第2話 少年の葛藤、少女の宣誓

魔術と異能による文明開化が華やかしい二十一世紀初頭。

 遺伝によって素質が決まる魔を司る『魔術』、運に左右されるが先天的な素質ではなく後天的な発現で異質の能力を手に出来る『異能』。この二つの技術の発展により、人類は以前より遥かに高レベルの文明を築いていた。

 体内の魔術回路に魔力を通して戦う魔術師、自身の精神力を対価に魔術回路無しで魔術と同等の異界の力を行使する異能者。彼等の技術力は、そのまま国力に影響するレベルに重要性は増して、世界各国で予算をかけて注力する1つの分野になっていた。

 第一次世界大戦---世界で初めての大規模な戦争で国民の肉体と科学力で勝敗を決した。

 第二次世界大戦---二度目の戦争であり、世界各国は科学の可能性を見出して核兵器という圧倒的な科学力の暴力を持って勝敗を決した。

 第三次世界大戦---未だに起きてないが、近い将来起こることを予測された前者二つからは予想できない規模の大規模戦闘が予測されている。

 世界が妄信的なまでに、魔術や異能に拘るのは、今までの歴史を紐解けば必然なのかもしれない。


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 先の暴走したバス事件から数十分、不知火高等学校の校門前にて。

 巨大な門を前にして、先程のバス事件を解決した立役者の二人は門を見上げていた。


「不知火高等学校」


 少年は目の前に飾られたプレートに記載された文字を読み上げて、皮肉めいた笑みを浮かべる。


「随分と金掛けてるんだな。比較的平和な日本でさえ、未だに一般人は時代遅れの燃料で動く車で生活してるって言うのに。最後に俺が見た時よりも、更にゴツくなってやがる」


 その言葉通りの光景が、彼等の眼前には広がっていた。

 正面に見えるのは、海外の王族が過ごすような、威風堂々たる校舎。入口の珍しい金属質の塀は10m以上あり、その両サイドには軍服を見に纏った男性が四人、門番をしていた。

 少年達に気付いた男性のうちの一人は、携行しているアサルトライフルを持ちながら近付く。


「君達、明日から入学予定の生徒かな?入学するなら一度、荷物検査してもいいか?」


 少年達の身なりから察したのか、男性の問いに二人は頷く。

 男性は片手で他の男性達を手招きすると、4人がかりで服装や持ち込んでいた荷物の中身を検査する。

 少女は嫌そうな顔をするが、少年が無防備に検査を受けてるのを見て項垂れながら彼女も検査に応じた。


「君達が手にした推薦状……いやはや、これはまた"大物"だな。『破滅の魔女』と『魔女の懐刀』の二人の弟子か。今年は豊作みたいだな。仕事柄、今まで指折りの魔術師や異能者からの推薦で入学する子を見送ってきたけど、今年は異常な程に"多い"。焔光の宴の参加を目指すのなら、ある意味アンラッキーかもな」


 アサルトライフルを器用に脇で挟みながら手にしている推薦状の送り主の名前を見て、男性は苦笑する。

 少女はその言葉に表情を引き締めるが、少女に反比例して少年は表情を緩める。事前に情報を仕入れていた少年にとっては、男性の言葉は今更な言葉である。だが、それでも少年には譲れない"目的"があった。


「まあ、その中でも代表の席を確保してみせますよ。俺達、それなりには強い事は自負してるんで」

「ははっ、"彼女"の前だからなのか強気だな。だが、その調子だぞ"坊主"」


 少年が不敵な笑みを浮かべているのを見て、男性は少年がそれなりに高い技量を身に付けて入学に臨んでいることを察した。

 時間を立ち話で長い事拘束する事でも無い為に、男性は許可証を二人に渡すと今度駐屯所に遊びに来いよ、とだけ言って二人を通す。

 二人は貰った許可証を首から提げて、敷地内に足を踏み入れると突然少年がピタリと足を止める。


「どうしたの?早く行くわよ?」


 少年の不自然な沈黙に、少女はコクンと首を傾げた。


「ここで入学したら二度と"普通"に人間として生きていくことは出来ないぞ?死ぬまで永遠に軍人だ」


 少年は覚悟を確かめるように、少女の瞳を見つめた。見つめ返す少女の瞳に映ったのは、少年の僅かながらの葛藤だ。


「俺の"目的"の為に、お前までここについて来ようとしてる。本来なら、魔夜…今でも俺はお前には平穏に生きる道を進んで欲しいと思ってる」


 少年は少し表情を歪めながらそう言うと、少女は少しも躊躇わずに、腰に提げた日本刀の鞘を軽く小突く。


「紫苑。貴方の隣には、いつでも私が傍に居るわ。それが、血塗られた戦場であっても、"復讐"の為に築き上げた死体の山であってもね。私は、この刀に誓ったもの」


 少女が手にしている刀は、彼女が幼い頃に紫苑によって渡された業物だ。鉄塊など刀の自重で斬れる程の切れ味があり、彼女が誓いを立てた刀は戦場で初めて真価を発揮出来る女性には似つかわしくない代物だった。


「俺に"依存"するな。このまま進めば、お前も俺の"復讐"の道具になるかもしれない」

「あら、それは傲慢な貴方の意見ね。私は、元々貴方が居なかったら"死んでた"存在よ。私は自分の意思で貴方に協力するの。道具程度に成り下がる人間だと貴方が判断してるなら、そんな審美眼の無い目が付いた頭ごと―――――斬り落とすわよ?」


 あくまで、私とお前は対等だ。私の意思で今ここにいると言わんばかりに、獰猛な笑みを浮かべる少女。


「何処までもついて行くわ。戦場だろうと、復讐だろうと、布団の中だろうと」

「ああ、頼むぞ相棒-----布団に入ってきたらキレるからな」

「……………っ!?」

「だから、なんで驚いた表情をするんだ…」


 少年は、ふっと頬を緩め、力強く歩き出す。










 この日、一人の魔術師の少年と、一人の異能者の少女が門を潜った。

 その行く手には、様々な困難が待ち受けているが彼等はどうするのかは、今は神のみぞ知るという事だろうか。

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