第17話 モルック大会
やあ、君か。秋といえば、君は何を思い浮かべるかな。読書の秋。食欲の秋。実りの秋。ここはやっぱりスポーツの秋だろう。
実は先日君がデスクワーク中に翡翠に誘われてスポーツイベントを見に行ったんだ。もっとも、今の私はするより見る方が楽しくなったからね。
勿論そのイベントには蒼穹とキニップ達も参加していたよ。という事で今日はその日の出来事をお話してあげよう。
* * * * * * *
2020年11月13日。肌寒くなってきたこの頃。
心音はいつものように蒼穹とキニップにプチガッキの音を聴かせていた。今回はバイオリンのプチガッキである。
ララルラー♪ルーラララリーラー♪
蒼穹とキニップは美しい音色に またしても魅了されていた。
「色んな楽器のプチガッキがあるんだね」
「あ、実は私、この前ギターのプチガッキをデパートで見つけて買ったんだ!」
「それは良かったわね。今度セッションしてみたいものね。」
「わーい!」
「僕も、何か始めればいいかな」
今日も仲睦まじい様子の3人。すると、心音が何かを思い出した。
「そういえば、近日都会でこういうイベントをやるみたいだけど」
心音は二人に1枚のプリントを見せた。
「あっ!これ……」
「なんだろう!」
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□モルック大会開催のお知らせ□
北欧発祥の新感覚スポーツ、モルックを試合を通して楽しんでみませんか!参加者全員に粗品をプレゼント!どなたでもお気軽にご参加ください!
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「これに私も行ってみようと思うの。でも一人で行くのは何だか不安なので。ソウくんとキニィちゃんにも来て欲しいの」
「でも、どんな事をするんだろう」
「サッカーとかとも違うんだよね」
すると心音は。
「実はソウくんのお母さん宛にモルックセットを送っておいたの。この間の即興ダンスのお礼」
「えっ!」
「今度家でもやってみて。でも室内はオススメしない。何故なら床が傷付くから」
「分かった、今度やってみるよ」
「私もやってみたい!」
* * * * * * *
帰宅後、蒼穹の家には心音が送ってくれたモルックセットの箱が届いていたのであった。
「斜めに切った木に数字が書いてある」
「まずは一緒にルールを読みましょう」
蒼穹と翡翠はルールブックを見始めた。
すると蒼穹は熱心に読み始めた。
「決まった置き方で並んだスキットルにモルック棒を投げて倒した数が点になり、1本倒した場合はその数字が点になり、合計50点丁度になるようにスキットルを倒す。ただし51点を超えたら25点に戻り3回連続で1本も倒せなかったら失格……」
「ずいぶん熱心に読んでいるのね。これならすぐに覚えられそう」
「はやくやってみたいな」
蒼穹は寝る前もルールブックを水色の瞳で見続けていた。
11月14日。昨日受け取ったモルックセットで、蒼穹とキニップは一緒に練習を始めた。
「それっ!」
ガシャッ!
「いっぱい倒れた!ソウくんすごい!じゃあ次私!……えいっ!」
ガッ!
「6だけ倒れた!キニィちゃんすごい!」
「ありがとうソウくん!」
「二人共楽しんでいるのね。今度の大会には求ちゃんも呼んでみようかな」
二人共、すっかりハマったらしく、一週間毎日モルックをしていたという。
11月22日。モルック大会当日。蒼穹達は会場で心音と合流した。
「おはようみんな。今日は楽しみましょ」
「よろしくね」
「いっぱい練習したんだから!」
「蒼穹の父さんと母さんも一緒なのね」
一方で翡翠と翔多は私と会っていた。
「求ちゃん、研究の調子はどう?」
「助手達のおかげで順調さ。今日は二人の頑張る姿をちゃんと見てあげるよ」
「今日は家族共々よろしくな」
会場で蒼穹とキニップと心音は三人チームでエントリーすると、会場で始めの挨拶が行われた。
「今日は集まってくれてありがとう。モルックで楽しんでくれると、嬉しいな」
現地のモルック普及委員会のマスコットキャラ、ルミ・ルミリンナのコスプレをした女性が挨拶をする。
「青い天使さんだ」
「可愛い!」
「北欧から来た天使で、モルックの楽しさを広める使命があるみたいよ」
観客席からは翡翠達も応援している。
「3人とも、頑張ってね」
「お前達なら出来る!」
「今日はここから、見ているよ。いい所を見せておくれ」
いよいよ、予選が始まった。蒼穹、キニップ、心音の順番で投げて順調に事を運んでいき、まずは心音が50点を取り予選突破した。
「私も事前に練習した。ピアノのお稽古より簡単だったから」
「何でも出来てすごいね!」
「それじゃあ、次も頑張ろう」
その後の試合も順調に勝ち進み、なんと気がつけばもう決勝戦まで進出していた。
「何だかよく分からないままここまで勝ち進んじゃった」
「ソウくんとココちゃんのおかげだよ!」
「ココちゃん……まあ悪くないわね」
息子と友達が決勝進出した事に保護者達もテンション爆上げである。
「このまま優勝目指してこい!」
「翔多君、勝負事はすぐ熱くなるから」
「これもまた、青春だな!」
私の前髪の下の表情が久しぶりに笑った。
いよいよ決勝戦。相手はそれなりに経験のある大人三人だ。
「はじめっ!!!」
最初は蒼穹達が一気に点を進めるも、相手チームはジリジリと点差を縮めていく。
「見ててソウくん!それっ!……ああっ!」
焦ってミスする事もあったりしたけど。
「こういう時は1本でも倒す!」
コーン!
上手く倒してナイスフォローと思われたのだが……
「蒼穹チームあと1点!しかも1は5の隣! 」
ここに来て思いもよらぬ展開に会場は大きくザワついた。
「しかも5は相手チームの倒してはいけないやつ!ああっとここて3を倒しお互い49点になった!」
そしてこの全てが決まる一本を投げるのが
蒼穹となった。
「ソウくん、頑張って!」
キニップの瞳が強く輝く。
「ここまで来たなら、決めちゃって!」
心音も応援する。
「やるんだ……やるんだ!!!」
蒼穹の瞳が強く輝き……!!!
「やあっ!!!!!!」
ブン……
スコン!!!
「えっ……!?」
「まさかっ……!!!」
「あああ……!!!」
蒼穹の投げた棒は1のスキットルをかすり、上手い具合にそれだけを倒したのだった。
わぁああああああっ!!!!!!
パチパチパチパチパチパチパチパチ
会場からは大歓声と拍手が湧いた。
「おめでとうございます!蒼穹チームがここ一番を決めて優勝です!!!」
「か、勝っちゃった……」
「すごいよソウくん!最高だよ!!!」
「あらためて、二人に会えて良かった!」
負けたチームも、これも醍醐味だと蒼穹達を認め、称えてくれた。
表彰台でトロフィーを受け取る蒼穹。ルミがインタビューしようと近付いた。
「今のお気持ちをお聞かせください!」
「え、えーと、嬉しいです!」
「また参加したいな!」
「次も楽しく出来るといいですね」
「ではあらためて優勝したチームに盛大な拍手を!!!」
パチパチパチパチパチパチパチパチ
「あの二人、なんて光る目をしている……。何やら面白い事が起きそうだと心の中の俺が囁いてくる。次の機会を、楽しみにしているぞ……!」
表彰台に立つ蒼穹とキニップを見てつぶやく少年がいた。彼は一体何者なのか。
* * * * * * *
その後、蒼穹達が優勝した事は心音の学校でも、この研究所でもかなり話題になったんだ。あれから学校の体育の時間にもモルックが採用されて蒼穹とキニップと心音はそこでも活躍した。形がどうあれ眼光症と普通の人がこうやって仲良くするのが私の理想だよ。
そういえば、観客席にちょっと変わった少年がいてね。蒼穹とキニップの事が気になっていたらしいんだけど、彼はこれから何をもたらすのかは、次の話だ。
さて、ここまで語ったら、私もモルックがしたくなった。この後暇かい?ならこの後近所の公園でモルックをやってみようではないか。君も、そういう顔してやってみたいと思っているだろう。
では、レッツモルック。
第18話へ続く。
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