第41話 カルト教団(1)

「……あの、赤黒いスケルトン。大した強さだった」

 この世界のアンデッドって、あんなに強いのだろうか。

 上位種とはいえ、あんなに手こずるとは思わなかった。

 まあ、ゲームのイメージなんだけど……。


(これは、油断すると簡単に負けるかもね)

 アーティファクトが幾ら強力だとは言え、使ってる本人は病弱キャラだったのだから。

 最近は体調が良いと思っていたのに、とんだ冷や水を浴びさせられた気分だ。


「はい。一時的にですが、大魔王の加護を得たのでしょう。

 それで非常に高い魔法抵抗を得ていたのだと思います」と、しおりさんが言う。

「あの瘴気の力かな?」

「ええ。間違いないかと」


「でも、ただの瘴気ならば、聖水で押さえ込むことが出来るんだぜ?

 しかも、俺のとっておきの聖水を使ったんだ。

 が、それでも消し去ることが出来なかった」

 ロベルトは納得いかないようだ。

「それは貴方の信仰心が足りないからでしょう」

「違えよ。いつもなら一発で消すことが出来るんだ。なのによ……」

 言い淀むロベルト。どうにも歯切れが悪い。


「あのロングソードは、魔剣だったのかな?」僕はロベルトに聞いてみる。

「違うだろう。

 あの男も、それなりに名のある傭兵だったけど、魔剣を手に入れられるほどの稼ぎはねえよ」

 ロベルトは首を横に振る。

「第一、魔剣なんて、アーティファクト並の価値があるぜ?

 それでも万が一、魔剣を手にするほどの傭兵ならば、間違っても冒険者狩りなんかして稼いでいねえ。

 そんな羽振りの良いヤツならば、何処かの貴族に雇われているだろうよ」

 そう断言したのだ。


 そうか。やはり魔剣と名乗れるほどの逸品を入手するには並ならぬ苦労があるのだろう。

「それと。魔剣にしては、耐久性に問題が有ったんじゃねえか?

 幾らなんでも、簡単に砕けすぎだろう」とロベルト。

 それは僕も同感である。

 攻撃力は文句なしだったけれど、紫電のレイピアの一撃には耐えられなかった。

 まあ、レイピアは、アーティファクトだからなあ。

 魔剣でも対抗できないのかもしれない。


「……攻撃力。切れ味だけの特化しているのかも知れませんよ?」と、しおりさん。

「そんなことが出来るのかい?」

「消耗品。

 使い捨ての道具だと割り切れば、威力に特化出来るかも知れません」

「うーん。消耗品、ねえ……」

 だけど、そんなに簡単に量産なんて出来るのだろうか……。

「それは、この場で議論しても結論は出ないでしょう。

 現状では、推測の範囲を出ませんから」

「それもそうだね」


 呪い、瘴気。魔剣。そのどれも気になるが、それよりも気になることがある。

「あのロングソード……いや魔剣。あの時の武器に似ているんだよ……」

「はい。あの時の武器と同質のモノだと推察します」と、しおりさんも同意した。

「そうだろうね」

 あの時戦った暗殺者、アイツが所持していた業物と同じ雰囲気がしたのだ。

 ただ、魔法抵抗力といった、防御面に関しては、今回の方が上だったけれど、総合的にはあちらの方が完成度が高かったと感じるのだ。


 だが、そのことを調べる術は無い。

 あの魔剣、ロングソードは完全に消滅してしまったために、手掛かりは残されてはいないのだから。

 確かにこの辺りは消耗品と言えるだろう。


 思考を、暗殺者の業物に切り替える。

「すると、あの業物も瘴気を、大魔王の呪いを利用していたのか……」

 確かにそれならば辻褄が合うのだ。

 だけど……

「瘴気を制御する方法なんて、あるのかな?」

 そんな便利な方法があるのならば、とっくの昔に黒の森の開拓は、完了していてもおかしくないのだが……。


「瘴気が気になるのか?」とロベルト。

「うん。それに加え、あの赤黒いスケルトンのこともね」

「そうか。まあ、あんな奴と戦ったんだから、そう思うわな」

「あんなヤツが、この森をウヨウヨしているのかと思うと、ねえ」

「確かに稀にいる。俺らだけではお手上げの強さのヤツもな」

「やっぱりそうか……」

「だけど、大抵は前座のヤツ程度の強さ……。

 いや、むしろ強い方かもな。

 大抵のアンデッドは、聖水を引っ掛ければ、弾け飛ぶ雑魚みたいな連中ばかりさ。

 黒の森を舐めてかかって、準備を怠らなければ大事ない」


「ああ、そうなんだ」

 僕は少しだけ安堵した。

 もう暫く先になるだろうけど、

 しっかりした拠点の確保を終えた後、ディアナとアルヴィンの修行を兼ねて、この森の探索を手伝って貰おうと考えていたのだ。

 なにせ、城の出入り口は僕以外知らないのだから。

 だけど……。

(恐らく、ディアナは感づくだろうな。あの子は聡いから)

 だから、勝手に動き回られる前に、僕の目の届く範囲に置いた方が都合が良い。そんなことを朧気に考えていたのだ。


 だけど、それは強敵が居ない。この前提があっての話だ。


 瘴気は探知出来ても、あんなアンデッドが徘徊するのなら、幾らアーティファクトの護衛があっても心許ない。

(そう言えば、クーやサンチョの実力はどの程度なのだろう)

 実際の所、彼らの実力は未知数。

(まさか、二人のお目付役ぐらいは務まっているよな?)

 ウイルバーン城には、城の守護者の結界が張られている。

 更にアーティファクトの護衛があれば、十分だろうと考えていたのだ。


 まだ、暗殺者のリーダーのフリは、見破られてはいないはずだ。

 危害を加えることもないのだと判断したのだけれど……。

 クーのつぶらな瞳を思い出した。

 どうも戦闘向けでは無かったような気がする……。


 まあ、ウイルバーン城で何かをする。

 それは難易度が高いことは、僕が身をもって知っているのだけど……。

(何だか心配になってきたぞ。後で連絡を入れるとしよう)

 初日から何かが起こるとは思えないけれど、妙に気になってきた。


 僕の顔色は、かなり悪く見えたのだろう。

 ロベルトが心配そうに声をかけてきた。

「瘴気を制御出来るかどうか知らねえが、瘴気を利用しようとした愚か者なら知っているぜ」と。







































 


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