第32話 最上階

そして俺達はロスタル塔を順調に攻略していき最上階への手前の階である22階まで到達していたのだった。


「ここまでレイチェルさん達の姿はどこにもなかったな。」


「そうですね、レイチェルがここまでいなかったとなると最上階にいるという事になりますね。」


俺は最上階の階段の前で立ち止まると、後ろを振り向いてみんなに言った。


「みんな、ここで一旦準備を整えてから行こう。最上階では誰が待ち構えているか分からないからな。」


「はい。ジャン様。」


俺達は準備を整えたのだった。


「マリーヌ準備はいいか?」


「はい、大丈夫です。行きましょうジャンさん。」


「よし、それじゃあ最上階に行くぞ。」


そして俺達は最上階への階段を上っていったのだった。


一方のロスタル塔の最上階では


冒険者の男性と魔導士のローブを着た女子が会話をしていたのだった。


冒険者の男性が魔導士姿の女子に言ったのだった。


「いい加減首を縦に振ったらどうだ、レイチェル??冒険者ギルドに戻って何もなかったと報告するだけだろうが??」


レイチェルと呼ばれた女性はその冒険者の男性に言った。


「そんな事はできません。マスタングあなたがこのグリンダムを壊滅させようとしているのならなおさらです。」


レイチェルは白い美しいロングヘアーで、小柄で胸は小さかったが童顔でかわいらしい顔をしていた。


マスタングがレイチェルに言った。


「壊滅させようだなんてしていない、大勇者クレシー様をコケにした連中に忠罰を与えるだけだ。ジャン・リヒターをはじめとする竜にまたがる無能共、そしてそんな無能に喝采を送った連中、そいつらを始末するだけだ。」


「十分壊滅させようとしているじゃないですか。私の仲間はどこにいるんですか?」


「ふん、あいつらなら召喚の代償として使ってしまったからな。もう全員死んでいる。」


レイチェルがショックを受けたのだった。


「そ、そんな。」


「そうだ、お前もあいつらと同じ運命は辿りたくなかろう?お前が助かる方法はただ一つ。お前が冒険者ギルドに何も問題ありませんでしたと報告するんだ。それをしてくれると約束するならお前の身の安全を保障してやろう。何ならホルキスへ亡命する手伝いをしてやる。まあもちろん大勇者クレシー様への忠誠を誓ってもらう事になるがな。」


「ですから、それは無理です。ありのままを報告させてもらいます。」


「協力するなら身の安全は保障すると言っているだろう。」


「そういう問題ではありません。できないものはできないんです。」


「レイチェル??聞き分けが悪くなったな、少し前まではもっと物分かりが良かったじゃないか?お前は大賢者ラズバー様に仕えていた事もあるだろうが?」


「嫌です、やっと私は自分の意思を取り戻す事ができたんです。ラズバーがいた頃はラズバーに怯えて、何も考えずにラズバーに命令されるがままに動いていました。でも今はもうそういうのは嫌なんです。一人の冒険者として自由に生きていきたいんです。」


「そんな考えは必要ない。いいか大賢者ラズバー様はもういらっしゃらないが、絶対なる存在である大勇者クレシー様がいらっしゃるのだ。大勇者クレシー様がこの大陸におられる限り、この世界の安定は約束されたようなものだ。だから何も考える必要はないのだ。ただ大勇者クレシー様の言われるがままに動き、その身を捧げればよいのだ。それだけの事がなぜ理解できない?」


「何度言われても協力はできません。」


「お前が首を縦にふらない限り、ここから出る事はできんのだぞ。それを理解しろ。」


実はレイチェルはこの時麻痺状態にさせられており、動く事ができなかったのだ。


レイチェルは麻痺異常を解除できるキャンセルを唱えたのだった。


「今この枷より私を解き放ちたまえ!!キャンセル!!」


レイチェルは解除魔法のキャンセルを唱えたが動く事はできなかったのだった。


「無駄だレイチェル!!その麻痺は通常の麻痺効果でなないのだよ。呪いによる付加効果なのだ。低級の解除魔法キャンセルではそもそも解除ができんのだよ。レアアイテムである神秘の聖水でなければ解除は不可能だ。そんなレアアイテムBランク冒険者のお前は持っていないだろうがな。」


「すばらしいだろう。このゲルタの指輪の効果は?麻痺付きの呪いを周囲の人間にふりまく事ができるのだからな。本当に大勇者クレシー様はご本人も装備品もどれをとってもすばらしい!!」


この時マスタングは勇者クレシーから優秀な装備品をいくつも借りてきていたのだった。このレイチェルに使っていたゲルタの指輪も勇者クレシーから借り受けていたものだった。


「なあレイチェル?考え直せ??今この段階で連中に気づかれるのは困るのだ。こうしている間にも冒険者ギルドから捜索隊を送られる可能性がある。ここはお前が何も問題ありませんとギルドに報告するしかないんだ。そうしたらその呪いを解除してやる。」


レイチェルはきっぱりとマスタングに言った。


「ですから、そんな事は絶対にできません。」


マスタングがため息をついてレイチェルに言った。


「そうか、ならば仕方ない、ではレイチェルにもここで死んでもらうとしよう、他のメンバーと同じ末路を辿るがいい。」


レイチェルは目を瞑ったのだった。


その時声が響いたのだった。


「おっとそこまでだ。」


マスタングが後ろを振り返るとジャンの姿がそこにあった。


俺達は最上階へと突入したのだった。


最上階へとやってきた俺達を見て冒険者風の男が言った。


「き、貴様はジャン・リヒター???」


「よう、テメエここでなにしてやがるんだ??」


その男は悔しそうな表情をした。


「くそう、もうかぎつけてきたか!!」


すると魔導士のローブを着た少女が俺を見て言った。


「英雄様??それにソフィア??」


ソフィアがその少女に駆け寄ったのだった。


「レイチェル?無事で良かった、他のみんなは??」


レイチェルさんは首を横に振った。


「殺されてしまったみたい。マスタングに召喚の代償として使われてしまったわ?」


「そんな??」


「ソフィア?マスタングっていうのはこの男の事か?」


するとソフィアがその男を指さした。


「はいそうです。ジャン様。この男はホルキス王国のマスタングという名前の冒険者です。そして確かマスタングはクレシーの側近だったはずです。」


「おいマスタング??テメエがクレシーの側近だっていうのは本当か?」


するとマスタングが妙な事を言い始めた。


「その名を呼ぶな??」


「なに?」


「その名で呼ぶな!!いいか!!この私は栄誉ある大勇者クレシー様ファンクラブ会員35号だ!!ちゃんと覚えておけ!!」


「その35号っていうのはクレシーの野郎が呼んでるあだ名みたいなもんだろう?」


マスタングが大声で俺に言った。


「違うあだ名などではない!!私にとっては大勇者クレシー様ファンクラブ会員35号こそが真の名となったのだ。マスタングなどというつまらない名前はもう捨てているのだ!!よく覚えておけ!!」


「まあ俺としてはそんな事はどっちでもいいんだ。テメエがクレシーに心酔してるのはよく分かった。テメエがクレシーの側近だっていうのも間違いなさそうだしな。それでここでテメエは何をしてやがったんだ??」


「ふん??そんな事をジャン・リヒター??貴様に教えるわけないだろうが!!」


「英雄様!!マスタングはこのグリンダムを壊滅させようとしています。」


「なんだって??」


するとマスタングが舌打ちをしながら言った。


「ちっ!!余計な事を!!」


するとマスタングは懐から短剣を取り出すとレイチェルさんにめがけてその短剣を投げつけたのだった。


マスタングの投げた短剣がレイチェルにめがけて飛んでいった。


俺はすぐにレイチェルさんの前に立ち塞がると、その短剣を腕で弾き飛ばしたのだった。


マスタングが悔しそうにした。


「くそ外したか!!」


するとマスタングはその剣を鞘から抜くと、レイチェルさんに斬りかかろうとしたのだった。


俺はさっきと同じようにレイチェルさんの前に立ち塞がるって、そのまま向かってくるマスタングにドラゴンスキルの竜昇拳をお見舞いしてやることにした。


「竜昇拳(りゅうしょうけん)」


俺の右腕から繰り出された竜昇拳は見事にマスタングに決まって、マスタングは俺の竜昇拳で吹き飛ばされ壁に叩きつけられたのだった。


「ぐはっ!!」


マスタングはしばらく動くことができなかった。


そしてしばらくしてようやく起き上がってきたのだった。


マスタングはよろめきながら、何とか床から立ち上がったのだった。


「くそう、ジャン・リヒター??まさかここまで強いとは。」


「テメエ??なんでレイチェルさんに剣を投げやがった??」


「レイチェルに情報を漏らされる訳にはいかんのだ。」


「そんな心配はしなくていい、テメエの計画の検討はついたからな。」


「なんだと?」


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