第30話 ディアナとアルヴィンのお目付役

ディアナ、アルヴィンを宝物殿に連れて行く。

 念のため二人には目隠しをしてもらおう。

「これから凄い所に連れて行ってあげるよ」

「本当」ディアナの顔が輝く。

「ああ。だけど、秘密の場所なんだ。二人は秘密を守れるかい?」


「守れるよ」「はい」二人は勢いよく肯く。

「よしよし」素直な返事。だけど、どこまで信じて良い物か……。

「じゃあ、連れて行ってあげよう。

 だけど、本当に秘密の場所だから、目隠ししなければ連れていけないんだ。

 それでも良いかい?」

 目隠し用のハンカチを取り出して見せた。

「目隠し?」「うーん」悩む二人。まあ、目が見えないと怖いかもしれない。


「ああ。残念だなあ」僕は大げさに落胆する素振りを見せる。

「せっかく凄い所へ連れて行ってあげるのに」

「そこにはどんなものがあるの?」とディアナが食いついてきた。

「まあ、しおりさんみたいな子が居る場所かな?」

「え。欲しい」アルヴィンが前にでる。

「連れて行って」続いてディアナも。

「じゃあ、約束は守れるよね」

「うん」「はい」

「ああ、分かったよ。連れて行ってあげるよ」


 少し遠回りをして宝物殿へ向かう。

 宝物殿の、扉の前でしおりさんが光を放つ。扉がゆっくりと開かれた。


 重装備が並んでいる場所を避けて、小物が多い場所へ向かった。

「もう取っても良いよ」二人は早速目隠しを取った。

「うわあ」感嘆の声。二人の前に輝く小物が並べられたケース。食い入るように見つめている。


「ここって魔法道具だけ? それともアーティファクトも混じっている?」と小声でしおりさんに聞く。

(半々ですね)

「そりゃ凄いな」以前僕が来た時よりも輝いているかもしれない。

 単純に、僕に加えて、ディアナとアルヴィンもアーティファクトに気に入られる素養があると言うことだ。


 二人は夢中になって小物が収められたガラスケースを見て回る。

 二人が物色している間、僕も見て回る。


「おや」珍しい形の眼鏡が目に入る。

 片方しかない眼鏡。いわゆるモノクルというタイプの眼鏡で、昔の絵画で見たことがある。

 マンガにも、コナン君のライバル怪盗が付けていたはずだ。


 モノクルがキラリと光ったような気がした。

 何気なく手に取る。やはりうっすらと輝いている。

「マスターに選んで欲しいのですよ」としおりさん。

「そうなの?」僕はそっと手に取る。モノクルが明滅した。

「来るかい?」モノクルはゆっくりと明滅する。


「そうか」僕は早速モノクルをかけてみた。

 簡単にずり落ちそうなのだがしっかりと固定されている。だけど窮屈な感じはしない。

「不思議な感じ。度数が入っていないのか」

 片側だけ眼鏡をかけているが違和感を覚えない。

「まあ、それがアーティファクトなのだろうけど」

 実力のほどは、城外に出てから色々と試してみるとしよう。


 後、武器か防具が欲しいところだ。

 小手にしようか短刀にしようかと悩んでいると、誰かに呼ばれた気がした。

 振り向くと中々良い感じの短刀を見つけた。

 マンゴーシュだ。これならレイピアと相性は良いだろう。

 まあ幻影のマントがあるのだから、最後の砦という感じだけど。


 そのマンゴーシュもホンノリと光っている。

 僕はそっと手を伸ばして品定めをする。

 重さをまるで感じない。羽毛の様な軽さだ。

 しっかりとしつらえた鞘から抜くと、漆黒の刃が見えた。武具の真贋には疎いが、これはかなりの値打ちがあると思われる。


 漆黒の刀身が鈍く光る。

「君も来るかい?」

 マンゴーシュは明滅して返答した。

「よし」鞘に戻すと腰に固定した。


 今回は前回と同じく、かなりの収穫だ。敵の動きを避けて、カウンターでの攻撃。このスタイルで行くならば、装備面ではもう十分だと思う。

「さて、二人は誰を見つけられたかな?」



 僕が想定しているのは、ディアナとアルヴィンたちに、自由に連絡を取れる魔法道具だ。

 これなら二人の状況を把握できる。

 最悪、二人に危険が迫ったときに逃がしたり隠せると考えている。

 まあ、欲を言えばアーティファクトが良いんだけどね。


 アーティファクトは魂がある。

 だから、欲しいと思っても使えるかどうか分からないのだ。

 だから使い勝手が悪いとも言える。

 しかし、その見返りとして他の魔法道具を遙かに上回る高性能を手に入れるのだから、十分だとも言えるだろう。


 個人的には共に戦う戦友、という感じがして悪い気はしない。くじけそうなとき励ましてくれる存在は貴重なのだから。


「お兄様、この子がいいわ」とディアナが見いだしたのは、クマの人形であった。


 見た目は派手な色合いの服を着たクマの人形だ。

 ピエロ、道化師の身なりをしている。

 少しアンニュイな雰囲気で、ぱっと見では、くまモンみたいだ。

 ただ、色合いは、ラップのCMで見たクマに近い。坂道を転がり落ちるアレだ。


「よし」僕はケースからクマの人形を取り出した。

 ディアナの前に見せると、ヒョコリとひとりでに立ち上がる。

 パチリと瞳が開かれた。

「おお、マスター。ご尊顔を賜ります」クマのピエロは恭しく頭を下げる。

「このクマさんは……」少し興奮気味のディアナ。


「ああ。アーティファクトだね」

 ……本当にアーティファクトを見つけ出した。

 僕は内心かなり驚いている。


「おお女帝(エンプレス)よ」とクマが慇懃にディアナに頭を下げる。

 かなり芝居がかった仕草である。


 女帝という言葉が気になる。

 確か王宮で国王に意見を伝えるのは道化師だ。

 ふざけた姿と言動で煙に巻くが、その言葉の中には真実が隠されている。

 かなり意味深なヤツなのか? 見た目はくまモンなのに?


「女帝? えへへ」と満更でもない笑顔のディアナ。

「この子の名前。えっと……。クマだからクーちゃんだね」とストレートな名前だ。

「おお。我が輩に名前を下賜されるとは……。このクー、感謝に堪えませぬ」

 プーさんと同レベルのネーミングセンスである。本人?も気に入っているみたいだから、まあ良いか。


「うーん」今は判断がつかないな。

 ディアナを気に入ったアーティファクトならば、マスターに対して悪いことはしないだろう。



「兄様、おれはコイツが欲しい」

 アルヴィンが見いだしたのは、騎士の人形であった。


 騎士の人形はフルプレートとフルフェイスで身を固めている。

 だけど三頭身にディフォルメされていて、親しみやすい柔らかなフォルムである。

 ただ色合いは、とある宇宙の騎士を連想させる。


 まさか骨肉相食む事態にならないよな。

 僕は少し慎重にケースを開けた。


 ひょこっと起き上がる騎士の人形。

 興味深そうに、じっと見つめるアルヴィン。

「はは、このサンチョ、将軍閣下に忠節を誓いまする」と騎士の人形はサッと敬礼をした。


 サンチョという名前と騎士の姿は、ドン・キホーテを連想させる。

 日本ではドン・キホーテは風車に突っ込んだ間抜けな騎士というイメージだが、それはキリスト教の教養がない者が言うことだ。

 原本を読めばイメージががらりと変わると言う。

 まあ、大学での単位を取るために翻訳本を斜め読みした程度なので、語れるほどではないけれど。


「将軍だって。じゃあお前はおれの家来だな」

 将軍と呼ばれて嬉しそうなアルヴィン。

「御意。どこまでもお供いたしまする」ビシッと敬礼するサンチョ。


(しかし、将軍とは……)

「まさか、ね」二人は未来を知っているのか? 僕がいなくなった可能性、将来の身分としては間違ってはいないのだろうけど……。

 このおちゃらけたアーティファクトたちをしげしげと見つめる。

 見た目通りの道化師なのか、それとも……。


 ふと、僕とクーの視線が合う。

 クーが、つぶらな瞳で見つめ返してきた。

 ……この表情からは、サッパリ分からない。



「しおりさん」と小声でしおりさんに話かける。

(何でしょう)

「二人はどんなタイプのアーティファクトなの?」

(わたしに記された情報では、クーちゃんとサンチョの両名はわたしと同じサポート型です)


「ならば、秘密の扉や、転送陣を使用出来るわけか」

(いいえ。彼らにその権限はありません)

「え、本当?」

(はい)と自信たっぷりに答えた。


「へえ。すると、しおりさんの方が格上なのか……。

 しおりさんって相当凄いのかい」

(はい、凄いのですよ)と、何処となくドヤ顔に見える。


「なるほど、ねえ」

 まあ、ウィルバーン城に隠された扉や通路を見いだせるのだ。

 薄々感じていたけれど、しおりさんは相当格上のアーティファクトなのだろう。

 まあ、これ以上褒めると、ひっくり返りそうなので言わないけれど。


 あの二人は、転送陣の使用と、宝物殿の入室許可をする権限はない。

 そう聞いて一安心だ。あの二人はマスターであるディアナとアルヴィンにかなり甘そうだから、ディアナたちにせがまれると、勝手に僕の後を付いてきそうな気がしたんだよな。


(この前みたいに、知らぬ間に暗殺者に付け狙われていたら、たまったもんじゃない)

 三人揃って仲良く女神様の元に向かわれた、そんな結末を迎えるかと思うとゾッとしてしまう。


(まあ、アーティファクトのお目付役が出来た、そう考えれば悪いことではない)

 ディアナとアルヴィンの防御面に関しては申し分ない結果と言えるだろう。

 ウィルバーン城に居る限りは、安全面の心配はほぼ完全に無くなったと言っていい。


 これでウィルバーン城での問題は、粗方片付いた。

 次の段階へ進むとしよう。

 まずは古の魔女エレオノーラから得た情報から、尖塔へ向かう。

 尖塔から向かった先。そこには何があるのだろう。


 まあ、行ってみないと何も分からない。どう動くかはその先の状況次第だ。

 その後、次の一手を考えよう。

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