第7回「朝」:隣人のきみ

 長らく空きだった隣室に住人が入ったらしい。朝、足早に駆け抜けていくハイヒールの音が聞こえてくるので女性のようだ。午後から大学の研究室に行き、夜間はぶっ通しで実験、始発で寝に帰ってくるライフスタイルの俺では直接会う機会のない相手。ただ寝ながら彼女の足音を聞くだけの日々だった。


 そんなある日、どうしても朝から研究室に顔を出す必要があり、眠い目を擦りつつ玄関を出たとき。


「あ!」


 いつものハイヒールの音に可愛らしい声が重なった。

 振り返った先には見慣れない小柄な女性の姿が。


「お、おはようございます〜」


 何故か真っ赤な顔でいつもより更に駆け足で去っていった足音を聞き届けて思った。



 隣人のきみ、可愛い系だったのか。



【了】

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