第18回「指」:指約束

 指切りが嫌いだった。指を「切る」という字面の不穏さが嫌いだった。

 指を絡めること自体は好きだ。相手と指を介して触れ合える安心感は大好きだ。

 でも後に続く「嘘を吐いたら針千本飲ます」という言葉は物騒過ぎる。脅しでしかない。


 だから指を絡めて誓い合う行為にわたしは罰則を用意しなかった。指切りではなく「指約束」と呼んで、その行為を愛した。指約束を交わしてくれた相手を愛した。



 それで平穏だった筈なのに。






 ため息を吐いて、目の前の空席を見つめる。

 頼んだ飲み物が空になっても相手は現れなかった。


 指約束を交わした相手だった。指以外も触れ合った相手だった。




 そう、あなたは指を切り針千本飲むと誓わなければ駄目な人だったのね。



【了】

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