第15話  私にしか出来ないこと






「王妃様。今宵はパーティーに招待していただきありがとうございます」


 私のその言葉に、アラン殿下は招待したのは自分だと言いたげな顔をしたが、無視をする。


「身分も財産も、全てを失った私に、いつも気にかけてくださり、手を差し伸べて頂いたこと、なんてお礼を述べていいものか……」


 王妃様は見覚えがないということを全く表情に出さず、私の言葉を真剣に聞いていた。


「働き口のない私に、紹介してくださったヴェルメリオファミリーは、私にとってかけがえの無い家族となっております」


 そんな事実はないが、ヴェルメリオファミリーが王家と繋がりがあるとわかれば、たくさんの魔法使いがいてもなんら不思議ではない。


「私と、私の家族であるヴェルメリオファミリーは王妃様、あなたへの感謝を決して忘れません」


 私のその届けと言わんばかりの感謝と、感動で潤んだ瞳に、結果として全ての貴族は、私が王妃をどう思っているか同じ感想を持つことになった。


「私たちは今、スラム街であったリベルダの復興に尽力しています。いすれこの復興の輪を広げていき、王妃様のご期待にそう働きをすることをお約束します」


 これで王家派閥はヴェルメリオファミリーを狙うことは難しくなる。国政のほとんどを担っている王妃様の配慮を無碍にはできないはずだ。

 反王家派もリベルダの3大勢力の一角、大人数を誇るヴェルメリオファミリーを懐柔できないとわかれば、表立って王家とヴェルメリオファミリーに反旗を翻すことはできないだろう。しばらく国政を静観する他ないはず。


「私はこれからも、平民ではありますが貴族としての責務を全うし、王妃様の憂う国民を導き、魔法使いとしてウィチェリー国の繁栄のために、王妃様と御心同じにする所存でございます」


 皆私の言葉に聞き入り、王妃の返答を息を呑んで待った。

 王妃様は見せ方をわかっているのだろう。手を私の方に差し出した。

 私はその手を取って頭を垂れながらその手に誓った。


「メイ。あなたと、あなたが全幅の信頼を置くヴェルメリオファミリーの働きに期待します」


 その言葉に皆思っただろう。

 ヴェルメリオは今後の一切を、王妃様の命で動くことになる。自分たちの安全は保障されたものだと。

 その安堵なのか、一斉に「さすが王妃様だ」などと言う声や拍手が沸き起こった。

 

 顔を上げると王妃様は私の手を引いて私を抱きしめた。

 そして小さい声で私の耳元で囁いた。


「あなたに、助けられたわ」


 助けてもらったのは、私のほうだ。王妃様は全てを察して、私の主張に見合う言葉をかけてくださった。私を平民として扱うと言うことは、魔女狩りが王妃の目の届くところで行われることはもうないだろう。魔法使いの集団であるヴェルメリオファミリーが王妃の手中にあるとなれば、もう誰もリベルダに下手に手を出せない。そして魔法使い不足である王家の威厳の回復にもなる。


 ウィンウィンだと思ったが、王妃様がそう言ってくれなければ全ては水の泡だった。


 私はカインの方を見た。


「なんとかまるく収まったね」


 子供のような無邪気な顔だった。とてもあの恐ろしい炎呪を継いだものとは思えない。

 私はハイドとイブを見た。

「俺たち王妃様の犬になっちゃった?」

 ハイドの言葉に王妃様は「お馬鹿さんねえ。そんなものみんなを安心させるための建前よ」と彼の頭を撫でながら小声でそう言った。

 イブは終始感心しているようだった。

「これが王城のパーティー!」

 イブのその言葉に、カインは「いやいや、いつもこんなイベント起きないから。ふつーは踊って飲んでお開きだから」と補足説明していた。


「でも困ったわね。あなたのその魔法だけは……私、容認できないわ」


 王妃様はカインを見ていた。みんな祝宴モードで、誰も私たちのやり取りにもう関心を持っていないとはいえ、大きな声で話せない話だけに、私たちだけは張り詰めた緊張感の中にあった。

 カインを処分するつもりだろうか。彼氏が嘘だなんて言わなければよかったかもしれない。どうしよう。


「ではこう言うのは如何でしょう」


 カインは笑顔で手から炎を出した。


 その炎の大きさに、会場にいたものは再び視線を我々の方に向けた。


「相伝魔法は貴族なら相続義務がある。私が、この炎呪を永遠に放棄することをお許しください」


 カインは椅子に手を置いた。

 その椅子はみるみるうちに燃え広がっていく。


 椅子は当主にしか壊せない。


 そう言っていた。そうか。この椅子がなくなれば……。


「許可します。あなたの聡明な判断を高く評価します」


 カインはその返答に対し、炎の温度を上げ、椅子は一瞬にして灰となって朽ちていった。


 その行為に再び周りから歓声と拍手が起こった。

 みんな強く手を叩いて、しばらく鳴り止まなかった。



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