第5回「待つ」:待ち人は

「おや、あなたも待ち人来たらずですか?」


 ふと隣に人が立つ。スーツ姿のシュッとしたお兄さんだった。


「僕もそうなんですよ。もうずっと待っているんですけどね」


 アハハと笑う彼の顔にやましさはない。


「あ、ナンパではないですよ」

「分かっています」


 彼はただ話し相手が欲しいだけだということ。彼の待ち人がもう来ないこと。そもそも、その待ち人が誰かも覚えていないこと。

 全部分かっています。


「わたしの待ち人は来ましたよ。たった今」


 不思議そうに首を傾げる彼の手に触れて笑う。そのだ。


「お待たせして申し訳ありません。あなたを迎えに来た者です」


 彼を還るべき空へと導く。そのために来たのだ。



【了】

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