第11話  宝物殿に行きましょう

 「それでは魔女の館に向かいましょう。ですが、その前に……」

 しおりさんは、僕が入ってきたドアの前に向かった。彼女がぽうっと光るとドアの前に魔法の錠前が浮かび上がり、カチャリと音を立てた。

「これで我々以外、誰も自由に母君のお部屋には入れません。

 では行きましょう」


 僕は小首をかしげる。

 出入り口は、しおりさんが封印した。どこへ行くのだろう?


 しばらく彼女の動き見ていると、しおりさんは柱時計の下へ向かった。

 光を放ちながら、パラパラと自身のページをめくる。

 柱時計全体が発光すると、時計の正面に、下へと降りる階段が見えた。


「隠し通路か」

「外へと続いています。さあ行きましょう」


 階段を降りてふと気づく。

 魔女が住む森はどんなところなのだろうか。獣や魔物がいるのではないのだろうか。

「あ、でも丸腰ではなあ……」

 武器の一つも持っていないのはどうにも心許ない。

 まあ、このポンコツの身体では大した動きは見込めないだろう。

 だけどさっきから、何だか力が湧いてくるような気がするんだ。

(ひょっとしたら……)

 そんな淡い期待もあるのだ。


「何か凄い道具はないのかな?」と僕が尋ねると、

「わたしがおりますが」しおりさんは、しれっと答えた。

「いや、しおりさんは最後の切り札みたいなもので、他に武器が欲しいんだ。流石に手ぶらは心許ないからね」

「ふむ、なるほど。

 つまり、武器のアーティファクトでしょうか?」

「そう。それだよ」

「ならば宝物殿に行きましょうか」



 しおりさんの先導で、廊下を横に曲がる。すると上に続く階段が現れてきた。階段を昇ると、天井がありそこから先へは進めない。

「どうぞ」

 しおりさんが明滅すると、天井が開き、外に出られた。


 そこはツンとかび臭い古びた廊下であった。あまり掃除も行き届いていないみたいだ。

「ここは何処だろう」

 城内は広くて、僕はとても全てを把握していない。

「一階の物置部屋の隣廊下です。物置部屋はここ二十年は使われた記録はありません」

 開かずの間みたいなものらしい。

「あれ、その部屋じゃないの?」

 しおりさんは、その部屋を素通りした。てっきりその物置部屋に秘密があるのかと思ったんだけれど、彼女はスイスイと隣の廊下へ進む。


 廊下の奥、そこは行き止まりで何もなかった。

 しおりさんがまた明滅する。淡い光が収まると扉が現れた。

「おお、こんな所に入り口が……」

「さあマスター。どうぞ中へ」

 僕は期待を胸に宝物殿の中へ入っていく。



 宝物殿の中。そこは超一流の宝石店の中みたいだ。ショーケースのような陳列棚が部屋中に置かれている。

「これ全部がアーティファクトなのか」

「はい」

「凄いな」

 これらが全てアーティファクト、つまりしおりさんみたいな特別な魔法道具なのだ。


「どれを持って行こうかな」

 中をよく見ようとケースに手を掛けた。が、開かない。

「あ、あれ? しおりさん開けてくれないか」

「それは無理です」

「何故?」今までみたいに彼女が光れば開けると思ったんだが……。


「アーティファクトは、わたしみたいに意思を持っています。主と認めた方以外は使用できないのです」

「ええっ。本当なのかい」

 そういう大事なことは最初に言って欲しいものだ。


 それに、主をアーティファクト自身が見定めるのならば、こんな貧弱キャラは相手にしてもらえないのかではないだろうか?

「何だか自信を無くすなあ」

 ガックリと肩を落としてしまう。期待していただけに落胆は大きい。


 アーティファクトを手に入れられる、と聞いて先ず思い浮かべていたのは、

 悪役女帝が所持していたアーティファクト。『暗示の秘宝』とか、

 冷酷非道将軍の『魔剣ドラッチェオーン』とか……。


 両方とも、聖女を苦しめたチート級のアーティファクトだ。

 手に入れられるのなら、是非とも欲しかったのだが……。

 僕の実力不足だと言われると何も言えないのだ。


「そちらは最上位のアーティファクトが置かれている場所です。言わば皇帝専用のアーティファクトたちですよ?

 今のマスターが使えるアーティファクトならば、こちらの棚に有ります」

「え、有るのかい?」

 どうやら全てのアーティファクトに相手にされていない訳じゃないみたいだ。しおりさんの浮かぶ場所へソソクサと駆け寄る。

 部屋の隅にあるあまり大きくない棚である。


 先ほどの陳列棚よりは狭い。だが僕を主だと認めてくれるのならば、この際どんなものでも文句は言っていられない。


「これか」僕は陳列棚の前に立ち、透明なケースを凝視する。

 思っていたよりも結構な種類のアーティファクトがある。

 剣や鎧の武具からマント、指輪などの小物まで。

 先ほどの陳列棚は重装備のアーティファクトが並んでいたが、こちらは軽装備で、小物が多いようだ。


「へえ、案外種類があるもんだね」

 それらアーティファクトを手に取ってみた。

 まあ名品の真贋なんて分からないから、どれもが凄いと信じてみよう。

 屋外での探索に使えそうな品を優先して選ぶことにした。


 現在の僕が手にすることができるアーティファクトはこれらである。

 武器、レイピア。

 重さを感じないほど軽い。比喩ではなくまるで羽のような軽さである。細身の刀身に彫刻が彫られていて魔力も籠もっているみたいだ。


 防具、マント。

 薄手の生地で肌触りも良い。これも魔法の力が込められているみたいだ。マントは弓矢の防御に使えるんだっけ。


 ロープ。文字通りロープである。

 だが、麻紐が束ねられたものではなくて、僕も知らない金属で出来ている。

 これは森の中で色々と使えそうだ。もしかしたら崖を降りるとかありそうだから。


 最後に靴である。

 部屋履きで外なんか歩けない。この靴は、とても軽くて履き心地も良さそうだ。


 早速着替えてみた。それぞれのアーティファクトは、まるで僕専用に仕立てられたみたいにしっくりとくる。

「似合うかい?」

「はい。みんなもマスターに選ばれて喜んでいますよ」

「そうか。それは照れるな」

 こんな病弱皇太子を選んでくれるとは有り難い。手にしたアーティファクトたちは、文字通り僕の命を守ってくれる品である。

 頼りにしているぞ。

「さあ出発だ」

「了解です」

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