第15話 選んで欲しい

「そっか・・・」

元彌は泣き止んだ後、崇に会った事を伝えた。言い合った事は隠して、ただ奏に会いたがっているとだけ伝えた。

「あの人は間違えたけど、奏を想ってる事だけはわかった。だから、決めるのは奏だ」

「・・・・」

「奏・・・決めるのは奏だけど、俺、どういう結果になっても、奏の幸せがそれなら受け止める。だけど・・・」

もどかしい気持ちが言葉を詰まらせる。奏はそんな元彌を察してか、元彌の手を取る。

「元彌はどう思う?」

「俺は・・・俺は、奏が好きだ。奏達の年月にはどうやっても勝てない。でも、俺もあの人に負けないくらい奏が好きだ。奏を・・・ごめん」

どうしても言葉が詰まる。溢れる想いをどう伝えたらいいのかわからない。ただ涙が溢れ出る。

「元彌・・・・」

「ごめん・・・奏。奏を困らせたくない。でも、でも俺、帰って欲しくない。知って欲しいだけなんて、本当は思ってない。俺は奏を愛してる」

その言葉が出た瞬間、涙が次々と流れ落ちる。

「ごめん・・・俺、奏が好きだ。愛してる。初めてなんだ。こんなに誰かを好きになったのは・・・だから、うまく伝えられない。こんなのただ、ゴネてる子供みたいだ。ごめん・・・でも、俺にはこれしか言えないんだ。奏、好きだ。大好きだ。奏、俺を選んで・・・」

嗚咽を漏らす元彌を奏は黙ったまま抱きしめる。そして、ポツリと呟く。

「少しだけ、僕に時間をくれるかな?」

「うん・・・奏、本当にごめん」

何度も謝る元彌の頭を撫でながら、元彌が泣き止むまで奏は抱きしめ続けた。

目が覚めると、奏の姿は無かった。

ただ一枚の紙に短い伝言を残し、奏はどこかに行ってしまった。


あれから一週間経ったが、奏からの連絡はない。

あの人の元に戻ってしまったのだろうかと元彌は項垂れる日々を送っていた。その間にもあの部屋に行くまいと、YUUの部屋に頼み込んで行かせて貰ったり、RINとNANAのお泊まり会にお邪魔したりしていた。それでも、毎日行く訳には行かないので、何となく上司の部屋に行ったら、意外な秘密を知り、職場で気まずい思いをしたりと何とか日々を過ごしていた。

それでも起きている間は、ずっと奏の事を考えてた。

自分の想いは伝えた。それでも奏があの人を選ぶなら仕方がない。それが奏の幸せなら、俺もそれを願おう。きっと奏への気持ちは消えないだろうけど、それでもいい。奏が笑って過ごしてくれるなら・・・奏の笑顔は世界一可愛い。それがいつか見れるならそれでいい。

胸が苦しくなるのを必死に抑え込みながら、一緒に買った奏の服を仕舞う。

ぼーっと窓の外を眺めていると携帯の通知音が鳴る。のそのそと携帯を掴み、画面に目をやると奏の名前が映し出される。

その文字に手が震え始める。別れの言葉だったらどうしよう・・・そんな不安が元彌を襲う。何度か深く深呼吸してメッセージを開く。

(連絡が遅くなってごめん。今日の夜、あの部屋に来てほしい)

短い文面に元彌は青ざめる。どういう事?部屋に戻ったのか?不安が不安を煽り、震える手でパソコンを開き、クループチャットに文字を連ねる。

1人で耐えきれず、YUU達に連絡してしまった。するとすぐさま画面に文字が並ぶ。

「会ってこい」

「結果はまだわからないのに、びびってどうするの?」

「終わるにしても、始めるにしても会って話しないとダメっす」

元彌を励ます言葉が次々と流れてくる。その文面を見ながら元彌は決意する。

会いにいこう・・・奏の幸せを見届けよう・・・

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