やられたのでやり返すが、全く興味はないから


 律は立ったまま壁に背を預け、菜緒を凝視し口を開く。


「とりあえず、下着姿になってくんない」


「……は?」


「は? じゃない。お前、俺の下半身丸出しにしたろ? 下着姿で許してやるって言ってるんだよ。それとも裸の方がいいのか?」

 いやらしい笑みを浮かべもせず、律は淡々と述べた。


「い、いえ……裸は嫌です」

 大きく首を振った菜緒に、

「だったら、早くしろ」

 冷たく返す律であった。


 律の態度から従うしかないと判断したのか、菜緒は立ち上がると制服を脱ぎ始めた。


 菜緒が衣服を脱いでいくたびに、スタイルの良い身体があらわとなり、高校生の癖に艶めかしいなと律は感じた。菜緒は脱ぎ終え下着姿となり、両手でブラとパンツを隠す仕草をした。


 ——こっちに来ないでよ!

 律が菜緒に近付こうと歩き始めると、菜緒の表情はより一層強張った。


「手をどけろ」

 菜緒の前にきた律は、顔色一つ変えずに言った。


 ——嫌だ嫌だ嫌だ! 何でこんな奴に! ホント最悪!


 うるせぇなぁ……こいつ。と菜緒の顔から漏れる言葉にうんざりしつつも、律は屈んでパンツを見てから立ち上がって胸を見る。ちなみに、ブラとパンツは同系色で淡い青色だった。


『それに来栖さん……おっきいから!』

 律は菜緒の胸を見ている最中、槙島教諭の言葉と動作が脳裏をよぎった。


「確かにでかいな。何カップ?」

 律は淡白に聞いたが、菜緒の顔は赤くなり目線を下げた。


「……F……です」


「それはでかい方なの?」

 ——知らないのに聞いてきたの? このアホ! クソ! マジで恥ずかしい!

 菜緒の顔は更に紅潮していった。


「大きい……方……だと思いますけど」

 か細い声で返してきた菜緒に、

「ふーん」

 と、律は簡素な相槌をしながら両手で胸を揉んだ。


 乳房が手からはみ出るので、菜緒や槙島教諭が言った通りでかいのであろう。と律は思いながら胸を揉みしだいていた。


 そんな中、

 ——いっやぁぁあああああ! 気持ち悪いよぉ! マジで最悪! あーあ、このまま私はこいつに犯されるんだ……もう終わった。

 菜緒は顔を真っ赤にして喚いていた。


「さっきからうるせぇなぁ! 犯さねぇよ!」

 言い掛かりも甚だしいので、律は手を離し声を上げた。


「ふぇ?」

 と声を漏らし、菜緒は涙目になっている。律は大きな溜め息を吐き、

「俺はお前に下半身の一部を弄られてんだぞ! やられた嫌さがわかったか?」

 そう言った上で、五歩ほど後ろに離れてから携帯電話のカメラ機能で菜緒を撮った。


 ——あ……写真を撮られた。これで強請られて、私は何も抵抗できないままこいつの慰み者になるんだ。そんなの、死んだ方がマシだ。


「だからやらないって言ってんだろ! 勝手に妄想を膨らませやがって、お前はそういう趣味でもあるのか?」

 菜緒の妄想に、律は再び反論した。


「じゃあ……何で?」


「今から説明するが、先に服を着ろ」

 怯える菜緒に律は頭をかきながら座った。


 菜緒は律の指示を受け直ぐに着替え始め、制服姿に戻ると正座をした。そして律は菜緒の前に座り、首の関節を鳴らしてから喋り始める。


「始めに言ったが、お前の性根を直すため俺が相手をすることになった。長期戦になりそうなので、まずはお前が逃げないように写真を撮らせてもらった」


 ——私が逃げたら写真をバラ撒かれる?


「というより、自傷行為を避けるのが最大の理由だな」

 律が菜緒の意を汲み説明すると、菜緒は目を丸くした。


「どういう意味ですか?」


「お前はなぜイジメをしていた?」

 菜緒の問いに律が瞬時に返すと、

 ——ストレスが溜まっていたから。

 と菜緒は表情に出した。


「そう、ストレス発散のためだな。そしてお前は今もなお、情緒が不安定だ。家庭環境がストレスの原因だと思うが、解消については追々考えるとして、まずは情緒不安定なお前を抑制することが先決だと俺は判断した」


 ——家庭環境だとなぜわかった? それに、どういうこと? もしかして、他の奴には発散できないから、自分へ危害を加えると思っているのか?


 律が平然と話す中、菜緒は呆気に取られつつも思考を巡らせていた。


「そうだよ。自傷行為、ましてや自殺なんてされたらこっちも寝覚めが悪いんでな」

 律がまた菜緒の思考を読んで返事をすると、

 ——こいつ……やっぱり考えていることがわかっている!

 菜緒は確信したかのような目を律へ向けた。


 更生を託されたからには、菜緒とは長い戦いになるだろう。隠しても仕方がないと、律は意を決した。


「ああ。考えていることがわかってる」

 律は菜緒の目を見てはっきりと口にした。


「どうやって? というか……何でわかるんですか?」

 菜緒は驚きと恐怖がまじった表情になった。


「理由はない。生まれつきだな」

 律は感情を込めずに言った。


 —―そんな奴がいるの? ……気持ち悪い……化け物。

 菜緒は表情を歪ませた。


「わかっていると言ったろ。失礼な奴だな」

 予想通りの反応に、律は溜め息を吐いた。


「す、すみません」

 菜緒は頭を下げ、真面目な顔つきに戻った。


「では、約束事を決めよう」

 律はそう切り出してから、


「俺の言うことに従うこと。イジメた相手に謝ること。不満があるなら直接俺に言うこと」

 律は人差し指、中指、薬指の順で指を上げた。


「あの……不満を言えとは?」

 菜緒が恐る恐る律へ聞いてきた。


「俺とのやり取りでムカついたら率直に言っていい。それで対応を変えるつもりはないが、思っているだけでも俺にはどうせバレる。ならば、口に出した方が精神衛生上いいだろう?」


「……変わらないと思いますけど?」


「従えと言っただろう、お前に拒否権はない」

 不服そうな菜緒に、律はきっぱりと言った。

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