第4話 同じクラスの青木翔多

 これで、四度目の邂逅かいこうとなるかな。眼光症研究者の白部求だ。


 あの事故の後、アスリートになる夢は絶たれたが、翡翠の想いを受け止めた事で、もうひとつの夢を追い始める事にしたんだ。私と翡翠は別々の高校に通う事になったけど、お互いに近況報告をして日々を過ごしていた。


 私の机に写真が飾ってあるだろう。あれは中学生の頃に翡翠と一緒に撮ったんだ。左にはあの頃の翡翠がいて、右にはあの頃の私がいる。まだ私がアスリートを目指していた頃の写真だったんだ……。


ガバッ


 すると、私は君に顔を向けて、顔を隠す前髪を右手でめくり上げた。その顔は、右目は写真の姿のままだったが、左目はかつての事故で潰れ、目があった部分は縫い合わされ、左目から頬にかけて今も消えない傷が残っている。


 怖いか?


 ほとんどの人はこの顔を見て怖いと思うだろう。眼球が光る奇病よりも、こっちの方が怖がると思ってるよ。それでもこの傷は新たな夢に向かう事を誓った証。私自身の誇りにしているんだよ。


 ……前置きが長くなったな。今は前髪で素顔を隠して研究に励むとしよう。眼光症のデータ収集のためにも、翡翠には毎日の出来事を事細かく聞くようにしていた。だがある日、私も思っていなかった出来事が、電話を通して私の耳に入ってきたのだ。今日はその日の電話で聞いた翡翠と彼女の運命を変えるかもしれない人の出会いの話を教えてあげよう。


   * * * * * * *


 2003年7月12日。美山翡翠、17歳の夏。


 高校2年生となった翡翠。夏休みも近付くこの頃。翡翠のここ最近のお楽しみは近所のゲームセンターで、色々なゲームをプレイする事だった。格闘ゲームやシューティングゲーム、音楽ゲームなど、翡翠はあらゆるゲームでハイスコアを出したり対戦でも連勝を重ねていた。幼い頃から両親と楽しく遊んでいたゲームを、翡翠は今でも楽しんでいるのである。


「やあっ!そこおっ!!!」


 ゲームをしている間の翡翠はまるでこれまでの悲しい記憶を吹き飛ばすかのような勢いで獅子奮迅の活躍を見せるのである。


「おおっ!今日もすげえぜミドリィさん!」

「あのコンボが決まる所は見ててスカッとするよなあ!」

「高難易度のあの曲もいとも簡単にクリア出来るしな!」

「この店のゲーム、全部クリアしたって噂だぜ」


 翡翠は「ミドリィ」という名前でこの辺りでは有名だ。RPGなどでも、主人公の名前にしているという。いつしか、噂を聞いた名だたるゲーマー達がミドリィに挑戦しに行ったが、みんな敗れていった。戦ってみての感想はというと


「あの女子は楽しんでゲームをプレイしている感じだった」

「まるで俺達の手の内を読んでいる感じだった」

「あと100回戦った所で勝てる気がしないよ」


 といった感じだった。


「さて、今日も沢山楽しんだし、帰るか」


 ここでミドリィこと翡翠は普通の女の子の顔に戻り、ゲームセンターを後にした。


 帰り道、今日あった事を求にどう伝えようと考えながら歩いていた。かつての事故の事で、気軽に誰かと一緒にお出かけする気分にもなれないでいた翡翠は、一人で歩いていると求と過ごした日々を思い出しそうになる。


「求ちゃん、こうしている間にも科学の勉強を色々と進めている所なのかな…………!?」


バッ!


 すると、横から何者かが翡翠の手を掴んで路地裏へと引きずり込んだのだ。突然の出来事に意識が一瞬途切れ、気が付くと目の前にはガラの悪そうな三人の男性が翡翠を睨んでいたのだった。


「な…何……?」

「てめえがあのミドリィとかいう奴か」

「ホントに目が光ってやがる。ゲームばっかりしてるからこうなったんじゃねーの?」

「ゲームじゃ俺らの負けだけど直接やり合えば簡単に勝てるんじゃないかと思って待ち伏せていたのさ!」


 先ほどのゲームで翡翠に負けた3人はその腹いせに卑劣な行為によって翡翠を襲おうとしていたのだった。


「さあ、どう味わってやろうかな……」

「いや…誰か助けて……!」


 その言葉が聞こえた人はいたのだろうか。答えは…否……の、逆である。


「何をしているんだ!!!」


 その声の主は、翡翠と同じ学校の男子生徒であった。たまたま路地裏近くを通りかかって気付いたというのだ。


「何だお前は!」

「その子が嫌がってるじゃないか!離してやれ!」

「ああうるせえ!そういう正義面が俺達は大っ嫌いなんだよ!」

「まずはそこの生意気野郎からだ!やっちまえ!!!」


 3人はその男子に襲い掛かって来た。すると、男子はすぐさま拳を構えて……!


「ワン!ツー!」


バシッ!バシッ!


「アッパー!」


ズバッ!


「ラウンドハウスキック!!!」


ズゴォッ!!!


 男子の攻撃のキレは、その辺の素人では出せるものではない。あっという間に、暴漢三人は地面に倒れた。


「ひ、いてえ……!」

「なんて強さだぁ、バーチャルでも現実でも俺らは弱いのかあ!」

「お、覚えてやがれえええ!!!」


暴漢三人は情けなく退散していった。


「大丈夫か?」

「あ、助けてくれてありが……!?」


 翡翠の窮地を救った男子。彼こそが同じ学年で同じクラスに通う


 青木あおき翔多しょうただった。


 彼は独学で格闘技を覚えており、それが今、役に立ったというのだ。


「大丈夫か?怪我は無いか?」

「え……私の事、助けてくれたの?」

「困ってる人がいたら助けるのが人のルールだろ?」

「そ、そうだけど……」

「お前だってちゃんとした人じゃないか。その緑色に光る目も、すごい所だ」

「え……この瞳を怖がらないの……?」

「当たり前だろ。同じクラスに通う人ぐらい、どういう人がいるのかは覚えておかないとな」

「はあ……改めて、助けてくれてありがとう」

「今日は大変だっただろう。家まで送ってやるよ」


翔多は翡翠を自宅まで連れてくれた。


「一人で出歩く時は気を付けろよ」

「翔多君も気を付けてね」


 自宅に帰る翔多を見送り翡翠は家に帰って来れた。母のホットケーキをありがたく食べて、今日の出来事をノートに書き記す。科学者の道を進み始めた友人の求に報告するために。


 その日の夜8時。翡翠は求に電話をかけた。


「もしもし、求ちゃん。今日はとっても凄い事があって……」


   * * * * * * *


 その話を聞いた時、正直な事を言って何の冗談だ!?と思ってしまったよ。あの翡翠が暴漢に襲われそうになった所を同じクラスの男子が助けてくれるだなんて。私だってそんな話、この日までは聞いた事が無かったよ。


 その日を境に、私は翡翠との電話の中で翔多とは仲良くやっているかを聞いた。日を追う毎に二人は少しずつ仲良くなって、お昼ご飯を一緒に食べたり、下校の間は一緒にいてくれたり、あの事件から一ヶ月後に、町内デートに出かけたというのだ。別に、いてなんかいないぞ。その話は、今度別の機会でお話しよう。


 何?翡翠は彼とチューはしたのか?エッチはしたのかって?チューはともかくエッチとはなんだ……///そんな事、私に聞くものではない……。んん…まあ…その……アレだ。


 翡翠と翔多は、高校卒業までの間は、友達以上恋人未満の関係でいたそうな。卒業後は、翡翠は学校の先生になるために大学に入り、翔多は、進学も就職もせずフリーターとして色々な仕事を転々とする身となった。翡翠の話によると、翔多は両親とは仲が悪いらしく、自分の好きなように生きたいためなんだとか。


 それから、紆余曲折を経て、翡翠は念願の教師の仕事に就いたのであった。赴任先は、翡翠が通っていた小学校。思い入れのある場所だそうだ。


 そのお話は、今度ここでしてあげるよ。翔多との付き合いはまだ続いているのかって?まあ落ち着け。それも一緒にお話してあげるから。では、今日はこの辺で。


 第5話へ続く。

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