第18話 これからの2人

元彌が落ち着くのを待って、また奏が口を開く。

「元彌、君の気持ちはとても嬉しかった。本当だよ。でもね、まだ僕は誰かを愛するのが怖いんだ。君の事は信じてるけど、また離れたらと思うと、始めるのがとてつもなく怖い・・・」

奏は泣きそうな顔で元彌を見つめる。元彌は奏の体を抱き寄せ、優しく抱きしめる。

「わかってる。奏が怖がる気持ちはよくわかる。俺はまだ今のままでいい。あの人を選ばなかった事だけで俺は嬉しいんだ。この先、奏が他の誰かを選ぶかも知れないけど、奏の選択肢の中に俺はいたいから、それは俺が努力すればいい。だから、奏は何もしないで。俺がずっと奏の一番でいられる様に努力するから」

「うん・・・わかった。とりあえず僕はあの部屋から出る。崇は納得してくれるかはわからないけど、ちゃんと終わらせる。だから僕を見守ってて」

「うん・・・俺がいつでもいる。小さい時に奏が俺を沢山慰めて励ましてくれた様に、俺もそばで支える。もうあの時みたいに弱い子供じゃないんだ。奏を今度は俺が支えるから」

「ふふっ、それはどうかな?今でも泣き虫みたいだけど?」

「これはっ、ちがっ、奏が悪い。奏が俺を泣かせてるんだ」

「そうだね。僕が悪い」

ゴニョゴニョと言い訳をする元彌を奏はいつまでも笑っていた。


それから奏は引っ越しの準備を始めた。その間に崇とも何度か会って、きちんと終わらせた。本当はあの部屋を使ってくれと言われたが、奏はここは想い出が多すぎるからと断ったそうだ。

それから、あの日来た崇の相手がまた尋ねてきたが、何度も奏に謝罪していたそうだ。それから崇に別れを告げられたが、彼はまだ諦めきれないと奏に言い、崇が落ち着いたらもう一度向き合うつもりだと言っていたそうだ。

住むところが決まるまでとマンスリーに引っ越した奏だが、元彌の自宅付近に借りたので2人は頻繁に会っていた。元彌のオフ会にも参加して奏の顔に笑顔が増えていった。

時折、長年付けていたリングの跡が寂しいのか、無意識にそこを指でさする事はあったが、その表情は恋しいと言うより、ただ懐かしんでいる表情だった。

そんな日々が三ヶ月も続いた頃、奏の誕生日が訪れる。

秋も深まった10月20日だ。

平日ではあったが、その日の夜はみんなで集まった。奏には内緒でパーティルームを借りて飾り付けも派手にして奏にサプライズをする。

長らく誰かと誕生日をした事がなかったから嬉しいと、奏は涙を流して喜んでくれた。それを見た元彌も涙ぐむと周りから引くわーとドン引きされた。

楽しい時間が進み、すっかり出来上がったYUUが31歳の抱負をどうぞっと奏を立たせる。奏は照れながら席を立つと、ゆっくりと口を開く。

「えっと、30歳は色んなことが目まぐるしくて大変だったけど、元彌に再会できて、みんなとも友達になれて僕は幸せです。こんなに心が満たされるのは初めてかもしれない。だから、みんなには凄く感謝してる。それから・・・元彌」

急な奏の名指しに元彌はどきりとする。奏はゆっくりと元彌の元に歩み寄り、元彌の両手を取る。

「僕はそろそろちゃんと前を向こうと思う。そう思えたのは元彌のおかげだ。本当にいつもありがとう。まだ、少し怖いけど僕はもう一度信じてみようと思う。誰かを好きと言う気持ちを。その相手は元彌がいい。だから、僕の恋人になって」

奏の口から溢れる言葉が一瞬元彌には理解できなかったが、少しずつリフレインして頭に入ってくると元彌は大粒の涙を流し、うんうんと何度も頷きながら声を出して泣き始めた。

奏は泣き虫だなぁと言いながら、片手で元彌の頭を撫でる。そんな2人を見ながら周りも鼻を啜る。

「もっくんの初恋が叶った!」

一番先に声を出して喜んだのはYUUの彼女だった。涙を流して喜んでくれた。

その言葉を引き金に、周りが祝福し始める。

それが元彌を更に泣かせ、周りを困らせる。その日はいつまでも笑い声と涙が止まらなかった。

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