第18話 不思議な少年

 やあ、待っていたよ。蒼穹とキニップが出会ってもう半年が経った。海辺で遊んだりお祭りをしたり、初めて学校に通ったりパーティーしたり、モルックもやってたよね。私にはまるで数年間にも感じるような濃密すぎる毎日だったよ。


 さて、月日は流れてもう年末。こんな時だけど、蒼穹達の学校になんと新たな転入生がやって来たんだと先日翡翠から聞いたんだ。事情はともかく、何とも不思議な時に現れたその人は、これからの毎日に一体何をもたらすのだろうか。


 今日は新たな仲間が出来た話をしよう。ある意味、蒼穹達よりも不思議な子の話を。


   * * * * * * *


 11月30日。蒼穹とキニップの登校日。しかし、朝の会で突然担任が言った。


「みんなに転入生を紹介します。さあこちらへ」


 蒼穹とキニップもそわそわしてきた。


「一体誰が来るんだろう」

「とっても楽しみ!」


 転入生が教室に入ってきた。目深くフードを被り黒いパーカーと黒いズボンをまとっている、まるで影が人になったような印象の男の子。生徒達の前に立つとフードを脱ぎ顔を見せた。


「我が名は深海ふかみ えん。皆の者、よろしく頼むぞ」


 ザワつく生徒達。


「なんか良く分からない子だな」

「真っ黒ファッションってどうなんだろう」

「でもなんかカッコいい……」


 恥ずかしがっているわけではなく、本人なりのカッコつけらしい。そんなわけで、遠の席は蒼穹の隣になった。蒼穹の右がキニップ、左が遠である。


「何だろうあの子……」

「なんだか、光を吸い込んでる感じ……」


 蒼穹とキニップも遠から異様なオーラを感じ取っていた。遠は蒼穹の隣に座ると、何かを言いたげな表情で蒼穹を見つめている。


「あの二人、よく見たらこの間モルック大会で優勝したやつじゃないか。まさかここで会えるとは運命のいたずらが過ぎるな」


 この日の体育の時間は、モルックとなった。今回は屋外の砂地での試合となる。クラスのみんなは4チームに分かれた。


「え、君は、遠くん……」

「よもや君と一緒とはな。よろしく頼む」


 異質なオーラを放つ遠を、蒼穹以外の生徒も不思議そうに見つめていた。


 一方でキニップは心音と同じチームだ。


「ソウくん、大丈夫かな」

「あんまり緊張しないで行きましょう」


 試合が始まり、一投目は遠であった。遠は自信満々に棒を構えた。


「我が力、見せてやろう。放て!破壊の一撃!!!」


ビュン……ストン!


 しかし、棒は盛大に外してしまった。一同は失笑を隠すのに必死だった。友達をわらうのは、人としていけない事だから。


「え、ええっと、ドンマイだよ」

「我が力、こんなものでは……だが、気遣い感謝するぞ……」


 その次も遠は変な事を言いながら棒を投げていた。上手いもそうでもないも関係無く、本人が楽しければOKなスタンスだ。


「おかげで今日は楽しかったよ」

「おおそうか。蒼穹はいい奴だな」


 昼休みに、遠は蒼穹とキニップに近付いた。


「モルックが上手なだけでなく、我が失敗も宥めてくれるとは素晴らしい。どうかこの遠の盟友になってくれないか」

「う、うん、大丈夫だよ。でもね……」

「私達がここに来るのは月曜と金曜なの」

「なんと!如何なる理由があるのか!」

「それはね……」


 蒼穹とキニップは遠に自分達の知っている眼光症の概念を話し始めた。


「僕のお母さんは眼光症を持っていた。生まれてきた僕もまた、眼光症を持っていた」

「おお……」

「私の両親は普通の人だけど眼光症で生まれてきた」

「なんと……」

「僕らは普通の生活が出来なくて、僕は家族と仔山村で暮らした」

「私はベリーニ号に乗って色々な所を転々して求さんが教えてくれた仔山村に来たの」

「求さん?誰だそれは」

「お母さんの友達で、眼光症の研究者。たまに助手と一緒に遊びに来るんだ」


 すると遠は思いもよらない事を言った。


「どうか、我をその……仔山村に連れて行ってくれないか!」

「「ええっ!?」」


 驚く蒼穹とキニップ。


「如何なる環境で育てば君達のようになれるのかを是非知っておきたい!この通りだ!」


 懇願する遠に蒼穹は言った。


「後でお母さんと相談するから大丈夫なら一緒に行こう」

「OKかどうかは、今度の金曜日に言うから!」

「あい分かった。良い報せを待とう!」


 蒼穹は帰宅後翡翠と相談し、遠を仔山村に連れて行って良いかと言うと、わりとあっさりOKを出してくれた事を、金曜日に遠に話した。とても喜んでいたという。


 12月6日。翡翠は蒼穹とキニップを車に乗せて都会まで遠を迎えにいった。


「では、行ってくるぞ、栄光の旅へ」

「気を付けてね」


 母に見送られ、遠は仔山村へ出発する。車内では学校の事とか普段の生活の事とかを談笑し合っていた。そうこうしている内に仔山村に到着した。


「おお!ここが仔山村か!都会とは何もかもが違うな!」


 初めて訪れる仔山村に興奮しっぱなしの遠を蒼穹とキニップと翡翠が案内してくれる。


「都会にとって『普通じゃない人達』がここに集まって暮らしている。風見村長がそういう人達を助けるために作ったんだ」

「でもみんないい人だし、助け合って暮らしているんだよ!」

「蒼穹達が学校に通う前は塾で勉強してたの。私が先生をしている塾にね」

「塾もあるのか」

「今日はいっぱい楽しんでね!」


 蒼穹とキニップは遠を草原に案内した。春は黄色い花が沢山咲くけど、冬の間は咲いていない。けどいつの季節も仔山村の子供達にとっての大切な場所。


「僕らはいつもここで良く遊んでるんだ」


 蒼穹はお気に入りの青いボールを取り出す。夏に海に流れた所をキニップが必死で取り戻したボールである。


「翡翠せんせぇともこれで遊んでるの!」

「ここで見守っているから安心してね」

「そうか。では、行こう!盟友よ!」


「やっ!」

「それーっ!」

「真空衝撃波!!!」


 大袈裟な事を言いながらも遠は二人と楽しく遊んだ。


「こんなに力強く投げる子、初めてだよ」

「いやあ、誠に申し訳ない」

「やっぱり寒い日は身体を動かすと暖かくなるよね!」

「こんな気持ち、久しぶりだな。ところで

この村では普段は何を食べているんだ?」

「オススメは、ガンツさんのサンドイッチ」

「私のおとーさんが作ってるの!」


 キニップは家から作り置きのサンドイッチを持ってきてみんなで食べた。


「な、なんて美味しいんだ!コンビニのサンドイッチでは味わえぬ領域!」

「ベリーニ号で都会でも売ってるの!」

「私の焼いたホットケーキもいかが?」

「うおおっ!これも美味しい!なんて村だ!」

「気に入ってくれて嬉しいよ。」

「なあ、サンドイッチもホットケーキも持ち帰っていいか!」

「もちろん。家族で味わってね。」

「ありがたい!!!素晴らしい!!!」


 こうして、お土産も得られて上機嫌な遠は再び翡翠の車に乗り都会の自宅に帰って来た。


「仔山村、最高に楽しかったぞ!!!」

「また遊びに来てね」

「いつでも待ってるよ!」

「お世話になりました。ではまた」


 翡翠達は仔山村へ帰ると、遠は両親とお土産を味わいながら今日の事を語った。すると父の方が、思わぬ言葉を口にした。


「実は俺、緑色に光る眼の女子を見たことがあるんだ」

「なんだって……!?」


   * * * * * * *


 後日、蒼穹が遠から聞いた話によると遠の父は昔その緑の瞳の女子をいじめようとしてクラスメイトの男子に殴られ退却してもう誰も傷付けないと誓ったんだそうだ。その後今の妻と結ばれて遠が生まれて、色々な学校を転々として今に至るとの事だ。


 まさか、あの時の不良が更生して家庭まで持っているとはね。さらに聞いた話によると、遠の母は現在妊娠中で来年4月には生まれてくるんだという。無事に生まれてくれればいいんだけどね。


 それよりも、もうすぐあの季節じゃないか。クリスマスだよ、クリスマス。この研究所も綺麗に飾ってパーっと盛り上げていこうじゃないか。


 それでは、レッツデコレーション。


 第19話へ続く。

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