第24話 これからも、てをつないで
やあ、君か。そういえば君がこの研究所にやって来てもうだいぶ時間が経ったよね。
翡翠が生まれた日の事。
あの二人の夢を見た事。
私の新しい夢が見つかった事。
翔多と出会い、愛情を抱いた事。
青空の下で蒼穹が生まれた事。
仔山村で新しい生活が始まった事。
遠い所でキニップの家族の旅が始まった事。
蒼穹とキニップが手を繋いだ事。
君が初めて翡翠達と出会った事。
二人が初めて学校に通った事。
友達に恵まれ、楽しく遊んだ事。
不思議な転入生とも仲良くなった事。
その人の家族から眼光症が生まれた事。
などなど……どれも君の記憶に強く残る出来事だったかと思うよ。
今日も翡翠から楽しい話が聞けた。その日は学校が臨時のお休みで蒼穹の友人も仔山村に遊びに行ったんだ。
しかも、その日はあの蒼穹とキニップが出会って手を繋いでから一年が経った日。今回はそのお話をしてあげるよ。
* * * * * * *
6月2日。美山蒼穹、キニップ・ベリーニ、9歳の春。
今日は通っている学校が臨時休校の日。仔山村にはいつも通りの朝が来た。
「お母さん、おはよう」
「おはよう蒼穹。お母さんはこの後お友達を迎えに行くからお留守番よろしくね」
「分かったよ。今日は心音ちゃんと遠くんが遊びに来るんだよね、楽しみだな」
翡翠は、蒼穹とキニップの学校の友達を迎えに行くために車を出発させた。
朝食を食べる蒼穹と翔多。翔多もこの日は仕事がお休みだった。
「今日は、蒼穹の誕生日だよな、おめでとう」
「そういえばキニィちゃんも同じ誕生日」
「去年の事がもう昨日のように感じるよな」
「あの子と沢山遊んでたら、もうこんなに時間が経っちゃったよ」
「これからも、友達を大切にしなきゃな」
朝食の後、蒼穹は家を出てキニップに会う。
「おはようソウくん!いい天気!」
「おはようキニィちゃん。お誕生日おめでとう」
「ソウくんもおめでとう!」
すると、ちょうどいい所に翡翠の車が心音と遠を乗せて到着した。
「さあ、連れてきたわよ。」
「おはようソウくん、キニィちゃん」
「今日も目一杯楽しませてもらうぞ」
笑顔を見せる蒼穹の友人達。ピアノのプチガッキを持つ心音と不思議な本を持った遠。みんなを優しく見守る翡翠。
「みんな、おはよう!」
「今日は何をして遊ぶの?」
「まず最初に、キニィが決めてもいいぞ」
「分かった!じゃあまずはソウくんのボールで遊ぼう!」
「それじゃあ、始めよう!」
蒼穹達は、お気に入りの草原でボール遊びを始めた。
「やっ!」
「それっ!」
「はい!」
「我が想い、受け止めよ!」
「やっぱりみんながいるととっても楽しい!」
「学校の休み時間もいいけどここでやると何だか気持ちいいよ」
「次は私の楽器で音を楽しみましょ」
次は皆で持ち寄ったプチガッキを演奏した。心音がピアノを、蒼穹がタンバリンを。キニップはギターを、遠は横笛を持って楽しく演奏した。
トゥルルルルン♪
シャララララン♪
ポロロロン♪
ピーヒョロロー♪
「みんな素敵な演奏だったよ」
「この前より上手になったでしょ!」
「少し疲れたな。屋内で読書でもするか」
今度は屋内で読書もした。心音が見ているのは楽譜であった。
「今度はこういう曲を演奏してみたいの」
「この曲も、何だか流行ってるよね」
「遠くんの本、不思議で楽しいね!」
「キニィにも、この本の魅力が理解出来たか」
そこに、ホットケーキを乗せた皿を持った翡翠が入ってきた。
「みんな、ホットケーキが出来たわよ」
「わーい!待ってた!!!」
翡翠の焼いたホットケーキは、キニップの父ガンツのサンドイッチも参考にして、とても美味しそうに出来ていた。
「「「「いただきます!!!!」」」」
皆はホットケーキを食べ始める。
「美味しい!これ前に行ったカフェのより美味しいかもしれない!!!」
「まさに奇跡の出来栄え!ソウの母はまさにホットケーキの魔術師であるな!」
「そうまで言ってくれるんだ」
「今度は煌くんにも食べさせてあげたいね!」
翡翠と翔多もホットケーキを味わいながら子供達の様子を見つめている。
「こんなにも仲のいい友達が出来て、蒼穹はとっても幸せそうで嬉しいな」
「そうだな、蒼穹も自分の努力と勇気でここまで来れたんじゃないかな」
「翔多、これからも皆の事をよろしくね」
「ああ、任せろ。俺達は家族だ」
昼食を食べ終えると、蒼穹とキニップは心音と遠にこう言った。
「僕達、二人だけで少し秘密の話がしたい」
「ちょっとだけ、待っててくれる?」
「分かった。秘密の事なら触れないでおく」
「きっと人生における重要な話なのだろう」
蒼穹とキニップは、初めて出会った草原へ二人で立ち寄った。
あの日から変わらない景色と風。青空の映える草原には黄色い花が点々と咲く。
「もう、あの日から一年が経ったね」
「ね。初めてここに来た時、嬉しくて家を飛び出してきちゃった事、覚えてるよ」
「それで、道に迷ってたんだよね。あの日の事は、今も忘れられない」
蒼穹とキニップはちょうど一年前の事を二人で思い返していた。
「あの時の僕とキニィちゃんは、お互い言ってる事が分からなかったけどキニィちゃんは手を繋いで欲しくて僕に近付いたんだよね」
「そう。あの時手を繋ぎたかった理由は……今なら言えるよ。それは……」
キニップは一呼吸置いてこう言った。
「この人となら、お友達になれそうだって心の底から思えたから」
蒼穹はその言葉にこう返した。
「僕でもいいの?ってあの時は思った。けど今は自信を持って言える。僕がお友達になってあげるよ。こう思って手を繋いだんだって」
「ソウくん……。」
「それじゃあ、今度は……」
蒼穹は、キニップに近付き。
「僕から、お願いするよ」
自らの左手を伸ばした。
「わかったよ!」
キニップも自らの右手を伸ばした。
「それじゃあ、もう一回」
「手を繋ごう」
一年の時を過ごしたこの場所で。
蒼穹とキニップは、また手を繋いだ。
(キニィちゃんの手、去年より大きくなってる。明るさも元気さもあの時よりすごいや)
(ソウくんの手、去年よりあったかい。沢山の優しさに包まれちゃうぐらいに)
去年より、少しだけ大人になった二人。
二人は、手を繋ぎながら、仔山村の空を見上げていた。どこまでも青い空を。同じ日に生まれた空を。
「去年のあの日から、色々な事があったね。キニィちゃんの一番楽しかった日はいつ?」
「どれもこれも、ソウくんが一緒ならとっても楽しい日だったよ!」
「そう言ってくれて、僕は嬉しいよ」
「私もだよ!」
「また、来年のこの日も手を繋ごうね」
「もちろん!雨の日でも嵐の日でもね!」
軽い冗談を交えながらも、蒼穹とキニップは心ゆくまでこの時を楽しんだ。
二人が手を離すと、揃って家の方向を向く。
「さて、戻ってまたみんなと遊ぼう」
「うん!楽しみ!」
蒼穹とキニップは友人達の待つ家に戻った。
* * * * * * *
初めての出会いの日からもう一年経った。二人はこれからも楽しい時間を過ごすだろう。君も、私の研究を出来る限り支えてくれると嬉しい限りだ。さて、これからまだまだ増えゆく仕事を……
……っと、電話だ。もしもし……何……?
突然だが、ここから少し離れた所で眼光症の子供が産まれたと報告があった。どうやら遠の母親の知人らしい。先日の話を聞いた上で、産まれたその日に電話してくれたんだよ。こうして一つの情報が他の所にも広まって眼光症が住みよい社会に近付けたと思うとこれ以上の喜びは無いよ。
準備が出来たら、君も来て欲しい。見届けようじゃないか、新しく実った……を。
最終話へ続く。
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