第14話 夏祭りの夜

 やあ、君か。

この間のアイス、美味しかったかな。

私はバニラ味が好みだよ。

疲れた脳にも染み渡る甘さだからね。


 さて、今日は君に

良いニュースと良いニュースがあるけど、

どっちから聞きたい?ってどっちも

良いニュースじゃないかって顔してるね。

まあいい。まず1つ目の良いニュースは……


 今日、また仔山村へ行く事になった。

それともう1つの良いニュースは……


 今日は丁度、仔山村でお祭りが

開催されるという事だ。

驚いてるか?うん、私も驚いてるよ。


 これから支度して、また聖流君の車で

出発するよ。さて、今日の研究は現地で

始めようではないか。


   * * * * * * *


 2020年8月9日。

この日は仔山村のお祭りが開かれる日。

村のあちこちには祭りの飾りが付いている。

求と星流とあなたはここに降り立ち

蒼穹達に会いに行った。


「私は蒼穹を呼びに行く。君と聖流君は

キニップを呼んでくれたまえ」

「分かった……よ。」

「こういうのはダンドリ良く

こなさなければね。よろしく頼むよ」


 求は蒼穹の家に、聖流とあなたは

キニップの家に行った。


「おはよう翡翠。蒼穹君はいるかな」

「求ちゃんおはよう。蒼穹は今起きた所」

「おはようございます、求さん」


 求を見つめる緑の瞳と水色の瞳。

求は早速、要件を話した。


「蒼穹君とキニップちゃんの泳ぎを

この目で見てみたい。

だから今から準備出来るかい」

「泳ぎが見たいの、分かったよ」


 蒼穹は自室に戻って水着の用意をした。

一方で、星流とあなたはキニップの家の

玄関の前に立っていた。


ピンポーン♪


 あなたはインターホンを鳴らす。

するとモアが出てきた。


「おはよう、アラあなた達ハ」

「求の……研究所の者……です。

えーと……キニップちゃんは……

いません……か?」

「キニップならもう起きてると思うワ。

キニップー!お客さんヨー!」

「ハーーーイ!!!」


 すると、キニップがもう水着姿で

聖流の前にやって来た。


「今日は海水浴に行きたい気分!」

「あらキニップ!ちゃんと服着なきゃ!」


 モアは慌ててキニップに服を着せて

家の外に出してあげた。


「今日はお祭りがあるんだから

あんまりはしゃぎ過ぎちゃダメヨ」

「それじゃ、行ってきまーす!!!」

「元気がいい……ね」


 キニップの勢いに押されながらも

星流とあなたは蒼穹を連れた求と合流した。


「よし、ほんの数分でも研究の時間に

余裕が出来た。二人とも偉いよ」

「ありがとう……ございま……す」

「今日はよろしくね」

「早く泳ぎたーい!!!」


 蒼穹とキニップは水着になると

先日作られた桟橋の上に立った。

その向こうにはもう1つ桟橋があって

浜辺から見て横に25m、縦に13mの

泳ぐスペースが出来ていた。桟橋と桟橋の

先端の間には物が流れるのを防ぐ

網が張り巡らされて、先日のような事態を

未然に防げるようになっている。


「この前来た時はこんなの無かったよ」

「これで安心してビーチバレー出来るね!」

「先日の事を風見村長に話したら

すぐに用意してくれたんだ。これから

君達にはこっちからあっちまで

全力で泳いでもらうよ」

「二人とも……頑張って……ね」


 求と星流とあなたが見守る中で

蒼穹とキニップは泳ぎ始めた。


ザバァッ!バシャバシャバシャバシャ……


 蒼穹とキニップは25m泳ぎきった。

結果はキニップの方がわずかに速いけど

二人とも同年代の子供より少し速かった。


「ふう。キニィちゃん速いね」

「私の泳ぎ、どうだった!?」

「ああ。二人とも素晴らしいよ。

人間、何か目的を強く意識すると

通常よりパワーが出ると聞いた事がある。

眼光症の場合はそれがさらに強くなって

思いもよらぬ能力が発動するみたいだな」

「そうなんだ……あ、今日は夕方から

お祭りがあるけど、求さんもここにいる?」

「ああ、もちろん。友人の息子の頼みは

聞いてあげないとね。助手達よ、今日は

仔山村の祭りを楽しもうではないか」

「分かり……ました」


 あなたも祭りを楽しむ意志を示した。

やがて夕方となり仔山村の祭りが始まった。


   * * * * * * *


ドンドコドンドンピーヒャラピーヒャラ♪


 櫓の上では太鼓と笛が鳴り響き

美味しそうな屋台が至る所に並んでいる。


「サンドなら何でもアリのベリーニ号も

祭りを盛り上げるゾーーー!!!」


 ガンツのベリーニ号もそのまま屋台となり

祭りを盛り上げていた。

焼きそばやたこ焼きやお好み焼きに

勝るとも劣らぬ勢いで。

隣の屋台では翔多が綿飴の屋台で

綿飴を作っている。蒼穹の大好物らしい。


「イチゴサンドを3人分。お釣りは結構」

「求さん、いつもありがとうネ」


 求はみんなで食べるイチゴサンドを

気前よく買った。


「私が惚れた唯一の味だ。翡翠の母の

ホットケーキも敵わないぐらいにね」

「すごい……美味しい……ね」


 あなたもイチゴサンドの味に

笑顔を浮かべていた。


「いやあ、祭りはどこに行っても

楽しいものだよな」

「盆踊りも……やるみたい……」


 櫓の周りでは浴衣を着た子供達が

盆踊りを踊っていた。その中で

水色の浴衣の蒼穹と桃色の浴衣のキニップも

並んで楽しく踊っていた。


「いやあ、みんな素晴らしい。けど

中でも蒼穹とキニップは特別目立つよ」

「目の光が……ここからでも見えるから

……ね」


 そこに、浴衣姿の翡翠も来た。


「あ、求ちゃん、楽しんでる?」

「もちろんさ。二人ともとても素敵さ」

「こうして一緒にお祭り楽しむのも

中学の夏以来かしらね」

「そうだな……さて、これから翡翠と

ちょっと大事な話があるので

君と聖流は自由に楽しんでくれたまえ」

「わかり……ました」


 あなたと聖流は求から離れて

自由に楽しむ事にした。

祭りの中の蒼穹とキニップを眺めながら

翡翠と求は話し合っていた。


「なあ翡翠よ、この二人についてだが」

「どうしたの求ちゃん」

「二人とも、まだ学校に通った事が

無いんだったよね」

「ええ、そうですけど」

「そこでだ。君が以前先生していた学校に

体験入学させてみるっていうのはどうだ?」

「体験入学?」


 求からの思わぬ提案に驚く翡翠。


「今は君の塾で読み書きしているんだけど

学校のような所での活動も経験させれば

将来の選択肢にも繋がると思うのでね」

「しかし、二人は眼光症。先生や子供達が

受け入れてくれればいいんだけど」

「大丈夫。昔と比べたら眼光症の理解は

ある程度進んでいる。それに

ごく普通の子供達にも眼光症を教えられて

良い学習になるさ」

「……それじゃあ」

「あくまで体験入学だから、様子見で

行く日を決めて慣れさせればいい。

そこに馴染んでいるようなら、そのまま

生徒として勉強出来るようになるさ」


 蒼穹とキニップを学校に通わせる提案に

翡翠はこう答えた。


「私も、蒼穹の将来の事、少し考えて

いました。このまま私の勉強だけ教わっても

私みたいな大人になれるかが心配で」

「私も、そう思っていたからだよ。

必要な物はこちらで用意するし

手続きも代わりにしてあげるよ」

「求ちゃん……ありがとう」


 そこに、盆踊りを終えた蒼穹とキニップが

駆け寄って来た。


「お母さん、盆踊り見ててくれた?」

「ええ、とっても素敵だったわ」

「私こういう踊り初めて!楽しい!」

「この土地の文化、理解してくれて

とても嬉しいよ」


 すると蒼穹が翡翠に質問した。


「そういえばお母さんと求さん、さっきは

何を話していたの?」

「そ、それは今度、教えてあげるね」

「うん、分かった」

「キニップにも今度教えてよね!」


 学校の件を今は内緒にして

翡翠達は夜空を見上げる。

蒼穹とキニップの手には

綿飴の付いた箸が握られている。

祭りの夜と言えばやっぱアレだろう。


ヒュー……ドドーーーン!!!!!!


 空に綺麗な花火が上がる。

翡翠と蒼穹は毎年見ているけど

キニップにとっては初めて見るものである。


「すごーい!!!なにこれー!!!」

「あれは花火って言うんだよ」

「はなび!?あっまた光った!!!」


ヒュー……ドドーーーン!!!!!!


初めて見る花火に大興奮のキニップ。

すると今度は……!


ヒュー……ドドーーーン!!!!!!


「あ!僕のTシャツの雲のマーク!」

「私の服のイチゴのマーク!!!」


 蒼穹の雲とキニップのイチゴのマークの

花火が打ち上がった。

水色の雲とピンクのイチゴ。

その花火は二人にとって一番綺麗に見えた。


「来年も一緒に見ようね、キニィちゃん」

「うん、また踊ろうね、ソウくん」


 二人は花火が止まるまで

夜空を見続けていた。


   * * * * * * *


 祭りは終わり、求達も帰る時間になった。


「それじゃあ、例の件の事もよろしく頼むよ」

「またね、求ちゃん。さて、蒼穹も

寝る支度しましょうね」

「それじゃあキニィちゃん、また明日」

「おやすみ、ソウくん」


 さて、祭りは楽しかったかな。なんて

その表情を見ればすぐに分かるよ。

今日は二人の体力測定も出来て

お祭りも楽しめて至れり尽くせりな一日だ。


 そして、研究所に帰ったら

蒼穹とキニップを学校に通わせる準備を

しなくてはならないな。よければ君達も

手伝ってくれるかな。眼光症の理解者を

これから先に沢山増やさなければね。


 それじゃあ聖流君、研究所まで

お願いするよ。


 第15話へ続く。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る