第4話 どうやら私は疑われているらしい
木陰からあらわれた叔母上が私へ懐疑の眼差しを向ける。
わずかだが魔力の波動も感じるな、警戒状態か。
となるとどうやら、私はすでに怪しまれていたらしい。
ならば消すか?
――いや、まだその判断は早い。
余計な失踪者を出すのも面倒だし、ママ上を悲しませるのは不本意だ。
そこでまずは様子見に、軽い言い訳で受け流そうとしてみる。
「叔母さんが何か面白そうな事をしているのだと思って。興味が湧いて付いてきてしまったんです」
「えぇしっかり見ていたわ。魔力の残滓を追って来たんでしょう? 好奇心が強いのはわかるけれど、追い方は随分と手馴れているようだったわよ?」
だが藪蛇だな。
コイツ、なかなかに賢くて用意周到だ。
ママ上とはまさに対極の、知識と理詰めを徹底した賢者タイプの人間か。
「……それで、ここに何があるんですか?」
「ここは村の境目。つまり〝聖護防壁〟がある場所なの。姉さんか義兄さんに教えて貰わなかった? 『この領域の外に出てはいけません』って」
「あぁその事ですか。それなら確かに教えてもらいました。外は魔物で溢れていて危ないから出てはいけないのだと」
しかし言うに事欠いて、今さら聖護防壁の話ときたか。
聖護防壁とは、転生前に私が世界中で構築した保護領域の事。
その中では魔物や悪人もが力を抑えられる、人の生活圏を守る代物だ。
でもそんなもの、今どきどこにでもあるだろうに。
意図が読めんな、一体何が言いたいのだろうか――
「ならなぜ、ここにだけ聖護防壁が
「……えっ?」
「こんな不自然な事はありえないの。私はそこに意図的な何かを感じたのよ」
だが叔母のこんな一言を前に、私は思わず首を傾げてしまった。
聖護防壁が、「ここだけ」残っている……!?
どういう事だ?
それはおかしい。
確か聖護防壁は私が死んだ後でも機能し続けるように構築したもの。
星を巡る霊脈に力を注いで造り上げた、星の力の産物なのだから。
「今、世界は魔物の脅威に晒されているわ。だから新たな聖護防壁を構築するべく、多くの魔術師達が研究し続けている。けれどね、この村の防壁ほど完璧なものはまだ誰にも構築できはしない!」
ただ、こう話している内に謎が紐解けて来たぞ。
おそらく、私の処刑に使った転送魔術が不完全だったのだろう。
だから霊界道へ放り込む際、うっかり星との繋がりに不具合をもたらしたのだ。
何十人もの高位魔術師を集めていたのに、まったく情けない話だな。
となると、この村の聖護防壁が残ったのはさしずめ、私が処刑直後にここへと転生した事で維持されたからか。
だがそう唸るのもわかるぞ。
あの聖護防壁はすでに失われた技術『古代アルティシアン星霊特術式』を応用した私の創作秘術なのだから。
それで凡人どもがすぐさま同じ術を使える訳もなくて憤慨しているのだろう。
逆ギレもはなはだしい。
「そんなものが未だ残り続けている原因を探そうとしていたのだけれど、すぐに見つかって手間が省けたわ」
「あの、誤解だと思いますけど」
「そうかしら? わずか三歳で大人のようにふるまえる貴女を疑うなという方が無理な話よ。そもそも他国の言語なんて誰に教わったのかしら?」
「それはママ上から――」
「メーネス姉さんは確かに知識もあるけれど、他人に物を教えられるようなできた人間では無いわ。ダグサ義兄さんはそもそもが読み書きすら困難なド底辺クソ野郎ですしね」
まぁその焦りはわかるのだが。
だからと言って縁者にその言い草はちょっとひどくない?
しかも二人の実の娘に対して。
魔戦王だった私でもそこまでは言わないよ? 私怨入ってない?
「魔術も村長に習ったとか言っても無駄よ。あの人は確かに昔学者だったけれど、魔術に関してはからっきしで人に教えるのにも匙を投げるくらいなのだから」
ただ、それでいて冷静ではあるのだろう。
確実に外堀を埋めて来て、私の逃げ道を奪っていくかのようだ。
さすが故郷だけあって、この村に関しては私よりずっと詳しいらしい。
となるとまさに藪蛇、突いたら蛇どころか
「……理解できる事を理解したまでです。話はそんな事だけですか? なら興味が無いから私、家事があるので帰りますね」
だったらここは一旦引き下がった方がいい。
よけいな言い訳を返してドツボにハマるよりもな。
「そうはいかないわ」
「……ッ!?」
「悪いけれど、貴女をもう逃がすつもりは無い」
だがどうやら私はすでに叔母上の術中にハマっていたらしい。
突如として、薄暗い周囲に無数の輝きがともり始めた。
この波動はすべて、魔力かッ!?
しかもいずれも、殺意の込められた魔導式……!
好きな場所に設置可能な、遠隔操作型の戦闘魔術だ。
「貴様が何者かはわからない。けれどもし本物のミルカと入れ替わったなどというような事実があるのならば、今ここでアタシが貴様を滅するッ!」
この女は本気だ。
本気で私を殺すつもりでここに誘い込んだのだろう。
そしてその為にあらかじめ、無数の魔導式トラップを形成していたのだ!
「我が名はアウスティア王国・第一級国家錬成術士、イーリス=イオス=アイヴィー! ミルカを名乗りし怪しき存在よ、貴様を我が名のもとに断罪しようッ!!」
更には魔杖をも呼び出し臨戦態勢へ。
周囲の輝きも一層強さを増し、今にも何かが放たれそうな雰囲気だ。
しかしまさか叔母が第一級国家錬成術士とはな。
一筋縄ではいかない相手が初手障害になるとは思いも寄らなかった。
まったく、私は相変わらず運が無い。
どうしてくれようか、この危機的状況……!
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