この女、性格が悪すぎる


「言いたいことがあるなら言え、わかってるって言ったよな?」

 溜め息まじりに律が言うと、菜緒は渋々向き直った。


「ただの嫌がらせでやっていたので、お金が目的じゃありません」


「あのさ、嫌がらせをしている時点でアウトだから」


「そう……ですね」

 律が苦言を呈すと、菜緒は下唇を噛んだ。


「そのまま動くな」

 菜緒が座ろうとしたので、律は咄嗟に止めた。それから律は菜緒の目の前で屈むと、菜緒のスカートを捲った。


「……やっ!」

 菜緒が悲鳴を上げた。


「今日は白か」

 どうでも良さそうな感じでパンツの色を言い、律は立ち上がった。


「でかいでかい」

 律はそう言いながら、今度は制服の上から菜緒の胸を揉んだ。


 ——こいつに触られると虫唾が走る! やっぱりこいつに犯されるのか!

 菜緒は顔を赤く染め辛そうにしていた。


「あのさぁ……やらないって前回も言ったよな。どんなに容姿が良かろうが、イジメをしていた奴に興味なんてない」

 律が吐き捨てるように言うと、

 ——じゃあ何でパンツ見て胸を揉むのよ!

 菜緒は鋭い眼差しを向けてきた。


「ペナルティだよ。俺に触られるのが嫌みたいなので、今後も一日一回やっていく」

 図らずも槙島教諭が言っていたセクハラをすることになったが、菜緒が強烈な嫌悪感を示すので心を折るには丁度良いと律は思った。


「……最悪」


「それでいいぞ、言いたいこと言え。ま、やることは変わらんがな」

 初めて負の感情と言葉が連動した菜緒に、律は一歩前進したかなと薄く笑った。


「菜緒、お前の飯は?」


「親子丼です」


「はいどうぞ」

 律はテーブルに置かれている親子丼を菜緒に渡した。


「あのう……箸は?」

 菜緒は眉をピクッと動かし律へ聞いてきた。


 そう、律は親子丼だけを渡し、箸は付けていなかった。


「お前、俺に箸を使わせていたか?」

 律は至極当然というような顔で言った。


 —―犬食いをしろってこと?


「そうです」

 動揺を見せた菜緒に、律は言い切った。


「ビニールシート持ってきたよな? それを床に敷いて、こぼれた物も食べろよ」

 律は菜緒に指示を出しつつ、テーブルの前に座り食事の準備を始めた。


「シート敷かせて、食いやすい丼物選んでやったんだぜ。優しいだろ? ありがたく思えよ」


「犬食いをさせる時点で、優しくはないと思いますけど」

 そう言ってビニールシートを敷いた菜緒は、律を睨む。


「プッ! フフ……フフ……アハハハハハ!」

 菜緒の返答に律は思わず吹き出した後、大笑いをした。


「笑えるわぁ。自分で自分を優しくないって言ってんじゃん。俺に犬食いをさせ、尚且つ踏みつけていたのは一体誰だったんだ?」

 笑い終えると、律は言葉と視線で菜緒を射貫いた。


「……私……です」


「だよねぇ!」

 歯を食いしばって言葉を発した菜緒に対し、にっこりと笑う律であった。


「菜緒、見ててやるから早く食え」

 菜緒は親子丼をビニールシートに置きはしたものの、躊躇っているのか一向に動く気配がないので、律が冷徹な声色で言った。


「髪留めを付けてもいいですか?」

 律の態度に逃れられないと感じたのか、菜緒はそう言って顔を上げた。


「おー、いいよ」

 律はコロッケパンのビニールを外しながら答える。その様に、菜緒は少し鼻息を荒げるも自分の鞄を開いた。


 菜緒は髪ゴムで後ろ髪を一つに束ね、前髪、左右の横髪に髪留めを付けた。そして、菜緒はゆっくりと親子丼へ顔を近付け食べ始める。


その矢先、卵がビニールシートにこぼれた。


「あーあ、こぼれちゃった」

 コロッケパンを咀嚼しながら律が言った。


 ——踏みつけられる!

 と、菜緒は食べる動作を止めたが、律はイチゴオレを飲み嘆息する。


「踏みつけねぇよ。そこまでやったクズのお前と一緒になりたくないもん」

 律が鼻で笑うと、菜緒は悲しさと悔しさが入りまじったような顔をした。


「ガッツリ顔を突っ込まないと食えないぞ。あと、舌を上手く使え」

 菜緒は口先だけで食べているので進んでおらず、律はアドバイスをした。菜緒はそれでも律の言うことを聞かなかったが、結果全然進まないので最終的には顔を突っ込んだ。


「見てても楽しくねぇなぁ。これやらしていて楽しかったの?」

 菜緒が丼物に顔を埋めている様を眺め、律は呆れた口調で言った。


 すると、菜緒はガバッと面を上げる。顔には親子丼の具と米がこびりついていた。


「顔汚っ!」

 菜緒の有様から、反射的に律は言葉を発した。


「スッキリしましたし、楽しかったですよ」

 開き直ったのか、菜緒は不敵な笑みを浮かべた。


「今更だけど……お前最低な奴だな」

 菜緒の反応に、律は軽蔑の眼差しを向けた。


「そうかもしれませんね」


「それ以外にねぇよ。ただのクズじゃん」

 菜緒は不貞腐れた態度だったが、律がさもありなんと鋭利な言葉で刺す。すると、開き直っていたであろう菜緒の表情が徐々に曇っていった。


「何でやったのかなぁ? ねぇ、菜緒ちゃん?」

 律は頬杖をつき、あえて挑発的な言い方をした。


 ——言いたくない。

 菜緒はムッとし、再び親子丼に顔を突っ込んだ。


 律は深読みをしようと右手の親指と人差し指と中指で丸を作り、右目に近付けたが途中で止めた。下ろした右手でイチゴオレを手に取り、ストローで吸った。


 鳴かぬなら鳴くまでまとうホトトギス。


 学がない律でも小学生レベルの日本史はわかる。最終的に天下を取ったのは徳川家康だ。その性格に習い、言いたくなるまで待つか。と、律は焦って事を進めなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る