第四章

面倒くさいけど説明をする


 放課後。


 律は購買部でイチゴオレを買ってから、部室へと向かった。


「あれ? 早いね?」

 部室へ入るなり律は咄嗟に言葉を発した。


 なぜならば、菜緒、紀子、梨沙、花音の四人が既に正座で待っていたからである。


 概ね、部室に来るのは律が先だった。というのも、常に授業が七時限目まである特進課の四人と、普通科で週二回しか七時限目がない律では終了時間が違った。


 そして、本日の律は六時限目までであり、本来ならば特進課の四人はまだ授業中なので、律は四人がいるとは思っていなかった。


「興城さんからの説明が最優先だと、槙島先生に言われました。七時限目の分は後日補習授業を受けます」

 小林が理由を述べた。


 なるほど、槙島教諭が気を利かせてくれたのか。と律は思い、奥で座っている四人の前にゆっくりと座った。


「斉藤は風邪治った?」


「え? あ……はい。軽く咳が出るだけです」

 硬直していた花音は小刻みに頷いた。


 律は花音から目線を外し、イチゴオレのストロー差し込み口にストローを入れた。


「じゃあ改めて、一年四組の興城律です。よろしくね」

 律は明るい表情で言ったが、四人の顔は強張っていた。


「えー、君達の処遇について、茜先生から説明するように言われました。なので、面倒だけど今からやります。と、その前に君達……俺に言うことがあるよね?」

 律はそこまで言うとイチゴオレを口にし、

「悪いことをしたら謝る。常識だよ」

 と、明るかった表情を一変させて四人を睨んだ。


 律の言葉に四人は俯いたが、

「興城さんが言う通り、私達は同罪です。申し訳ありませんでした」

 と言って、最初に小林が頭を下げた。


「暴言を吐き、イジメに加担してしまいすみませんでした」

「本当にごめんなさい。申し訳ありません」

 梨沙、花音の順で謝罪が続いたが、

「私が……」

 菜緒が口に出した瞬間、

「お前はいいや」

 律が遮った。


 ——何で私だけ?

 顔を上げた菜緒は憮然としていた。


「何で? とはおかしな疑問だな? お前は主犯格だ。今謝って終わる、一つの区切りになるわけじゃない。お前は後で俺とマンツーマンだ」

 律はそう言い菜緒を睨むと、菜緒の表情は更に沈んでいった。


「小林、工藤、斉藤」


「はい」

 律が三人の名を呼ぶと、三人は背筋を伸ばして返事をした。


「昼休みにも話したが、側にいながらイジメを止めないのも、イジメをしていることに変わりはない。本当の友達なら、悪いことをしているのであれば止めよう」


「本当にすみません」

 律の言葉に、紀子と梨沙は口を揃えた。


「特に斉藤、お前だよ。初等部からずっと一緒だったんだろ?」

 律が花音へ目を向けると、

「……そうです。すみませんでした」

 花音は悲痛な面持ちになった。


 菜緒はともかく、三人は表情からも本当に反省していると見て取れた。教師のように長々と説教をするのは柄じゃないので、律は早めに終わらせることにした。


「まぁ、お前ら三人は来栖にイジメらたこともあり、恐れを抱いている節もある。逆らえなかった、その気持ちがわからなくもない。情状酌量の余地はあると俺は思った。なので、ペナルティとしては奉仕活動を命じる。期間や内容は茜先生に聞いてくれ」


「はい……わかりました」

 律の説明に三人は大きく頷いた。


「それから、今後連絡することがあるかもしれない。俺は三人の連絡先を知らないので、SNSのIDを教えて」

 律は携帯電話を取り出し、そう言った。


 イジメられてる時は菜緒としかやり取りをしていないので、他の三人の連絡先を律は知らなかった。奉仕活動だけなら連絡先を聞く必要はないが、律は他のことも三人にやらせるつもりなので知る必要があったのである。


 三人と連絡先を交換し終えた律は、携帯電話をしまわず横に置いた。


「斉藤、来栖は初等部時代にイジメをしていたか?」


「いいえ。していません」

 花音は首を振った。

 ——中等部に上がってから。


「イジメを受けて退学した奴はいるか?」


「いません」

 花音は僅かに目線を下げた。

 ——何日か休んだ子はいたけど。


「じゃあ、来栖にイジメらた奴らはこの学校に全員いるんだな?」

 律が聞くと、花音は二度大きく頷いた。


「一番最初にイジメられたのは誰だ?」


「山下さんです。一年二組にいます」

 律の質問に、花音は小さな声で答えた。


「わかった。その山下っていう子から、四人全員で来栖がイジメた子に謝罪していこう。それから、来栖はイジメた理由をしっかり述べ、土下座して謝って許しを乞う。相手側から要求がきたら素直に従え」

 律は菜緒をジッと見つめ言い放った。


 命令内容がショックだったのか、菜緒の表情は青ざめていった。


「来栖、返事は?」


「わ……わかりました」

 菜緒は声を絞り出すように言った。


「小林」


「はい」

 律に呼ばれると、紀子は再び背筋を正した。


「謝罪している様子を携帯の動画モードで撮影して、終わったら俺に送れ」

 律が命令内容を口にすると、

 ——そこまでやるの?

 と、菜緒は明らかに嫌悪感を示した。


「そこまでやるんだよ。お前が腐ってるから」

 律は溜め息まじりに菜緒へ言った。


 ——もう……まただ……何なのよ。

 菜緒は俯き唇を噛んだ。

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