第三章
恥辱
結局、一日経ってもタバコを押し付けられた火傷の跡は消えなかった。
やはり菜緒から医療費をもらおうと律は思いながら、昼休みの買い出しを終え部室へと入った。中にいた菜緒達は丁度弁当を食べようとしているところで、今日はマスクを装着した花音も来ており、久しぶりに四人が揃っていた。
律は自分用の弁当と飲み物をドア付近に置き、菜緒には頼まれていた飲み物とデザートを渡した。
「ねぇ、頼んだのは野菜ジュースじゃなくて飲むヨーグルトなんだけど?」
「え? いつもそうでしたよね?」
咄嗟に律は聞き返した。
放課後の買い出し指示は種類が多いのでミスをすることがあるが、昼休みに菜緒が頼むのはいつも決まっていたので、ミスはないと自信があった。
「連絡したでしょ? 見てないの?」
菜緒は眉を吊り上げた。
律がポケットから携帯電話を出して見ると、確かに菜緒からSNSアプリで連絡があり、飲むヨーグルトとプリンと書いてあった。昼休みに連絡がくることはほぼなかったので、律は携帯電話をチェックしていなかった。
「すみません。確認していませんでした」
自分が悪いので素直に律は謝罪をしたが、顔は恒例の無表情だった。
謝ったので収まるかと律は思ったが、
——今日は甘い物が飲みたかったのに! 確認しなさいよ!
菜緒の怒りは着火していた。
「僕のイチゴオレと交換しますか?」
甘い飲み物を欲しているのであればと、律は提案した。
しかし、律の言葉に紀子、梨沙、花音は首を振り肩をすくめていた。そして、菜緒は鬼のような形相になり、ここで律は自分の提案がミスったことに気付いた。
「早く買いに戻りな」
梨沙はそう言ったが、
「行かなくていい」
と菜緒が止めた。
——こいつ、やっぱり私を舐めてる。
「そういえば、奴隷は私のスカートを下ろしてパンツを見たわよね?」
憤怒の表情から菜緒は口角だけを上げた。
中庭でわざとやったことかと律は思い出し、
「僕が転んだせいです。すみません」
再び感情を込めずに謝った。
「……で? 私のパンツを見たの?」
怒りからか、菜緒の眉間はピクピクと動いていた。
最高潮に菜緒が怒っている。見ましたと率直に言うのはまずいか。と思い、律は軽く咳払いをした。
「全くの不本意で興味もありませんでしたが、角度的に丁度目に入ってしまいました」
「……言い方」
律の返答に紀子は落胆した様子で呟いた。
そして菜緒は、
——お仕置き決定!
という顔であった。
……何で!
丁寧に説明したのに理不尽だろう、と律は顔をしかめた。
「ズボンを下ろしなさい」
律の前にきた菜緒は、キツイ目を律へ向けた。
パンツが見たいとか……こいつは変態なのか?
そう、律が困惑していると、
「早く!」
菜緒はイライラした様子で声を上げた。
こっちも菜緒のパンツを見たし、お互い様か。それに、証拠のネタが増えるから別にいいかと思い、律はベルトを外しズボンを下ろした。
「あんたブリーフだったの? きっも!」
菜緒は嘲笑うように言った後、大袈裟に笑った。
自分を貶すのは構わんが、全国の白ブリーフを穿いている人達には謝れよ。と律は心の中で言い返した。
菜緒はひとしきり笑った後、律の弁当用の割り箸を手にした。
——直接は嫌だからね。
菜緒の真意に眉をひそめる律だったが、直ぐに答えはわかった。
「キャッ!」
「ちょっと!」
「ひぃ」
紀子、梨沙、花音が悲鳴を上げた。なぜならば、菜緒が律のパンツを下ろし、律の下半身が丸見えになったからである。
律は突然の出来事に完全に固まった。
「初めて見たけど、結構グロいわね」
菜緒はそう呟きながら、割り箸を二つに割った。
「菜緒! やめなって!」
「マジできもいわよ。紀子もこっちに来なって」
菜緒は紀子の言葉にニヤッとするが、紀子は泣きそうな顔で首を振っていた。
自分の一部をきもいと罵られ、紀子には泣きそうな顔をされ、律は少し不快感を滲ませた。
「こっちに向けないで! 見せないで!」
梨沙も嫌がっているが、顔を隠している両手の隙間から目が見えていた。
見てるじゃねぇか、このむっつりめ。と律は内心笑った。
それから菜緒は割り箸を使い、律の下半身へと近付く。
「ご飯中なんだよ!」
紀子が再び悲鳴を上げた。
汚物扱いをされ、律はかなりショックだった。
証拠のネタが増えるので好き放題やられていたが、これ以上は恥辱すぎる。
放課後にネタバラシをするつもりだったが、限界だったので律は予定変更を余儀なくされた。
「はいはいはい。もう終わり!」
律はすぐさまパンツとズボンを穿き直した。
「いやー、別に興奮していたわけじゃないからな。割り箸でも刺激されるとやばいんだな」
そう言って、律は照れ笑いを浮かべた。
「や、別にそういう性癖じゃないからな。生理現象だからね! 生理現象!」
言葉を重ねる律は部屋の奥へいくと、奥にある携帯電話の充電アダプターに手を伸ばした。充電アダプターには梨沙の携帯電話が繋がっていたので、律はまずそのUSBケーブルを抜いた後、コンセントから充電アダプターを引き抜いてポケットに入れた。
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