第15話 初めての学校

 やあ、今日も来てくれて嬉しいよ。先日の夏祭り、楽しかったよな。また翡翠と語り合う事が出来て私も嬉しい。翡翠の浴衣姿、中学最後の夏以来だった。蒼穹とキニップの浴衣姿も様になってたね。


 それから、翡翠とはこれからについてを話し合ってたんだ。それは蒼穹とキニップの将来にも関わる話でね。これまでの二人は翡翠が先生をしている塾に通い、普通の人が考えてるであろう学校にはまだ通った事が無かったんだ。


 翡翠先生だけでは教えられる事も足りないかもしれないし、何よりも二人が社会に出た時に自立出来るだろうか。眼光症でも受け入れてもらえるだろうか。


 という訳なので、最初の内は学校の事は二人に内緒にして、その時に改めてお話した。それからはしばらくの間、月に数回行く日を決めて通学させて少しずつ慣れさせる事にしたんだよ。


 今日は蒼穹とキニップが初めて学校に行った日までの出来事をお話するよ。これは我らの大きな一歩になる事だろう。


   * * * * * * *


 2020年8月17日。夏の暑さもまだ続く頃。


 翡翠は家に届いた荷物を開けていた。


「これは……求ちゃんらしいセンスね」


 中には私が用意した水色のランドセルと教科書セットなどが入っていた。そこに蒼穹が見に来る。


「えっと……なにこれ」


 初めて見るものに目を丸くする蒼穹。翡翠はここで初めて学校の事を話した。


「この間まで内緒にしていたけど教えるね。蒼穹は今度キニップと一緒に学校に通う事になるのよ」

「え……学校って……?」

「皆で勉強する所。私も昔通ってた所」


 すると、蒼穹は不安そうに言った。


「でも、大丈夫なのかな。僕の事を怖がる人とかいないかな……」

「大丈夫。最初のうちは行く日を決めて少しずつ慣れさせてから、いつかはここから毎日通うようにするの」

「そっか。それならきっと大丈夫そう」

「学校が無い日は私の塾でも引き続き勉強しましょうね」

「はーい」


 次の日、翡翠の塾の授業が終わると、キニップは蒼穹に昨日の事を話した。


「ねえソウくん!コレ見て!」


 キニップは蒼穹にピンクのランドセルを見せた。蒼穹と同じ日に届いたという。これも私が用意した。


「ソウくん!学校ってどんな所?」

「みんなで勉強する所みたいだよ」

「私も早く行きたい!ここにに来る前はベリーニ号で色々な所へ行ったけど、他の子供達と遊ぶ事は無かったんだから!」

「そういえばそうだったんだよね。学校、僕も行ってみたいよ」


 学校を楽しみにする二人の前に、翡翠がカットしたスイカを持って来た。


「二人共楽しみなようね。今日の勉強はいつもよりちゃんと頑張っているのが伝わったわよ」

「ありがとうおかあさ、いや、翡翠先生」

「せんせぇありがとう!」


 仲良くスイカを食べる二人を翡翠は少し遠くから見守っていた。


「これから学校に通う日々が二人にとっていい経験になって欲しい」


 一方で私は翡翠が昔生徒として通い、先生にもなった学校に、蒼穹とキニップの体験入学の手続きをしていたのであった。


   * * * * * * *


 9月7日。翡翠は蒼穹とキニップを車に乗せた。


「ランドセルの中身はちゃんと確認した?」

「昨日の夜ちゃんと見たよ」

「こっちも見たんだからー!」


 すると、車外からモアが見送ってくれた。


「それじゃウチのキニップをよろしくネ!」

「では、行ってきます。」


 車を走らせておよそ40分。


「さあ、着いたわよ」

「ここがお母さんの言ってた学校かあ」

「すっごく大きい建物!」


 翡翠は蒼穹とキニップを教室へと案内してあげた。二人の年齢的な事もあり2年生の教室に入る事になっている。


「昼休みが終わったら迎えにいくから、それまで学校のみんなと仲良くしてね」

「「はーい!!」」


 二人は教室のドアの前に立った。教室では、担任が生徒達に話をしていた。


「皆さん、今日はこの学校に体験入学する子が二人来ます」

「えっ?体験入学!?」

「どんな子だろう……」

「可愛い子だといいなあ」


 ザワつく教室内。するとクラスの担任が生徒達に言った。


「先に言っておきますが、今日来る子は先天性眼球発光症を持っています。目が光っていますけど、それ以外は皆さんと変わりません」


 すると教室が急に静かになる。


「では、入っておいで」


 蒼穹とキニップは教室のドアを開けて中に入った。すると教室がざわめき出す。


「本当に目が光ってる……」

「マンガだけの話かなと思ってたよ」

「すげーすげぇーーすげぇ……」

「本当にいるんだ……目が光る子……」


 微かに聞こえる子供達の声も二人の耳に入ってきた。それでも二人は緊張を抑えて黒板の前に立ったのである。


「それでは、皆さんに挨拶して下さい」

「美山……蒼穹です」

「キニップ・ベリーニ!よろしくね!」


 二人が自己紹介すると、生徒達が一斉に。


「「「よろしくお願いします!!!」」」


 と挨拶してくれた。


「なんとか、やっていけそうだよ」

「うん、きっと大丈夫!」


 蒼穹とキニップは笑顔を見せた。その様子を翡翠は教室の外から見守った。


「私の小学生時代はほとんど一人取り残された気分だった。けどこの様子なら大丈夫そうね。……さて、後で求ちゃんにありがとうのメールを入れないと」


 今日の授業が始まった。蒼穹とキニップは一番前の席で隣同士。生徒の机にプリントが配られる。


「こんな感じなんだ。塾と似てるね」

「これなら私でも出来そうだよ!」


 蒼穹とキニップはプリントに書いてある問題をスラスラ解いていった。途中で塾で習っていない問題もあったけど、直感と閃きで答えを出していた。


 先生はその場で蒼穹とキニップの回答をチェックした所、少し間違いはあったけどかなり答えられていた。


「見てください。二人共良い成績です」

「わぁーーーパチパチパチ……!」


 生徒達も拍手してくれた。


「なんだか嬉しいね、キニィちゃん」

「私も嬉しいよ、ソウくん」


 その後の授業も楽しく受けられた。給食の時間を経て、お昼休み。蒼穹とキニップは机の上で語り合っていた。


「授業面白いし、給食も美味しかったね。」

「そうね!とっても楽しい……あら?」

「どうしたの?」


トゥルルルルン♪


「どこからともなく、とっても綺麗なピアノの音が聞こえてくるよ。」

「本当?あ、本当に……」


 二人が向いた方には小型のピアノの奏でる女子生徒がいた。蒼穹とキニップは彼女に近付いた。


「あら、体験入学の子?」

「蒼穹です。小さいピアノ、上手だね」

「私はキニップ!あなたの名前は?」


 ピアノを持つ少女は挨拶した。


「私はかなで 心音ここね。ドレミットで楽しい音色を鳴らすのが大好き」


 ドレミットとは、心音の持つ小型ピアノの名前である。世界的に人気の小型楽器ホビー『プチガッキ』のひとつだとか。


「私も音鳴らしていい?」

「いいわよ。やってみて」

「わーい!それーっ!」


トゥルルルトゥラリラトゥン♪


 キニップはドレミットを奏でてみせた。


「なかなか、上手ね。才能ありそう」

「ありがとう!学校は楽しいし、こんな素敵な子にも会えて私嬉しいよ!」

「心音ちゃんの演奏もキニィちゃんの演奏もどっちも素敵だよ」

「良かったわ。二人共良い子で」


 二人は体験入学初日から素敵な友達に会う事が出来たのであった。


キーンコーンカーンコーン


 昼休み終了のチャイムが鳴ると翡翠が迎えに来た。


「今日の体験はここまでです。またしばらくしたら来ましょうね」

「はーい。」

「心音ちゃん、またね!」

「二人共、今日はありがとう。ちゃんと私のピアノに興味を持ってくれたの、あなた達が初めてだったから」


 心音は思わず胸中を口に出した。


「このドレミット、入学祝いに買っていつも持ち歩いてたけど、誰も私の演奏を聴いてくれなかったから。」

「今度ここに来た時にまた聴かせてよ」

「それまでどんどん弾いててよ!」

「分かったわ。ありがとう。またね」


 蒼穹とキニップは生徒達に帰ることを伝えると、みんな笑顔で見送ってくれた。


「「さようなら!!」」

「「「さようなら!また来てね!!!」」」


 帰りの車内で、翡翠は蒼穹とキニップに今日の学校の感想を聞いた。


「学校、楽しかった?」

「はい。楽しかった」

「ちいさなピアノを弾く子もいたよ!」

「それで、もっと行ってみたい?」

「うん、もっと行って色々勉強がしたい」

「私も友達と沢山遊んでみたい!」

「二人共、気に入ったみたいね。私よりも沢山の事を学べそうね」


 車の中の三人は笑顔を絶やさなかった。


   * * * * * * *


 以上が、蒼穹とキニップ初めての体験入学の出来事である。この様子から当初少なめに予定していた学校へ行く日を多めに増やしてあげる事にした。


 二人が思った以上に学校に適応出来て、しかも気の合う友達まで出来るとは正直言って予想外だった。これからこの二人は幼少期の翡翠が

得られなかった物を沢山手に入れる事が出来るだろう。


 これから二人は沢山の勉強を経て強く賢く育っていくだろう。君も負けないように普段から沢山勉強すると良いだろう。これが今回君に解いてもらう回答用紙だ。どう答えるかは、君次第だよ。


 それでは、レッツスタディ。


 第16話へ続く。

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