しっかり謝りなさい


「小林、わかった?」


「わかりました。やります……絶対にやります」

 律に命令された紀子は何度も頷いた。


「じゃ、まずはこの三人にやろうか?」


「……え?」

 早速始める律に、菜緒は眉間にしわを寄せた。


「え? じゃねぇよ。三人をイジメていただろう? しっかり謝ろう。三人の中だと工藤が一番先だったな」

 律は菜緒の態度に呆れながら言い、目線を工藤へと変えた。


「あの、紀子と花音からはもうしっかり謝ってもらっています」

 梨沙がそう言うと、

「私も、梨沙と花音からは……」

 紀子も続いた。


「そっか、じゃあ工藤と小林には来栖一人だけでいいか。待って、携帯用意するわ」

 律は軽く頭をかいてから、携帯電話を手に取りカメラ機能を動画モードにした。


「よし。じゃあ来栖、イジメた理由を言ってから土下座で謝罪」

 律は携帯電話で撮影しながら、菜緒へ言った。


 ——本当にやるの?

 菜緒は動こうとせずに下を向いていた。


「やるよ。もたもたしないで早くしろ」

 律がイラ立ちから舌打ちをすると、菜緒は覚悟を決めたのか梨沙の前で土下座をした。


「梨沙。あの時は真美まみへの嫌がらせを止めるように言われたのに、逆上してしまいました。ごめんなさい」


「真美って誰?」

 気の抜けた声で律が割って入ると、

山下やましたさんです」

 花音がそっと補足してくれた。


「ふーん、そっか。来栖、頭が床に当たってない。もっと深く下げろ」


「……はい。申し訳ありません」

 律に指摘され、菜緒は頭を床につけた。


「工藤、言いたいことや要求はないのか?」


「いいえ、菜緒には沢山助けてもらってるので」

 梨沙は律にそう答えた後、菜緒へ目を向けた。

「でも、これだけは言わせて欲しい。誰かをイジメるのはもうやめよう。菜緒はそんな子じゃなかったじゃん。不満があるなら聞くからさ、一緒に解決しようよ」


 ——わかったようなことを!

 梨沙の説得に、菜緒は頬をピクピクと動かしていた。


 こいつ……性格悪いなぁ。と律は嘆きつつ、撮影を続ける。


「はい、次」

 律が合図をすると、菜緒はすぐさま紀子の前で土下座をした。


「紀子。私より佳奈かなを庇っているあなたが許せなくて、イジメてしまいました。ごめんなさい」

 また知らない名前がでたので、律が確認をするように花音を見ると、

神藤しんどうさんです。一年三組にいます」

 花音は律の意図を汲んでくれた。


「小林からは?」


「言いたいことは梨沙とほとんど同じだったので、大丈夫です」

 紀子は首を振ってから頷いた。


「じゃあ、斉藤に謝罪な。工藤、小林、来栖の順で」

 律の指示に紀子と梨沙も膝をついたが、

「お前ら二人は土下座しなくていい。土下座で謝罪するのは来栖だけだ」

 と追加した。


 菜緒は不服そうに律を睨むが、律が真顔のまま菜緒を見ていると、菜緒は悔しそうな顔をして目を逸らした。


 紀子と梨沙は立ち上がり、花音へ深く頭を下げた。


「花音、見て見ぬ振りしていてごめんなさい」


「私も、助けられなくてごめんなさい」


「中等部最後のテストが散々で、花音に八つ当たりしてごめんなさい」

 紀子、梨沙、菜緒の順で花音へ謝罪をした。


「紀子ちゃん、梨沙ちゃん。わかっているから平気だよ。それから菜緒ちゃん、私は全然気にしてないよ。菜緒ちゃんが側にいてくれるだけで私は嬉しいの。だから大丈夫、いつも助けてくれてありがとう」


 ——花音……ごめん。

 花音の返答に、菜緒は本当に落ち込んでいるようだった。


 菜緒も花音に対しては思うところがあったようである。と律は感じた。


「三人共、来栖を許したってことでいいのか?」


「はい」

 三人一様に頷いた。


「小林。来栖がイジメていた残りの謝罪に関しては、さっき言った通りにやること。三日もあれば終わるよな?」


「は、はい、やります。三日以内で終わらせます!」

 律が紀子に再確認すると、紀子は少しどもったが言い切った。


「それじゃあ、三人は奉仕活動があると思うので、茜先生のところに行ってくれ」

 律はそう言って手で払う仕草をしたが、

「あ、ちょっと待て。俺から一つ条件がある」

 もう一つやらせることを思い出したので三人を止めた。


「斉藤、お前は俺が良いと言うまで来栖に接近禁止だ」

 花音へと強い視線を向け、律は言った。


「え? なっ……何でですか?」

 花音は驚愕の表情を浮かべたが、

「お前は来栖に依存しすぎだ」

 と、律は断言した。


「……え?」


「小林、工藤、斉藤のフォローをしてやれ」

 固まっている花音を一瞥し、律は紀子と梨沙に言った。


「待ってください!」

 花音は声を荒げ律に近付こうとするが、紀子と梨沙に腕を掴まれ足を止められた。


「花音、私達は逆らえる立場じゃないんだよ」

「それに、興城さんの言う通りだよ。あんたは少し菜緒と距離を置いた方がいい」

 紀子と梨沙が諭すと、

「そんな……二人共」

 花音はあからさまに落胆した。


 律が顎で合図をすると紀子と梨沙は頷き、花音を連れて部室から出ていった。


「簡単に許してもらえる。優しい友達で良かったな」

 律はそう言い、部室のドアを施錠した。


「お前は三人と違って根が深いんでな、今後は俺が面倒を見ることになった」

 律の言葉に菜緒は不安そうな面持ちになった。

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