茜からの辛辣な評価


「潔癖というか、僕は読めてしまいます。だからこそ、悪用してはいけないんです。これはポリシーです。騙して入学したのであれば退学

します」

 槙島教諭の態度で律は更に怒りが増し、憤然たる面持ちであった。


「高潔で素晴らしい」

 槙島教諭は澄まし顔で言い、小さく拍手をした。しかし、直後に表情を一変させ、

「でもさ、律君はわかっているよね? 君が普通の人間じゃないってことをさ」

 律へ厳しい目を向けてきた。


 律は言い返そうと口を開いたが、槙島教諭の方が早かった。


「知恵遅れや発達障害が、という意味ではないよ。特殊な力のことを言っている。単純に凄いと思う人もいるだろうけど、多くの人はこう思うんじゃないかな?」

 槙島教諭はそこまで言うと一呼吸置き、

「……気持ちが悪い」

 はっきりと口にした。


「グッサリきますね」

 まるで太い槍で刺された気分になり、律は下を向いた。


「律君の大好きな本音だよ。悪いけど、遠慮しないで刺すからね。律君、同年代の友達とかいないでしょ?」


「……だったら何ですか?」

 まだ続くのかと思い、律は怒りと悲しみがまじった気持ちになった。


「いや、当然だと思うよ。私が律君の立場でもそうなると思う。だって、言葉通りの人間なんかいないし、思春期の子達は尚更そうだよね。疑心暗鬼になるのは仕方ない」


「ずっとそうでしたから今更……」


「今更自分はいいと? じゃあ何で友達を作らないのかな?」

 律が言い終わる前に槙島教諭が聞き返してきた。


 槙島教諭は答えがわかっている上で、確認している。嫌な人だ。槙島教諭のサディスティックなやり方に辟易し、

「僕が気持ち悪いからですよ」

 律は溜め息まじりに答えた。


「そうなのよ。気持ち悪いって拒絶されるのが怖いからでしょう?」

 槙島教諭は淡々と事実を告げてきた。


 いくら本音がわかるからって限度があるだろう。この女ドSか?


 律はそう思い、

「遠慮せずに抉ってくんなぁ」

 と呟いて不快感をあらわにした。


「ね? 美穂ちゃんに真実を話したところで良いことなんか何もない。気持ち悪がられるだけだって、わかってくれたかな? でも、安心して。ちゃんと正規の手続きで律君は入学している。それに、美穂ちゃんに嘘をついたのは私だから律君は何も悪くない」

 槙島教諭は満足そうに話し終えた。


 律はグサグサ刺されたのでトラウマがよぎりそうになったが、ひとまず不正入学ではないことは安堵した。


「矢島先生への誤解は解いてくれないんですか?」

 毎日占いをするのも疲れるし、そもそも占い師じゃないし、と思いながら律は聞いた。


「悪いけど無理だね。高名な占い師か、ノンバーバルコミュニケーションの申し子っていう二択で迷っていたんだけど、後者だと説明しても君の力は常軌を逸している。胡散臭くなって信憑性がなくなっちゃうもん」


「高名な占い師っていう設定も相当胡散臭いですよ」

 律はペッキーを手に取り、鼻を鳴らした。


「そこは私と美穂ちゃんの信頼関係があってこそよ。あと、人間って異質な力を見せられた時には、科学や物理などの根拠がある証明より、根拠がない抽象的な証明の方が信じ込みやすいのよ。事実、呪術師や悪魔祓いが現実にいる、いたことがそうでしょう?」


「後半何を言っているのかわかりませんでしたが、結局誤解は解けないんですね?」

 律が眉をひそめ聞き返すと、槙島教諭は律が持っているペッキーを取って一口食べてから、

「うん。頑張ってね!」

 と満面の笑みで答えた。


 律は脱力してしまい、ソファに身体を委ねた。


「わかりましたよ。だけど、矢島先生は男を見る目がないんですよね。まずそこなんですよ」


「私もそう思う」


「わかっているなら言ってくださいよ」


「いやいや、言ってるけど聞かないのよ。それとも、律君が男との相性を見るからその通りにしろって言おうか? 男と会う度に連れ回されるわよ」


「あー、そうなるのか。うわぁ、面倒くさいな」

 律はソファにもたれかかったまま、顔を天井に向けた。


「それに、お願いしたいのは美穂ちゃんの婚活じゃないから、やりたいんなら律君が個人的にボランティアとしてやってね」

 槙島教諭は我関せずとした素振りで言った。


「いえ、今のままでいいです」

 面倒事が増えるだけなので、律はすっぱりと諦めた。


「じゃあ、肝心の要件を話そうか?」

 槙島教諭が表情を引き締めた。


「はい。どうぞ」

 律は一度首を回してから、背筋を伸ばした。


 槙島教諭は白衣のポケットから写真を取り出し、テーブルの上に置いた。写真は四枚で、女生徒がミディアムショットで撮影されたものだった。


「この四人は誰ですか?」


「私のクラスの生徒。今から説明するね」

 槙島教諭はそう答え、律が見やすいように写真の向きを変えて、等間隔に配置し直した。


小林紀子こばやしのりこ工藤梨沙くどうりさ斉藤花音さいとうかのん来栖菜緒くるすなお

 槙島教諭は、左端の写真から順番に指をさしながら女生徒の名前を言った。


「四人共成績上位の優等生。中等部の頃から四人は仲が良かったみたいで、今も四人一緒にいることが多い」

 槙島教諭が補足する中、律はもう一度左端から見直していた。


 小林紀子。顔に派手さはないが、茶髪でボブカットヘアを少し巻いているオシャレな女子。


 工藤梨沙。黒髪ショートカットヘアで、顔立ちからも中性的な印象を受ける女子。


 斉藤花音。黒髪を二つ結びで前からおろしており、あどけない顔立ちに眼鏡をかけている純朴そうな女子。


 来栖菜緒。ストレートの黒髪ロングヘアに、眉が少し太めで二重の綺麗な翠眼、顔は小さく鼻筋も綺麗。他三人だけでなく、日本人離れしているような、普通の女子高生とは一線を画す容姿をしている女子。


「斉藤さんは、入学式の時に新入生代表として挨拶をしていましたね」


「良く憶えているじゃん。タイプだった?」

 槙島教諭は含み笑いをした。

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