第16話 都会のお嬢様

 やあ、君か。先日は蒼穹とキニップが初めて学校を体験したね。あの日以来二人共学校を気に入ってくれて、ここ最近は月曜日と金曜日に通っている。ここから上手い事やっていけば、3年生から毎日通学出来る具合だ。


 それと、学校で出会った小さなピアノを持っている子がいたね。先日、翡翠からあの子の家で開催するハロウィンパーティーに招待されたと聞いたんだ。実は彼女、奏 心音は良家のお嬢様でもあったんだ。


 今日は蒼穹とキニップが初めてパーティーに招待された日の事をお話してあげよう。


   * * * * * * *


 2020年10月26日。蒼穹とキニップの登校日。気温もすっかり下がり、秋の風が吹く頃。


トゥントゥルルルルン♪テテン♪


「心音ちゃん、今日も上手だね」

「この曲が聴きたくて学校に行ってるよ!」

「いつもありがとう、お二人さん」


 蒼穹とキニップと心音は今日も仲良く昼休みの時間を楽しんでいた。ここ最近は蒼穹とキニップが好む曲も練習して弾けるようになっているという。


「今度はあの曲聴かせて!」

「いいわよ……でもその前に、これを受け取ってもらえるかしら」


 心音は二人に手紙を渡した。


「あ……これって。」


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 ☆★☆★ハロウィンパーティー☆★☆★

☆★☆★☆★開催のお知らせ☆★☆★☆★☆

 皆さんも好みの仮装で楽しんでみませんか!開催は10月31日、場所は奏家邸宅。お待ちしていまーす!!!


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「ハロウィンパーティー?」

「なにそれ!行ってみたい!」

「私の家で仮装を披露して楽しむの。毎年やってるやつだし、あなた達二人がパーティーに出れば、眼光症の認知もそれなりに広がると思うから。という事で出来れば来てくれるかしら」

「分かった。お母さんに話しておくよ」

「どんな仮装で行こうかな!」


 蒼穹とキニップは帰りの車の中で翡翠にパーティーの話をした。


「それはとても素敵ね。まさかお友達が良家のお嬢様だったなんて」

「僕達みたいなのが来ていいのかなって」

「大丈夫よ。私も一緒に行くから」

「あとでおかーさんにも話したい!素敵な仮装してみたい!」


 次の日、翡翠とモアは子供達に着せる仮装の話で盛り上がった。


「……という事で、どんな仮装をすればいいでしょうか」

「それなら私に任せてヨ!元モデルのセンスは伊達じゃないヨ!」

「そうね。あとよろしければ私の仮装もお願い出来るかしら。」

「もちろんOK!任せて頂戴ネ!」


 モアはその日の晩、すごい形相で蒼穹とキニップの仮装をデザインし始めた。


「娘とお友達にはきっとこれが似合うワ!あと翡翠さんにはこういうのをネ!」


 パーティーの前日、お試し通学から蒼穹達が帰宅した時に家に小包が届いてた。差出人はモアである。蒼穹は小包を開けた。


「わぁ……これって……!」

「今度のパーティーの仮装セットよ。きっと蒼穹も気に入ると思うわ。」


 一方キニップの仮装はモアが直接渡した。


「うわーーーすてきーーーー!!!

ありがとおかーさーーーーん!!!!!!」

「喜びすぎ……それじゃ明日疲れるわヨ」


 二人共、その日が待ち遠しかった。


   * * * * * * *


 10月31日。ハロウィンパーティー当日。


 蒼穹とキニップは翡翠の車に乗って都会にある奏家邸宅に向かった。到着後、3人は更衣室に案内された。


「更衣室は男女別だから蒼穹は着替えたらすぐ前で待っててね」

「分かったよ」

「ソウくんの仮装楽しみ!」


 蒼穹は男子用、キニップと翡翠は女子用の更衣室に入って着替えた。


「これを着れば、いいんだね」


 蒼穹は鎧を着た勇者の仮装となり男子更衣室から出た所で、翡翠とキニップと合流した。


「あっソウくん!これ見て!!!」

「私のも、どうかな」


キニップはとんがり帽子の魔女の仮装となり、翡翠は本を持った賢者の仮装となった。


「キニィちゃんの仮装、可愛い!あとお母さんのもなんかすごい」

「でしょ!普段からこれ着てたいぐらい!」

「何だか蒼穹とキニップを見ていると

昔翔多と見た映画を思い出すわね」

「何の映画?」

「私にとって思い出の映画。家にDVDあるから明日みんなで見ようね」


 翡翠が感傷にふける中、いよいよパーティー開始の時間となった。大広間には沢山の円形テーブルが並び中央にはグランドピアノが乗った円形のステージが誇らしげに置いてある。比較的ハイソな身分の人達が思い思いの仮装を楽しんでいた。


「色々な仮装があるね。ドラキュラやミイラにゾンビまで……」

「みんな面白い!楽しい!」

「あら、あれは心音ちゃんね」


 ゴシックな服装に身を包んだ心音がマイクを持って始まりの挨拶をする。


「皆さん、本日はお集まりいただき、誠にありがとうございます。このハロウィンの夜、楽しんで下さい」


 心音は長話はしないタイプのようだ。


 テーブルにはハロウィンにちなんだ料理やお菓子が並んでいてどれも美味だ。皆が思い思いに過ごしていると……


「これより、ちょっとしたショーを始めます。美山蒼穹、キニップ・ベリーニはすぐさまステージに上がってください」


 心音が二人を直接呼ぶ。


「え?」

「何するんだろう!」

「お母さん、行ってくるね。」

「ちゃんと見ているよ」


 円形ステージに登る心音と蒼穹とキニップ。心音はピアノの椅子に座ると蒼穹達に言った。


「今から私のピアノの曲に合わせて二人で踊ってもらうわ」

「え!?そんなの聞いてないよ!?それに練習もしてないのに……」

「大丈夫。振り付けとかはその場で考えていい感じに踊って頂戴。その方がありのままの私達を見せられるから」

「ダンス!やろうよソウくん!」

「う、うん、分かった。やってみるよ!」


 何とか決心の付いた蒼穹。キニップは初めから乗り気だ。


「それでは、始めます」


 心音がピアノを奏でると、蒼穹とキニップは曲に合わせて踊ってみた。二人共ぶっつけ本番な事もあり、ちょっとぎこちない所もあるけど、何とか上手い事やってみようとした。


「こ、こんな感じでいいのかな……///」

「ソウくん、上手だよ……///」

「キニィちゃんも、イケてるよ……///」


 顔を赤らめながらも、踊る二人。パーティー会場の人達も目の光る二人を笑顔で注目していたのであった。この際、目が光る体質など些細な事。思い思いに踊る二人を、入場者達は見守っていたのであった。


 演奏が終わると、拍手が起こった。


パチパチパチパチ………


「皆さん、ありがとうございます。もう一度この二人に暖かな拍手を」

「楽しかったね、ソウくん!」

「えへ……えへへ……///」


 眼光症の二人の姿は、多くの人に素晴らしく写った事だろう。翡翠も涙ながらに見つめていた。


 やがてパーティーが終わると、更衣室で元の服に着替えて帰宅となった。


「またダンスしたいね、ソウくん……」

「そうだね、キニィちゃん……」


 帰りの車内で肩を寄せ合い眠る二人。翡翠は安全運転で自宅へと向かっていった。


   * * * * * * *


 パーティーの席でのサプライズイベント。それを優しく見てくれた観客達。翡翠の少女時代では考えられなかった事。後日配布されたパーティーのビデオを見て私も心が熱くなったんだよ。


 このパーティーは二人にとって素敵な思い出になった事だろう。私も来年参加してみたいなと思っている。君はどんな仮装をして行くのかな。


 さて、この後も蒼穹とキニップは心音ちゃんと共に都会の楽しさに沢山触れて行くことになる。これから先も、楽しみだよ。普通の人と眼光症の人が仲良くなれる世の中を目指して。


 では、また次回。


 第17話へ続く。

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