星人の待つ孤島――惑乱の人➁――

せとかぜ染鞠

第1話 流星運送四国本社総務部長堺ジェヌニーダ

 冷笑と失笑と苦笑に追われながら試験会場を逃げだした僕は,4 0 歳ぐらいの 会社員に声をかけられた。「先程の面接はひどかった。人事の教育を見直すよう必ず伝えますので――私,こういう者です」と名刺をさしだす。「流星りゅうせい 運 送四国本社総務部長 さかいジェヌニーダ」と印字されている。

「再チャレンジを支援する――それがうちのモットーです。都心での御就職にこだわられますか?」

 誰かに名前を呼ばれた。陸橋歩道の上からだ。着物姿にもかかわらず軽快な足どりで駆けてくる。

「是非連絡していらっしゃい。よい御縁のありますように――」堺は念押しするみたいな目礼を残し立ちさった。

 いれかわりに 髪を結いあげた 和装美人が話しかけてくる。「あくたくん―― 芥くんよね」

 未知瑠みちるは僕の通う中学の非常勤講師だった。僕はクラブのママに転身した未知瑠と3年前に再会し,彼女の店でボーイとして働いたが,2年ほど経ったころ,ある出来事をきっかけとして店に出入りできなくなった。

「戻ってきなさい――事情は知らない。でもね,突然姿を見せなくなって随分心配したのよ」

 僕の無断退職した事情を,未知瑠は知っている。何故なら僕を彼のもとへ行かせたのは彼女なのだから。そのせいで僕は深い傷を負った。

 スーツを着た教え子の就職活動を看取した未知瑠は,根掘り葉掘り質問ぜめにして流星運送の社名を聞くなり,ブラック企業だからやめておけと忠告した。その後,巧みな会話術にはまり,僕は身を寄せる幼馴染みのマンションの住所表示まで教えてしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る