第2期:蒼穹とキニップ
第13話 仔山村の海
都会の外れに建っている研究所。そこでは、生まれながらに特異な体質を持つ人間の生体研究が日夜行われていた。中でも、先天性眼球発光症、略して眼光症の研究者であるこの私、白部 求は、友人の翡翠が眼光症を持っていた事がきっかけでこの症状を解明し、全ての眼光症患者が笑顔で過ごせる世の中を目指して、沢山のスタッフと共に研究に励んでいた。
この物語を見ている君も眼光症の秘密を知るために研究者となった私の助手である。君は今日もいつも通りに私の研究室の扉を開ける。
やあ、君か。待っていたよ。いやあ、ここ一ヶ月で翡翠達の住む仔山村は大きく変わっていったね。桃色の瞳を持つキニップが蒼穹と出会い手を繋いだ。その日から二人の物語は大きく動き出した。君もこの間は仔山村に直接来て、あの子達と遊んだね。どうだったかな?
……黙ってるって事は、楽しかったって事なんだね。それは良かった。さて、昨日も翡翠から電話で近況を聞いて、その話をまとめていた所だったんだ。今回も楽しいお話が出来そうだよ。
それじゃあ、久しぶりに語ってあげようじゃないか。輝く瞳を持つ人達の物語を。
早苗月 令舞 Presents
『あおぞらきのみ』2nd Season
* * * * * * *
2020年7月5日。美山蒼穹、キニップ・ベリーニ、8歳の夏。
蒼穹とキニップが出会ってから、1ヶ月。この日の仔山村は、夏の暑さが強まり始めていた。
「海水浴には、ちょうどいい気温みたい」
窓から夏空を見上げる蒼穹の母翡翠。タンスから蒼穹に着せる服を取り出すと、緑の瞳で蒼穹を見つめて朝を告げた。
「蒼穹、朝よ、起きなさい」
「う、う~ん……おはよう、お母さん」
「今日は海水浴に行きましょう。さあ、着替えて降りていらっしゃい」
「は~い。ふわぁ……」
蒼穹は水色の光を宿す瞳を開く。起き上がった蒼穹の前には、翡翠が用意した着替えセットが置かれていた。いつもの水色シャツと青い短パン、そして青い海水パンツである。蒼穹はパジャマを脱ぎ、用意された着替えを身につけると、脱いだパジャマを洗濯物かごに入れて、朝食の部屋へ行く。そこでは、翡翠と父の翔多が食事を用意して待っていた。
「起きたのね。さあ、ご飯にしましょ」
「今日は今年最初の海水浴か。向かいのキニップも一緒なんだよな」
「うん、キニィちゃんも行きたいって言ってたよ。今日はたまごトーストかあ」
「フレンチトーストと言うのよ。さあ召し上がれ」
「いただきまーす」
朝食を食べ終わると、蒼穹はお気に入りの青いボールを抱え、両親と家を出発した。
「あ、ソウくんおはよう!」
「やあ、キニィちゃん、おはよう」
向かいの家から、丁度キニップと両親が出発した所だった。キニップは桃色の瞳を輝かせ、ピンクのタンクトップと赤いスカートの服装で来ていた。
「今日は私も水着着てるんだよ!早く見せたいな!」
「ほらほら、慌てちゃダメだっテ。向こう着いたら見せまショ!」
「いやあ、娘がこうもはしゃいでいるのはここでの海水浴が初めてだからだろうナ」
キニップの母モアと父ガンツも仔山村の海を楽しみにしていた。
「今までは私と蒼穹と翔多で行ってたので新しいお友達と一緒に行けて嬉しいわ」
「仔山村の人達、ああ見えて何かと都合が合わない事が多くてな。大抵、俺達三人で行ってたんだ」
翡翠と翔多は去年までの事を軽く話す。
「それじゃあ、みんな揃った所で出発!」
蒼穹が言うと、六人は仔山村の東にある浜辺へと向かって歩いていった。
・・・
蒼穹の家からおよそ30m程歩くと、そこには美しい浜辺が広がっていた。波もさほど強くなく、海水浴を楽しむには最適な環境となっている。これも村長の風見が丁寧に整備してくれたおかげ。遊んだ後はシャワー小屋で身体も洗える。
「それじゃあ、今から水着になるよ」
翡翠は蒼穹にバスタオルを巻き、その下で蒼穹は衣服を脱ぎ、畳んだ。一方のキニップも同じように着替えた。初めてお互い水着姿を見せる蒼穹とキニップ。
「ど、どうかな……」
「ソウくんすごくステキ!私のもどう?」
「キニィちゃんも……素敵だよ……///」
キニップは桃色の子供用水着を着ていた。胸はチューブトップになっている。そこに、大人達も水着姿となって二人の前にやって来た。
「今日は思いっきり、楽しむわよ。」
翡翠は緑色のビキニを纏っていた。母の水着姿を見たキニップは驚いていた。
「翡翠せんせぇすごい!」
「まあ、そう言って貰えて嬉しいわ」
「今日もいっぱい遊ぼうね」
そこに翔多も水着姿を披露した。
「俺も気合い入れてみたぞ」
明らかに、ふんどし姿であった。蒼穹とキニップも呆気にとられていた。
「父さんのも何だか凄いね。」
「ワビ・サビを感じるよー!」
そこにモアもやって来た。
「この水着も、表に出すのは十年ぶりネ!」
モアの着る黄金の煌めきを放つビキニはかつてグラビア界を震撼させた伝説のオーラを放っていた。
「わぁ……キニィちゃんのお母さん凄い」
「おかーさん昔、モデルやってたんだよ!」
蒼穹にはかなり刺激が強かった。最後に、ガンツも水着姿を披露した。
「このボディ、一日たりとも鍛錬を怠っていないゼ!!!」
ガンツは翔多をも凌ぐ肉体美を太陽の下に輝かせていた。
「何という筋肉……俺にも真似出来ねえ」
「この両親にして可愛い娘がいるのも納得出来ますね」
翡翠と翔多も驚愕する程だった。こうして、水着披露会を終えると、六人は海へと飛び込んだ。
ザッパーン!!!
「こんなに綺麗な海、初めてだよ!」
「僕も毎年、ここで泳いでいるんだ」
「私もベリーニ号であちこち行ってた時は川に来たらいつも泳いでいたの!こういう時はもっと泳ぎたくなっちゃう!」
「あんまり、遠くには行かないでね」
キニップは大はしゃぎで泳いでいた。蒼穹はゆっくり泳いでいた。その様子を優しく見守る大人達。
「ベリーニ号であちこち行ってた頃はここまで綺麗な海を見た事が無かったナ」
「そうネ。こんなに気に入ってくれて私達も嬉しいワ」
「何だか、初めて蒼穹をここに連れて来た日の事を思い出すな」
「ええ。蒼穹、海のしょっぱさにびっくりしていたわね」
しばらく海水浴を楽しんだ後、シャワー小屋で身体を流してから浜辺にシートを敷いてパラソルを刺して、みんなでお昼ご飯にした。翡翠のバッグからは今朝沢山作ったフレンチトーストサンドを取り出して、モアのバッグからはベリーニ号名物の色々なサンドイッチを取り出した。
「いただきまーす!!!」
お互いのサンドを食べ比べながら語り合うひと時。
「ソウくん、これ美味しい!どうやって作ったの!?」
「パンに溶き卵を浸して焼くんだって。」
「すごーい!おとーさん、今度はこのたまごサンドイッチ作ってよ!」
「今までそういう発想は無かったからナ。新商品のヒントにさせてもらうヨ」
「それにしても凄い筋肉の持ち主がここまで美味しいサンドを作れるとはな」
「思えばあの肉体美に惚れ込んで私からプロポーズした事を思い出したワ」
「モアさんも、人を見る目がありますね」
昼食を食べ終えると、蒼穹は家から持って来た青いボールを取り出した。
「キニィちゃん、今日もやってみよう!」
「うんっ!ソウくん!」
蒼穹とキニップはビーチバレーを始めた。
ボールをトスし合う二人。だが……
「いくよーーーそれーーーっ!!!」
バシッ!!!
「あっ!!!」
キニップが飛ばしたボールは、勢い余って海の方向へ落ちていった。
「ああ……」
「ソウくん!私、取りに行ってくる!!!」
「あっ!?」
ザバァッ!バシャバシャバシャバシャ……
キニップは海に飛び込み、泳いでボール取りに行く。
「お母さん!キニップが!!!」
「えっ!?」
翡翠を呼ぶ蒼穹。そうこうしている内にキニップは泳いでボールを手に取り、ボールをビート板の代わりにして岸まで泳ぎきった。
「はあ……はあ……」
息が上がるキニップ。ボールはそれほど遠くまで行かなかったので回収出来た。それでも並の子供の体力では最悪の場合溺れていたかもしれなかった。これも眼光症のチカラ、なのだろうか。
「ソウくん、ボール、取ってきたよ」
「キニィちゃん、どうして?」
「これはソウくんの大切な物なんでしょ」
キニップは蒼穹にボールを渡した。そこに、翡翠とモアが駆けつけてきた。
「キニップ!何してたノ!?」
「おかーさん、このボールはソウくんの大切なものだから取りに行ったの!」
すると、モアはキニップの肩に手を当て涙目になりながら言った。
「キニップ、もし溺れちゃったらどうなっちゃうと思ってタ?二度と皆と会えなくなるかもしれないのヨ……!」
「おかーさん……」
「だから、今度また大変な事があったら自分だけで何とかしようと思わないデ。もし何かあったら……ワタシ……」
「おかーさん、ごめんなさい……」
その様子を見た蒼穹もキニップに言う。
「ボール取ってくれて良かったけど、僕もキニィちゃんに何かあったら大変だからこれからはあんまりムチャしないでね」
「分かったよ、ソウくん……」
翡翠も二人を見つめて安心した。
「キニップが無事で良かったわ。今日はこの辺でお開きにしましょう」
ひとまず、事は丸く収まりそろそろ家に帰る時間となった。その後六人はシャワー小屋で身体を洗い、最初に着た服に着替え直すと家に向かって歩き出すのであった。
「海水浴、また行こうね、キニィちゃん」
「うん、約束だよ、ソウくん……」
* * * * * * *
以上が、つい昨日あった出来事だ。眼光症を持つ者は身体能力が高いというが、まさかこれほどのものとはな。今度はちゃんと安全を確保した上でキニップの泳ぎをよく見たい所だな。
さて、そろそろアイスが食べたくなった。冷蔵庫に君の分もあるから二人で食べようではないか。そしたらまたいつものように研究を始めよう。君も、君しかいないから、あんまり無理はするものじゃないぞ。
それでは、レッツアイス。
第14話へ続く。
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