第8話 僕の味方は誰だ? 指輪が希望の光を灯す
城の守護者とは。
僕たち兄妹の命を守っていると同時に宿敵であるイグナートを守っている魔法技術の結晶だ。この恩恵を、何とイグナートも享受しているのだ。
城の守護者は味方でもなければ敵でもない。厳正な中立なのだ。
イグナートがこのウィルバーン城で、僕たち兄妹と同居(とは言っても同じ区画に暮らしてはいない)しているのは、皇帝の後継者は成人するまでこの城で暮らすというしきたりがあるからだ。
一つは帝王学を学ぶこと。二つ目が城の守護者に力を見せるて、正式に後継者だと認められることである。
だが、イグナートがこの城で暮らす最も大きな要因は、あいつも命を狙われているからだろう。
暗殺を防ぐにはこの城の魔法防御が魅力的なはず。他のどの様な施設よりも図抜けているのだから。
あいつも敵が多い。議長と組んで、強引なやり方で力を蓄えているのだから。
イグナート暗殺未遂は、僕が知っているだけで3回ある。
もちろん、僕は暗殺なんて命じていない。
それに、仮にやろうと画策しても、実行してくれる直属の部下がそもそも居ないという悲しい状態だ。
貴族連中は、死にかけの病弱皇太子に利用価値は見いだしてはいないだろう。
それでも、皇太子というブランドには値打ちがあるようだ。僕が命令しなくても、僕を信奉、利用する勢力により、イグナートは機会があれば命を狙われているのだ。
お互いを高め合うはずの後継者候補の競争。裏では熾烈な足の引っ張り合い。
身内なのに、暗殺だってお構いなしの現状。
人を呪わば穴二つ。本当に皇太子なんかに生まれるものじゃない。
何処に味方はいるのだろうか。
この世界が、あのゲームと同じ内容なのだとすれば……。
ゲーム設定と、現世の記憶も総動員させて、脳みそをフル回転させる。
頼りになる直臣はいない。僕が動くしかない。
帝都周辺に味方はいない。いるのは帝国の外輪である国境付近。
味方を呼ぼうと城の外に出る。それは自殺に等しい行為だろう。
暗殺者の存在。どうやっているのかは分からないが、城の守護者の目をかいくぐって、未遂だが暗殺をやってのける手練れである。
病人がどうやっても敵う相手ではない。
僕が、味方と連絡をつけようと迂闊に城外に出れば襲撃されて、簡単に殺されるだけだろう。
「誰だ。頼れる人物は誰がいるんだ?」
必死になって脳みそを絞る。他の登場キャラは誰がいた?
「クライセナ王国はどうだ?」
クライセナ王国。乙女ゲーの舞台となる国だ。光の女神を信奉し、豊かな大地と高い文明がある大国である。
だけど大きな問題がある。
「祖父さんのヤツが四方に喧嘩売ったからなあ」
祖父の無謀な拡大政策のため、周辺国とは折り合いが悪い。
「もしかしたら、それでも聖女は助けてくれるかもしれないが……」
帝国が崩壊するのを困る国ももちろんある。帝国が魔族の侵攻を防ぐ防波堤の役割をしているからだ。
善人の筆頭である聖女や、正義感の塊みたいな王子たち主要キャラならば、もしかすると……。
「いや、やっぱり駄目だ。他国の介入は、後始末が厄介だぞ」
他国の介入を招けば、帝国は内戦に突き進むのではないか。ただでさえゴタゴタしているのだから、現状がより悪化するのは間違いない。
光の女神と闇の女神という相反する女神を、それぞれ崇める陣営である。
とんでもない内戦になるのではないだろうか。
世界史では、内戦による滅亡コースも多い。良くても傀儡にされる可能性もあるのだ。
そうなると、帝国国内にいて頼れる人物は……
「誰もいない?」
頬を伝う冷たい滴。僕は勢いよく汗を拭う。
「いてて」頬を堅い何かで強くこすってしまった。
「指輪?」
母親である女帝ヒルダの形見の指輪だ。
母が亡くなる直前に、
『これはとても大切な指輪なのです。貴方を窮地から救ってくれるでしょう。その時がくればアレは開きます』
と、言っていたことを思い出した。
「救ってくれる? 今がその窮地なんだけれど」
この古びた指輪が何の役に立つのか見当もつかない。僕は盛大にため息をついた。
ため息に反応するかのように、指輪が柔らかい光を放つ。三度明滅した。
「え? 指輪が光っている。初めて見たぞ」
今まではただの宝石だったはず。それが、深い蒼の中心に光がともっている。
「昨日までとは何が変わったんだ?」
いつも通りの病弱キャラだ。頭を打って死にかけたぐらいだ。後は……。
「記憶、なのか」
前世の記憶を取り戻した。それが一番変わったことである。だけど、指輪がそんなことを理解しているのだろうか……。
指輪がゆっくりと明滅する。僕に語りかけてくるみたいだ。
「その時が来ればアレは開く、か……」
開かずの扉、確かにこの城は馬鹿でかい。封印された扉もいくつもある。が、それではないだろう。僕が知っているものだと……。
「そうだ。母の机の引き出しだ」
母の部屋にある机。鍵がかかっていて誰も開けられなかったのだ。そのことを思い出したのだ。
「もしかして、この指輪があの引き出しの鍵なのか?」
何の確証もないのだが、それが本当だと思えてしまう。ともかく母の部屋へ行くことにしよう。何か、手がかりがあるかもしれない。
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