第2話 初めての友達
やあ、君か。またここに来てくれてとても嬉しいよ。良かったら今日も、私の話を聞いてくれるかい。
さて、先日は緑色の瞳を持つ女の子の美山翡翠のお話をしたね。あれから、彼女に友達は出来たのかって?そうだな……。
もしも本当に、運命のいたずらなんて言葉があったなら、それはどんな出来事で何をもたらすと思うかな?私なら、あの日に起こった出来事だと言いたい。
美しい瞳を持つ、あの子との出会いから私の人生は、大きく変わった、いや……変わってしまったのだ。
あの夏の日を、私は生涯忘れないだろう。最高の友達に出会えた、あの日の事を。
* * * * * * *
1999年。美山翡翠、13歳の夏。
中学生となった翡翠は、入学してすぐに友達が出来なかった。やはり、この緑色の目は見る者を遠ざける魔力があるかのように。思い返せば、小学生時代には仲の良い友達は出来ず、クラスメイトからは、不思議な人とか不気味な奴とか色々思われていたのだった。
「今日も帰ったらお母さんのホットケーキ食べようっと」
翡翠は、授業は真面目に受けているものの、相変わらず他人との接触を避け、部活にも通わなかった。この日もいつもの帰り道を歩いている時だった。
「ふっはっふっはっふっはっふっ……」
後ろから、体操着姿の白い帽子をかぶった女子が一人で走って近付いて来た。翡翠は邪魔にならないように道を開けてあげた。
「ふっはっふっはっ……あっ…!」
女子は、翡翠の顔を見た瞬間、表情が変わった。そのまま立ち止まり、翡翠の顔を見つめてこう言った。
「緑色に光っている目、すごいじゃん!」
「え、あ、その……!」
「君は私と同じ学校の子だね。クラスの噂で聞いてたけどまさか本当にいたなんて!」
「す、すみません!失礼しま……」
立ち去ろうとする翡翠。するとその女子は翡翠の手を掴み、こうも言った。
「大丈夫!私は君の事が気に入った!」
「え……?」
「私は
体操着の女子の名は求。翡翠の目を見ても、怖がらない。初めての人だった。その人、求は翡翠の目を見てこう言った。
「良かったら、私のマネージャーになってくれるかい?」
「えっ、マネージャーって、部活とかやっているのですか?」
「部活も悪くないが、私は大人数と関わるのが苦手でね。君だけを専属のマネージャーにしようと思うんだ!」
「ええっ!!?」
求からの突然のお誘いに驚く翡翠。まだ心の準備など出来ていなかった。
「もちろん、無理にとは言わないよ。でも出来れば明日までにOKかどうか返事が欲しい所だな」
「わ、分かりました。ではまた明日よろしくお願いします」
「その様子なら、YESって事かな」
「え……?」
「じゃあ今日から君は私の専属マネージャーだ!私と君のたった2人で、顧問の先生もいない部活だけど、楽しくやっていこうじゃないか!」
「は、はい……」
どの道、翡翠にはYES以外に選択肢はありえないような勢いだった。こうして、求と翡翠の、たった二人の部活動の日々がスタートしたのだった。
* * * * * * *
キーンコーンカーンコーン
放課後、決まって行く所は近所の川の土手。求は翡翠が見守る所でランニングの訓練を始めた。
「ふっはっふっはっふっはっふっ……」
「また速くなりましたね。何でランニングをしているのですか?」
「そうだな、小さい頃にテレビで見たとある選手の姿に感動してね。いつかこんな風に、夢を与える人になりたいなと思って、小学生の頃から特訓しているのさ。もちろん一人でね」
「ずっと一人で寂しく無かったんですか?」
「私は心の中に憧れの選手がいれば、それで良かったんだ」
翡翠は一人で頑張る求の話を聞いて、自分と求は似た者同士だと思うようになった。
「良かったら、わたしも一緒に走っていいかな」
「おっ、君もランニングの素晴らしさをその身で知りたいか?」
「はい!仲良くなるには相手を知る所からだってお母さんから聞いた事があるので!」
こうして翡翠も求と共に、ランニングに打ち込む事となった。
「ふっはっふっはっふっはっふっ……」
「はっほっはっほっはっほっはっ……」
二人でランニングする事数十分。
「ぜえはあ……翡翠よ、そろそろ休憩にしないか?」
「わ、わたしはまだ走れますけど……」
「なんと……君の事、ガリ勉眼鏡君だと思っていたけど、体力も想像以上にあるではないか」
「え、そ、そうですか?」
「ここに来て最大のライバル現るって感じだよ。どうか君を我が最大の目標として認定させてくれないか?」
求は翡翠を、突然ライバルとして認定した。
「ええっ?そこまでしてくれるのですか?別に大丈夫ですけど」
「おお!いいのか!ありがとう!!!君は最高だな!!!」
「あはは……」
求の迫力に、圧倒されてばかりの翡翠。
「だが、今日はもう疲れた。何か食べて帰るか?」
「じゃあ、わたしの家に来ませんか?お母さんが美味しいホットケーキを焼いて待ってくれるんですよ」
「ホットケーキか。一切れぐらいなら頂こうかな」
翡翠は求を自宅へと招待した。母の郁恵が、ホットケーキを焼いている所だった。
「ただいま、お母さん」
「お帰り翡翠、あら、そこにいるのは?」
「白部求だ。後の伝説のアスリートと呼んでくれたまえ」
「あなたがこの間翡翠が話していた求ちゃんなのね。ゆっくりしていって」
郁恵特製の出来立てホットケーキを二人で頂く。
「おお……美味い!!!それに何だか体力がさらに付きそうだ!!!さっき一切れと言ったが、これなら何枚でも行けそうだ!!!」
「いつも心を込めて作ってくれるからお母さんの料理は最高なんだよ」
「なんと良い親を持ったものだ。翡翠は幸せ者だな!!!」
「えっへへ……」
求はその日以来、郁恵のホットケーキのファンとなり、週に一回はここに来て食べに行くようになったという。
「求さん」
「どうした、翡翠よ」
「なんでわたしを、マネージャーに選んだの?」
「君は優しくて付き合いやすそうだ思ったから。それに、その緑に輝く瞳は唯一無二の個性。理想の友達だよ」
「そ、そんな事って……///」
頬を赤らめる翡翠。今日のホットケーキは一際美味しく感じられたのをお互い、今でも覚えている。やがて日は暮れて、夜が迫った。
「それじゃあまた明日、よろしく頼むよ」
「また明日ね、求ちゃん」
求が帰宅後、父の慎吾が帰って来た。
「ただいま、今日はお友達と仲良く出来たかい?」
「うん、とっても良い感じだよ」
「じゃあ、夕飯を食べながら今日の事をお話しようか」
「今日の夕飯は冷やし中華よ」
求が友達になった日から、翡翠は明るく振る舞うようになり、求は以前にも増してランニングに精を出すようになった。まるで、お互いの足りない部分を補い合う仲になったかのように。
「今日の求はね、また速くなってて今日は一緒に走って……」
* * * * * * *
2000年某日。美山翡翠と白部求、中学2年生の遠足で。
「撮るよーっ、はいっチーズ!!!」
パシャッ
翡翠と求は二人の笑顔を写真に写した。
「求ちゃん、楽しいね!」
「ああ、そうだな翡翠よ!……ところで、翡翠には将来の夢ってあるのか?」
「将来の夢……それは、内緒」
* * * * * * *
翡翠と求は、今やお互いにとってかけがえの無い関係となっていた。
そう、あの日が訪れた後も……!
あの日とは、いつの事かだって?だが君はもう疲れただろう。また今度、お話するよ。ゆっくり休んでまたここに来てくれたまえ。
第3話へ続く。
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