ネタばらし
「誰が動いていいって言ったの? 早くもう一回脱ぎなさい」
菜緒は不愉快そうな顔で言った。
「お前、そんなに俺の見たいわけ? 変態か?」
「ちっ……違う!」
律が呆れた仕草をすると、菜緒はどもりながらも怒っていた。
——写真を撮り忘れたの。
「だったら、先に写真を撮りゃよかったのに。お前も割りと抜けてんじゃん」
律は小馬鹿にしたように笑った。
「写真って……」
菜緒はそう呟いてから、驚いたような顔つきになっていた。
「まぁ、もう写真は撮れないので、脳内保管で我慢してくれ」
律はドア付近に戻り、部屋を施錠すると向き直った。
「ていうか奴隷。何? その口の利き方は?」
引き続き、不遜な態度の菜緒であった。
律はフッと笑い携帯電話を取り出してカメラを操作し、撮っている映像を携帯電話の液晶にだした。
「奥にいる三人見える? これ、何だかわかるか?」
律はそう言い、携帯電話の液晶を四人へと向けた。律の携帯電話の液晶には、ドア付近の充電アダプターから撮っている部室内の映像が表示されていた。
「今映っているのはここからな」
律はドア付近の充電アダプターを指でトントンとしてから、引き抜いてポケットに入れた。
「あと、さっき取った奥のところからも撮っていた」
律は部屋の奥を指さし、携帯電話をしまった。
——充電アダプターがカメラ? ずっと撮られていたの?
と、紀子は硬直していた。
「小林、正解。ここに俺が連れて来られた初日以降から、全部撮ってる」
律は紀子に親指を立てた。律の言葉に紀子は大きく目を開き、他三人は一斉に紀子を見た。
「それと、パソコンにバックアップも取ってるし、来栖の暴君振りは一部始終撮らせてもらった。勿論、昨日の件もな」
律がそう言うと、三人だけでなく菜緒の表情もようやく凍り付いた。
「というわけで、軽く説明するので全員そっちに並んで座って」
律は部屋の奥を指さしながら言い、そのままドア付近に座った。
そして、紙パックのイチゴオレを取ってストローを刺し、思いっきり吸う。大好きな味が口一杯に広がり、律は一息ついた。
「何なの……あんた?」
「……あんた?」
菜緒の言葉に、律はストローから口を離し聞き返した。
——まずい。今は従った振りをしないと。
菜緒は瞬時に俯いた。
「ハハッ。演技してやりすごすって? もう終わってるぞ」
律は軽く笑った後、買ってきた弁当であるカツ丼を手に取った。
——何で考えていることがわかるの?
菜緒は唖然たる面持ちであった。
「はい、じゃあ早くそっちに座れ」
律は再び部屋の奥を指さした。
「時間が勿体ないので、飯を食いながら説明するわ。あー、これ来栖が俺のを触ったやつか。まぁ、反対側を使えば平気か」
律は落ちていた割り箸に息を吹きかけてから、カツ丼を食べ始めた。
「おい来栖、いつまで突っ立てんだ?」
律は咀嚼しながら菜緒へ言った。
——どうする? どうやって逃げる? どうやって許してもらえばいい?
菜緒の表情がそう言っており、今更命乞いか。と律は呆れた。
律はイチゴオレを一口飲み、首をぐるりと回した。そして、フーッと長い息を吐いた後、
「聞こえないのかな? 早くしてくれない」
律は底冷えするような声で言った。
菜緒はビクッとし、急いで奥の位置で正座をした。
律がやったのは、たまに向坂が敵対者にやる行為の真似だった。向坂は普段おちゃらけているが、ここ一番の凄みは圧倒される。そういう意味では、奴隷だった律が菜緒達にやったのは効果覿面だった。
四人共恐怖に染まった表情をし、正座のまま硬直していた。
「来栖」
律は菜緒を呼ぶが、菜緒は顔を伏せたままだった。
「顔を上げて返事をしろ」
律がそう言うと、
「……はい」
と小さな声で返事をし、菜緒は顔を上げた。
「さっきも言ったが、お前が俺にやっていた行為は全て映像として残っている。言い訳はできないし、させるつもりもない。お前がどれだけ許しを請うとしても、俺は絶対に許さない。今お前が必死に逃げようと考えていることは、全部無駄なので諦めろ」
律は粛々と告げた。
——また考えていることがバレてる……何なの?
自業自得だが、菜緒は悲痛な表情であった。
「今回の件について主犯は来栖だが、黙って見ていた三人も同罪だ」
律は紀子、梨沙と順番に顔を見ていき、
「斉藤、お前もな」
最後に花音を見た。
「来栖に気を使え、来栖を刺激するな、やられないようにしろ。小林も工藤も斉藤も、口を揃えて俺に言ったが、イジメている方が百パー悪いんだよ。君達は道徳の授業を受けてこなかったのかな?」
律の言葉を受けた三人は、罰が悪そうな様子になり俯いた。質問への回答がなかったので律は少し不服だったが、三人の仕草から律の言う通りだということは読み取れた。
「説教は教師に任せるか」
律は小さく息を吐いた。
「撮っていた映像は教師に見せるので、その教師から今後の処遇について連絡がいくと思う」
そう説明し、律は再びカツ丼を食べ進めた。
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