第4回「靴」:拾ったお礼

 石段に小さな下駄が片方落ちていた。黒塗りに赤い鼻緒の小さな下駄だ。

 これが大理石の階段にガラスの靴なら童話だったのだが、ここは神社へと続く石段。寧ろ神隠し的恐ろしさがあった。


「すみません」


 ふと頭上から子供の声が。

 石段の先で可愛らしい着物姿の少女が手を振っていた。


 よかった、神隠しの跡ではなかったか。


 下駄を丁重に抱えて石段を上り、少女に手渡すと。


「わたし、ここから出られない身なので助かりました」


 にこりと笑って、少女は忽然と姿を消した。


 えっ消えた? こ、今度こそ本物の神隠し?


 少女は結局見つからず、大混乱しつつも参拝だけは済ませたのだが。



 後日、無事にブラック企業との縁が切れたのは、彼女なりのお礼だろうか。



【了】

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