第23話 生命の色

 蒼穹とキニップの友人、深海 遠。

彼は春休みの間、母の出産に伴い

仔山村の美山家に預けられた。


 4月4日、遠の弟が産まれた知らせが入る。

しかしその子は、黄色い目の眼光症として

産まれて来たのであった。

周りに内緒にしろと言われた遠だが

同じ眼光症の翡翠達に頼らなければならない。


 翡翠は遠が周りの人に教えた事を悟られない

ように、一冊のアルバムと手紙を遠に託した。


 2021年4月18日。

朝7時頃に、母は産まれてきた遠の弟と退院して

自宅に戻ってきた。


「母よ、戻ってきたか。しかし本当に

目が光る子供が産まれるとはな」


 母は言葉が出なかった。産んだ子供が

眼光症だったのがあまりにもショックだった。


「だがこれを見ればきっとその子も

普通の子供同様に生きていけると思う」


 遠は母に借りてきたアルバムを見せた。

仔山村での蒼穹達の生活の写真が載っている。


「これは家族みんなで見よう。

我が友蒼穹の母がそう仰っていた」


 遠は父と母と、弟の前でアルバムを開いた。


 蒼穹が引っ越して間も無い幼い頃の写真には

一本桜の下で翡翠から読み書きを習う

蒼穹の姿があった。


 次に、翡翠と翔多と一緒に遊ぶ蒼穹の写真。

翔多の技を習う蒼穹。海の浅瀬で泳ぐ蒼穹など

色々な蒼穹の写真があった。


「この男、見覚えがある!あいつあの緑目と

結婚して子供生まれてたのか!」

「父よ……」

「もう今更、隠す意味も無いよな。

俺はこの緑色の目の女子をイライラから

いじめようとしたらこの男にしばかれて

今も殴られた痕が痛む」

「そんな過去があったんだな」

「今日までずっと内緒にしてたが、これから

も一緒に居てくれるか?」

「ああ。翡翠も覚えてないようだったからな」


 遠の言葉を聞いて母はうなずいた。

弟も笑顔だ。


「さて、さらに見てみよう……おおっ!」


 遠が見たページには、蒼穹とキニップが

手を繋いでいる様子も写っていた。

初めての出会いの後で蒼穹とキニップが

手を繋いだ様子を翡翠が改めて撮影していた。


「それから、あんな事やこんな事が……」


 海水浴を楽しんだり。


 夏祭りで盆踊りをしたり。


 初めての学校を体験したり。


 仮装パーティーでピアノと共に踊ったり。


 モルックの大会で大活躍したり。


 仔山村で初めて遠と遊んだり。


 翡翠の実家で年末を過ごしたり。


 積もった雪でかまくらを作ったり。


 今まで翡翠と蒼穹とキニップ達が

暮らしてきた日々がアルバムに写っていた。


「初めて仔山村に来た時は、蒼穹達は

こういう所でも楽しく暮らしているのだなと

感心したものだ」


 アルバムの最後のページには、一枚の手紙が

添えられていた。遠は手紙を手に取り読んだ。


 このアルバムを見てくれたあなたへ。


 私は美山翡翠です。生まれた時から

緑色の輝く瞳を持っていました。

幼い頃、周りから好奇の目で見られる事が

いやだから眼鏡をかけて生活してました。


 中学生の時に、私にとって初めての友達が

出来ました。白部求という人です。

彼女の将来の夢は、アスリートでしたが

不慮の事故で夢を奪われました。しかし

彼女は私の眼球の秘密を解き明かすために

科学者となりました。


 科学者となった彼女のおかげで、私達は

今日まで楽しく過ごす事が出来ました。

息子の蒼穹が産まれる時、その存在を隠すため

世間から隠れる事になりました。それでも

求をはじめ多くの理解者が私達を支えました。

訳ありの人達を受け入れる仔山村に引っ越して

そこで蒼穹を育てる事が出来ました。


 蒼穹の友人のキニップの家族も

彼女によって救われた一家です。

娘が眼光症で生まれながらも

父は妻子をベリーニ号に乗せて

サンドイッチを売ったお金で養い

さらには自ら眼光症の事を調べて

求にたどり着き、仔山村を紹介してもらい

蒼穹とキニップは手を繋ぐ事が出来ました。

こうして、眼光症の子供達の楽しい毎日が

始まったのです。


 もし、あなたの周りに眼光症の子供がいたら

すぐさま白部求の所にご連絡下さい。

きっとあなたを救ってくれます。

将来、眼光症の人は増えていくでしょう。

そのためには皆さんの協力と理解が必要です。

彼らが社会で安心して暮らすためにも。


 美山 翡翠


 手紙の最後には、眼光症研究者、求の

連絡先も書かれていた。


「眼光症……の研究者がいたのか」

「父よ、こちらからも申し上げるが

実は誰にも話すなと言った事、翡翠達に

話してしまったんだ」


 遠は秘密にしていた事を他人に話した事を

父に怒られる事覚悟で言うと。


「聞いた相手が理解のある人ならそれで良い。

連絡は遠がやってくれ」

「分かった」


 父は遠を赦してくれた。

遠はすぐさまスマホから求に電話をかけた。


   * * * * * * *


 眼光症研究所。8時頃。

あなたはいつものように求の部屋に入ると

求が誰かと電話していた。


「……ああ、そうか。分かった」


 求は電話を切ると、あなたに挨拶した。


 やあ、君か。今しがた良いニュースと

悪いニュースが入ったが、どちらから聞く?




 分かった。まずは悪いニュースから話そう。

それは……君の新しい仕事が山ほど出来た。

そして良いニュースとは……そう。

先日産まれた遠君の弟が眼光症だった事を

遠君が自ら改めて連絡してくれたんだ。


 これから、すぐさま遠の家に行って

弟を現地で調べる事にした。

君にもご同行願いたい。ここまで来たからには

拒否権は無しだよ。


 って言っても、君は行きたいのだろう。

早速、準備してくれたまえ。

翡翠にも電話しておくよ。

君の仲間を見せてあげるとね。


 あなたと求は、準備を済ませると

研究所から聖流の車で出発した。


 10時頃。

求達と翡翠達は遠の家の前で合流した。


「求さん、お久しぶり」

「こんな形で会う事になるとはね」

「遠くんの弟、見てみたいな」

「早くいこうよ!」


 蒼穹とキニップもワクワクしている。

求は遠の家のインターホンを押した。


ピンポーン


「はい。」

「君が深海 遠君かな。ちょっと大勢だけど

上がらせてもらうよ」


 遠はドアの鍵を開けた。

求とあなたと、翡翠と蒼穹とキニップは

家に入っていった。ちなみに運転手の聖流は

車内で休憩中である。


「ここが遠くんの家か」

「ソウくんの家にも負けないぐらい良い所!」


 蒼穹とキニップもキョロキョロ見回してる。

リビングに着くと、お茶とお菓子が

テーブルに置かれた。


 「この子が新しい眼光症の子で間違いないね」

「ああ、初めて会った時は我が目を疑った」

「ちょっとだけ調べさせてもらうよ」


 求は遠の弟の髪を採取すると

白衣の袖から出てきた特殊な機械に入れた。


「何だそれは」

「私が開発した、遺伝子解析装置さ。

髪の毛などから遺伝子情報を抜き取れる」


 機械の起動から暫くして、解析が完了した。


「うむ、この子には確かに眼光症の特徴が

あると見なされた。この機械にはこれまでに

出会った眼光症の人達の遺伝子データが

記録されているから、これで通算5人目の

データが手に入った訳だ」


 満足そうな表情を浮かべる求。

すると蒼穹とキニップが遠に聞いた。


「そういえばこの子の名前、何て言うの?」

「私も聞きたい!」


 すると、遠は弟を抱えて言った。


「我が弟の名前、それは」



こう



「この黄色く輝く瞳のように煌きを纏う人に

なってもらうために、我が名付けた」

「名前を付けるのは任せてくれって言われて。

息子は俺よりセンスが良かった」


 遠の父も語った。


「煌か、良い名前だ」


 求は先程登録したデータに

『煌』と名付けた。


「煌君の事は私が責任を持って

見守ってあげるよ。これからこの子には

沢山の良い事を教えてあげてくれ。

……さて、他にも何かあるかな」


 すると、遠の父が翡翠に近寄りこう言った。


「あの時の事、本当にすみませんでした!

こんな機会、無いと思っていたから!

本当にすまなかった!!!」


 遠の父は翡翠に頭を下げて謝った。


「そ、そうだったの。こちらこそ私の亭主が

怪我させちゃってごめんなさい」


 翡翠も彼に頭を下げた。


「でもおかげで目が覚めて、まともな人生を

送る事が出来た。あいつにもそう言ってくれ」

「ええ。分かったわ。そういえばゲームに

負けた腹いせに私に絡んで来たんだよね。

良かったら今度一緒に遊びませんか?

今度は楽しく出来るといいですね」

「本当ですか!ありがとうございます!」


 こうして、高校時代のあの出来事に

ひとまずのケリが着いたのであった。


「本当に、黄色い瞳」

「大きくなったら一緒に遊びたいね!」


 蒼穹とキニップとあなたは、煌の瞳を

良く見ていた。

将来の社会を引っ張っていきそうな瞳を。


「今日はお世話になりました。ではまた」


 こうして求達は車に乗ってそれぞれの

帰る場所へと走っていった。


「光る眼を持つ者達。彼らに会えて

本当に、良かった」


 遠は弟の煌を抱きかかえてつぶやいた。


   * * * * * * *


 5月4日。

煌が産まれて一ヶ月の日。


 遠の家の屋根には、黄色い目をした

鯉のぼりがはためいていた。


 第24話へ続く。

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